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短編小説読書メモ34本目~千早茜『西洋菓子店プティ・フール』から

千早茜『西洋菓子店プティ・フール』を読了。最終話は『クレーム』。
主人公・亜樹の視点に戻り、前話で祐介から婚約破棄を告げられたその後が語られる。
前回も書いたが、亜樹は真っ直ぐで、目標に向けて邁進する一方、周りを見る余裕がない。良くも悪くも0か100しかない。そう頑なに思い込んでいる部分があるように見える。
自分の都合で、結婚に「待った」をかけたまま、その状態を保持している。本当に結婚する気はあるのか、と第一話を読んだ時もふと心配になった。
そして、祐介から見直しを提示されると、「ゼロ」宣言と見なしてしまう。(破棄された、全てがなくなったというのは亜樹自身の解釈ではないのか、と思う)
そんな「極端」とも言える亜樹の状態を象徴するのが、タイトルにもなっているクリームだ。泡立てるにも、加減があり、やりすぎると脂が分離して使い物にならなくなる。
亜樹の極端さ、余裕のなさは、「お前の菓子には甘さが足りない」、「『あれもできるこれもできる』と詰め込みすぎている」という祖父からの言葉からも明らかだ。
いつの間にか自分が見えにくくなっている。
自分が本当に何が欲しいのか。何が大切なのか。

「詰め込みすぎる」傾向は、私自身もよく言われるし、自覚もしている。「余裕」、「空き」の部分があるからこそ、固くなりすぎずに済む。立ち止まることも時には重要だ。
甘いお菓子が人を幸せにするのは、食べる相手に寄り添う部分があるから。時に苦みやスパイシーさもあるが、それもまた人生の一部。両方があるからこそ、成り立つものもあるだろう。

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