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短編小説読書メモ10本目〜笹原千波『宝石さがし』

短編小説も10本目。
その10本目に笹原千波さんの『宝石さがし』を読めたことは、良い巡り合わせだと思う。
まさに私が今一番読みたい話だったから。

正直、今月の前半は悩んでいる部分が強かった。
自分の書くものは本当にこれで良いのか、と。
一応テーマに沿って書いたつもりでも、中身が何となく足りない気がした。何とか形を整えて最後まで書いても、無理やり着地させた感の強い結びになってしまう。
そしてアートに関する記事以外にも、何か書けないか。何を書くか。どうしたら書けるのか。
そのような壁にぶつかるのは別に初めてではない。
何とか乗り越えられたのは、一からやり直すつもりで、向き合ったから、と言えるだろうか。
今一番何を書きたいか。何に心が動くのか。
答えが見つかるまでに時間がかかることもある。が、迷い、悩み、もがいた末には必ず何かを手にすることがあると信じたい。
『宝石さがし』も、そんな表現者(クリエイター)の物語だ。
今作の題材はバレエ。しかも主人公はデザイナー。友人の娘で東欧のバレエ団に所属するダンサーの振付作品のために、衣装をデザインすることになる。
華やかなバレエを舞台裏から、それも衣装デザインという観点から描くのが新鮮だった。

バレエと言うと、クラシックバレエが思い浮かぶ。コンテンポラリーは正直あまり興味が持てなかったが、ローザンヌ・バレエ・コンクールの決勝戦を見ている中で少しだけ面白い、と思えるようになった。ただ、同じ作品を踊っていても、人によって残酷なほどの差が出てくるものだと思った。クラシック以上に。ある人が踊っている時には「ふうん」と何となく見ていただけなのに、別の人の演技を見ていて思わずクス、と吹き出してしまうこともあった。作品を解釈し、自分のものにできているか、形をなぞるだけに終わっていないか、ということだろうか。
そして『宝石さがし』では、主人公のデザイナーの目を通して、新作の振付のプロセスが描かれる。
ジャンルは違えど、振付もいわば「創作」、「表現」だ。そこに何をこめるか。それがある程度見えていなければ、成り立たない。先日、歌川国芳国芳について書く中で、改めてそのことを感じたばかりだ。
ダンサー・美玖が、テーマとして設定したのはバレエダンサーを目指した自分の原点たる思いの「あこがれ」。
「何かになりたいって努力するのは、宝石を磨くのにたとえられることがあるよね。だけどほんとのスタートは、岩を割って原石を探すところなんじゃないかと思う。何もないかもしれないっておびえながら、自分を割るの」
そして見つけた石がどんなに小さくても、精一杯磨いてお客さんに差し出す。
美玖の見つけた答えが、私自身の深部にも刺さるのを感じた。


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