徒然日記~女三の宮のこと

最近、原稿を書く際のウォーミングアップも兼ねて、円地源氏の『若菜上』を書き写している。

毎朝、最低でも10分間の時間を取って、写経を進めているが、ちょうど新ヒロイン女三の宮の婿探しと、彼女の裳着(成人式)が行われたところまで来たところだ。
女三の宮は14歳。
朱雀院の3女で、母は今は亡き藤壺の女御(源氏の永遠の憧れ・藤壺女院の異母妹)。女御は院から寵愛されてはいたものの、弘徽殿の大后方の推す朧月夜尚侍に圧倒されて、不遇のまま、若くして亡くなったことが、この巻で語られる。
亡き人の忘れ形見である三の宮が、朱雀院は可愛くてたまらない。出家するにあたって身辺整理を進めていくなかでも、この母も後見になってくれる人もいない、頼りない愛娘を託せる相手がいないか、で思い悩む。
その話を聞き、「是非賜りたい」と立候補する者も出てきて、宮中の奥深くに大切に育てられた皇女への関心は俄に高まっていく。

そして絞られた婿候補は4人。
光源氏の息子・夕霧。父に似ず、真面目な性格で将来有望。しかし、最近、幼馴染みの雲居の雁と7年ごしの恋を叶えて結婚したばかり… … 。
蛍兵部卿宮。朱雀院、源氏の異母弟。皇族なので身分は不釣り合いではない。源氏の養女・玉鬘の婿の有力候補だったが、ゲットし損ねたので、なんとしてもそれに負けない身分の妻が欲しい。風流を好むが、人柄が軽薄に思える。
権大納言。女三の宮に「家司」になったつもりで生涯お仕えする、と意気込みは十分。ただし、身分が物足りない。
柏木。源氏のライバル・頭中将(現・太政大臣)の長男。「何としても身分の高い妻が欲しい」と、20代を過ぎても独身を通す、一途な男。才能もあるし、将来有望。しかし、年齢と身分が物足りない。(従弟の夕霧は柏木より年下)
とまあ、ダメ出しのオンパレード。
そして、最終的に源氏に落ち着く、というオチだが、正直、朱雀院の中では最初から答えは決まっていたような気がしてならない。(年齢だの身分だのは、明らかに言い訳)
まず夕霧。しかし、彼が新婚だから、父親の源氏に。朱雀院自身、昔からこの異母弟に少なからぬ思い入れがあったのもあるだろう。
そして、源氏も源氏で、すでに2、30年連れ添っている紫の上がいるにも関わらず、新たな「紫のゆかり」に興味を示し始める。(どうしようもないな… … )
ある程度内定したところで、いよいよ女三の宮の裳着(成人式)が華々しく行われる。
国産ではない、舶来の布だけを使い、まるで唐の后のように厳めしく豪華に行われた、と描写がある。
また、後の形見分けでも、少しでも由緒ある品は三の宮に全て渡してしまい、他の3人の娘には残り物を渡すなど、依怙贔屓が行われる。
こうして、朱雀院が大切に思い、格式を持って彼女を重んじていることは描写されるが、肝心の三の宮の姿、というものが全く見えてこない
豪華で厳めしい衣裳や調度品類に埋もれて、ぴくりとも動かない。そんなイメージだ。
求婚者たちも、女三の宮自身、というより、本来なら独身を通す皇女が、それも朱雀院に大切にかしずかれる皇女が自分のもとにやってくる、という栄誉、特別感を得たがっているように見える。一種の承認欲求とも言おうか。
実際、父にそこまで気にかけられていない他の三人の娘たちには、一人も求婚者が現れない。(女二の宮だけは、後に柏木に降嫁するが、その結末は… …)

三の宮本人が本格的に舞台に出てくるのは、鳴り物入りで六条院に入った後。
まるで人形(物体)のように父から、父の選んだ男のもとへと引き渡されてからになる。
彼女は、親子ほども年の離れた男の妻になることに何も言わないし、何も思わない。ただ、周りが整えたレールに乗って進む。それだけだ。
そして、数年後、やはり彼女の近くにいたおつきの小侍従が勝手に用意したレールに乗せられ、「密通」してしまう。
何も自分で決めることもなく、ただ流されて、行き着いた先がただ「恐ろしい」と感じた彼女は、初めて自分から「出家」(現世からの引退)を選ぶ。
ここまで考えると、本当に彼女の人生とは一体何だったのだろう。

私も昔はあまり深く考えずに何となく生きてきてしまった感はあったが、今はせめて、覚悟を持って自分でこの道を「選んだ」、と言える自分でありたい、と思っている。それができているかはまだまだ怪しいが。

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