ベルト・モリゾの眼差し
連載「肖像画と女心」のスタートに向け、ネタの棚卸しをしている。
今日は、ベルト・モリゾについて、手持ちの情報を片端から引っ張り出してみた。
エドゥアール・マネ、<スミレの花束をつけたベルト・モリゾ> 、1872年、オルセー美術館
ベルト・モリゾ(1841~95)。
印象派の女性画家。モネやルノワールに比べると、やや知名度で負けるかもしれないが、1874年の第一回から1886年の第八回まで、ほぼ皆勤賞だった。(第四回のみ、妊娠と出産のために出品せず)
エドゥアール・マネとは、ルーヴルで模写していた時に知り合い、家族ぐるみで付き合うように。(そして、後にモリゾはマネの弟と結婚する)
画家としてお互いに影響を与え合うのみならず、モリゾはしばしばマネのためにモデルとなっている。
エドゥアール・マネ、<バルコニー>(手前左の女性がモリゾ)、1868~9年、オルセー美術館
この<バルコニー>が描かれたのと同じ頃、マネの「弟子」になった女性が、エヴァ・ゴンザレスだった。
年齢は、モリゾより8歳年下で、しかも美人。
彼女を気に入ったマネは、肖像画を描くべく何度もポーズを取らせるものの、肝心の絵は遅々として進まない。
「もう25回も消しては書き直してる」
と、モリゾにも言われているほどに。
しかも、モリゾにとって面白くなかったのは、彼女はマネの唯一の「弟子」でもあるということ。
マネもマネで、モリゾに「君も彼女(エヴァ)を見習え」などと、神経を逆なでするようなことまで言っていたらしい。
やがて、モリゾはマネと決別し、彼が反対していた第一回印象派展への参加を選ぶ。
ちなみに、彼女が何だかんだで出来や進み具合を気にしていたエヴァの肖像画がこちら。
「……これはひどいわね」
モリゾは、絵を前にして、内心こうつぶやいたとか。
サロンにも提出したものの、批評家からも散々な評価を受ける。
「油彩で描かれた醜い平坦なカリカチュア」
「注目を引くためだけのお粗末な絵」
…まあ、確かに、上のベルト・モリゾを描いた作品に比べると、メリハリがなく、茫洋とした印象を受ける。
モリゾの方は、こちらに切り込んでくるような目力がある。
それもギラギラした感じではなく、しなやかさも感じさせる類の。
<スミレの花束をつけた~>に限らず、肖像画というジャンルにおいて、特に印象に残る作品は、やはり「目」の表情が良い作品ではないだろうか。