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短編小説読書メモ15本目~~千早茜『西洋菓子店プティ・フール』から②
短編小説も15本目。
とりあえず20本目まで行ったら、独立したマガジンとしてまとめようか、と考えていたら、なかなか読み進められなくなってしまった。気張りすぎると、筋肉に余計な力が入って、かえって動きにくくなるのはトゥル(型)の練習で知っているはずなのだが。
さて15本目は、千早茜さんの『西洋菓子店プティ・フール』から二話目の『ヴァニーユ』。
つまりはバニラだ。
このバニラが、作中には二種類出てくる。
一つは、合成香料で作られた安いバニラエッセンス。
そしてもう一つは、今回の主人公であるパティシェ・敦(亜樹の後輩)がスタッフとして務める店で使われる高価なタヒチ産バニラビーンズ。
これら二つに、敦が何となくという感じに付き合っている女性・ミナと、「憧れの先輩」である亜樹とが重ねられている。
読みながら、バニラの鼻腔の中でふわりと膨らむような甘い匂い、あまり濃厚だとしつこくて閉口するあの匂いを想像せずにはいられなかった。
「憧れ」は片思いの一種だ。好きで好きで心惹かれる、しかしその対象に比べると自分はあまりにも卑小で、隣に並び立つことをしり込みしてしまう。その事実に傷つかないよう、気づかないふりをして、「憧れ」や「尊敬」にすり替える。そして、距離が縮まらない、あるいは縮めるための努力をしないことの言い訳にする。そういう一面も人間にはあると思う。
「当たって砕ける」覚悟ができていたなら、と思うこともある。
が、後悔しても取り戻せないのも事実だ。だから前を向き、これからを見つめる。
私は50本読んで、このように思い付いたことを書いて、その先に何があるかはまだわからないが、何か「変わるもの」があることを信じている。