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短編小説読書メモ11本目~千早茜『西洋菓子店プティ・フール』より①
美味しそうなお菓子、特にケーキ類が出てくる話は何となく気になってしまう。華やかな見た目が、味がどのように文章の中で表されているのか。
千早茜さんの『西洋菓子店プティ・フール』も、何となく気になってはいながら、今まで手に取る機会がなかなか無かった本である。
舞台は下町の西洋菓子店。主人公は、店主の孫でフランスで修行してきた経歴を持つ亜樹。
連作の形を取っているため、全て通して読むことで、一つの大きな流れが生まれる仕組みになっているだろうが、とりあえずは一話ずつ読み進めていくことにする。
ということで、読んだ一話目が「グロゼイユ」。フランス語で赤すぐり。
文中の描写からするに、ヴェネツィアにいた頃、行きつけの菓子店(パスティッチェーリア)によく食べに行ったタルトレットの上に載っていたもので間違いあるまい。
赤い小さなビーズ玉のように丸くコロコロしていて、口に含むと舌を刺す酸味がある。
このグロゼイユが、主人公に女友達との妖しい記憶を呼び覚ます。
二人の関係は、いわゆる共依存というものか。特に相手は自分が離れていきそうなそぶりを見せるのを許さない。端から見ても面倒くさい子で、主人公以外に友達ーーー外とのつながりはない。そして、主人公自身も、自分は彼女のために生まれてきた、と思うまでになる。
しかし、そんな二人の関係はある夏の日を境に変化する。
わがままで甘やかされた、洋菓子のような少女だった友人も今では普通の専業主婦になってしまった。
今でもSNSを通じてつながってはいるが、あの頃のようなひりついた感情は、あの頃の危うい彼女はもう存在しない。それが少しだけ切ない。