短編小説読書メモ6本目~越谷オサム『夏のキッチン』とアンソロジー全体について
越谷オサム『夏のキッチン』で、アンソロジー『料理をつくる人』をようやく制覇!
忘れないうちに書いておく。
最後の話は、初めての料理に挑戦する小学生の男の子の話。
包丁の代わりにピーラーで人参を剥いたり、その途中でケガしたり、と苦戦しながらも、母のアドバイスを受けて、どうにか完成させる。
そして、終盤である事実が判明する。
この話の舞台設定が夏になっているのも、このオチが余韻をもたらす効果を強めているように思う。(夏とはそういう季節)
その後、本を置いて初めて気づいた。この表紙のカレーは、この『夏のキッチン』に由来するものだった、と。妙に細長い人参が印象的だ。
全体を通して読んでみて、気に入ったのは、秋永真琴さんと深緑野分さんという意外な結果に。千早茜さんも、独特のひんやりとしたテイストが癖になりそうだ。
西條奈加さんも、本編を読んでみたい。
また、アンソロジーにしろ、一人の作家の短編集にしろ、作品を並べる順番はかなり重要だと今回実感した。
例えば深緑野分さんの『メインディッシュを悪魔に』がトップバッターだったら、その一作を読んだだけでお腹一杯になってしまう。これはタイトルにもある通り、コース料理の中盤あたりに出すべきものだろう。
最初に西條奈加さんの『向日葵の少女』でほっこりした後に、千早茜さんの『白い食卓』て背筋を冷たくさせる。その後に、『メインディッシュを~』で、腹が落ち着くと共に温かくなるのを感じる。続く『冷蔵庫で待ってる』ですっと心が軽くなる。『対岸の恋』で、甘酸っぱい恋に隠された、舌を刺すような隠し味に少し驚いた後、最後は『夏のキッチン』のラストと共に解放される。
お気に入りの作家さんから食べるのも良いが、一度は頭から順番に読んでみることをおすすめしたい。
アンソロジーがコース料理ならば、作品の順番もまた技の一つとして楽しみたい。