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短編小説読書メモ16本目~白川紺子『下鴨アンティーク アリスと紫式部』から

「回転木馬とレモンパイ」
次は誰のどんな作品を読もうかと考えていたある日、唐突にこの一行が浮かんだ。
かなり昔に読んだ白川紺子さんのミステリー『下鴨アンティーク』シリーズ2冊目の表題作である。
読んだのは、ちょうどオレンジ文庫が創刊されてそう年月は経っていない頃だったと思う。
本はある年末に部屋を整理した際にブックオフに持っていってしまったため、図書館で予約して取り寄せることにした。
どうせならシリーズの一巻目もと思い、手に取ったのが、今回の『下鴨アンティーク アリスと紫式部』である。

このシリーズは、京都の古い洋館に兄と下宿人の慧と三人で住む鹿乃が、アンティーク着物に秘められた様々な謎を解き明かしていくミステリーである。
鹿乃は祖母に譲られたアンティーク着物が好きで、休日には「アリス」や「赤ずきん」などのテーマに沿って、帯や帯留めなどのアクセサリーと組み合わせたコーディネートを楽しむのが趣味だ。
魅力の一つはこのコーディネートの描写だ。まるで映像が目に浮かぶようで楽しい。自分も着て楽しんでみたいかも、と思わせる。実際に漫画や映像など目に見える形になったら映えるだろう、と最初に読んだ当時も思っていた。
着物は単体でも美しい。が、帯などの小物を加えることで、多種多様なアレンジができ、「表現」の幅が広がる。その面白さが、今回読んだ表題作『アリスと紫式部』からも十二分に伝わってくる。
二つ目の魅力は、作品の下敷きとなるテーマの幅広さと言おうか。例えば今回は、日本の古典『源氏物語』と、イギリスの児童文学の名作『鏡の国のアリス』。
どちらも、名前を聞いても「知らない」という人はまずいないであろう名作であることは共通している。が、なぜ、そしてどのようにこの二つが、一つの物語という皿に載せられるのか、とも最初は思う。
が、それを上手く縒り合わせ、噛み合わせるのは、作者の腕の見せ所だ。
源氏車の着物にまつわる、華族令嬢と継母の物語に、『源氏物語』の「葵巻」の車争いのエピソードが重ねられる。
恐ろしい生霊(怨霊)となる六条御息所は、本当にその通りの人物だったのか?周囲の噂や認めたくない自身の思いとにがんじらめになり、押し潰された哀れな女性だったのではないか?
生霊を祈祷で祓おうとする人を見た時の紫式部のコメント(和歌)も興味深い。
そして着物の持ち主が語る「継子いじめ」の話の裏に隠れた真実とは… … ?

このシリーズは、着物と古今東西の文化の多種多様な「マリアージュ」を楽しませてくれる、とも言えよう。

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