【笛吹市青楓美術館】ぶどう畑の中の最古の美術館(3)「絵手紙展」と「アートギャラリー」
はじめに
ぶどう畑の中にある山梨最古の美術館こと笛吹市青楓美術館ですが、一般の方々の作品を展示する場も提供しています。それが「しあわせ絵手紙展」と「ぶどう畑のアートギャラリー」です。
「しあわせ絵手紙展」は10月に本年の応募作品に入れ替わりました。「ぶどう畑のアートギャラリー」も毎月展示を入れ替えています。
エントランスと階段部分を利用した小さな展示ではありますが、ギャラリー目的の観覧者も訪れていてそれぞれ一定の人気があります。
なお、青楓美術館の概要については拙稿をご覧ください。
現在の常設展示「小池唯則と津田青楓」については拙稿をご覧ください。
縄文ZINE
ところで考古系の博物館に置かれているフリーペーパー「縄文ZINE」第14号でインタビュー記事と表紙を飾っているヒップホップ・グループstillichimiya(スティルイチミヤ)ですが、メンバー全員がこの辺りの人たちです。家業などしながら活動しているそうです。
マリーゴールドにつつまれる
訪問時は紅葉シーズンでしたが、周辺のぶどう畑の紅葉とともに美術館はマリーゴールド(紅黄草)の花がいっぱいに咲いていて迎えてくれました。
2009年の閉館危機
青楓美術館は2009年(平成21年)に入館者の減少を理由に閉館を決めたことがあります。しかし、それまで市側の取り組みが無かったことを指摘され、入館者数の増加に向けた取り組みを行ったところ入館者数は回復し2010年(平成22年)に閉館の方針を撤回したという経緯があります。
そのとき始めた企画が「しあわせ絵手紙展」と「ぶどう畑のアートギャラリー」でした。
第9回しあわせ絵手紙展
笛吹市として、ほぼ1年を通じて「しあわせ絵手紙展」の作品を募集をしています。応募作品のすべてが青楓美術館に展示されます。毎年10月に入れ替えを行っています。絵手紙展のみの観覧は無料です。
今年も10月より展示が入替えられておりました。このあと2023年の10月まで1年間に渡って、青楓の作品とともに来る人の目に留まることでしょう。
今回も題字は笛吹市在住で詩壇の登竜門「H氏賞」の選考委員長を務める古屋久昭氏の筆です。
階段の壁に飾られた作品は昨年よりもたいへん多くなっています。作品数は272点で昨年からほぼ倍になったとのこと。これまでと同様に全国から作品が寄せられているそうです。
作品はそれぞれ個性的です。どれもワンカットに言葉をうまく添えています。また、これだけ並ぶと壮観です。
なお、これまでの絵手紙の作品は、各年度ごとにはがきホルダーに収められ、青楓作品の展示室の畳の部屋で見ることができます。
ぶどう畑のアートギャラリー 「ありがとう左手」
「ぶどう畑のアートギャラリー」は、受付前のエントランススペースをサークルや個人の作品の発表の場として月替わりで提供する小さなギャラリーです。本ギャラリーのみの観覧であれば無料です。
11月の作品展は「ありがとう左手~左手に思いを託して~曽根平治作品展」(2022.11.1~11.30)です。こちらでの作品展は曽根さんにとって4年ぶり2回目となります。
山梨日日新聞(2022.2.1)に氏を取材した記事がありました。それによりますと、曽根平治さん(81)は、2011年に仕事中に脳梗塞を患い右半身が不自由になります。その後、週1回のデイサービスで絵手紙を学んだことがきっかけとなり絵を始めます。右半身は麻痺は残っているため、利き腕手はない左手で描いています。「絵を見て喜んでくれる人がいることが楽しい」「努力をすればなんとでもなる」とは本人の言葉。
展示されている作品数は22点です。似顔絵、風景、アニメなど自由なテーマです。アニメ映画「未来のミライ」の模写もよく出来ています。またゴルゴ13もそっくり。似顔絵はお世話になっているデイサービスのスタッフとのこと。また、白川郷などの風景画は訪れたわけではなく写真を見て想像して描いたものです。花火はスクラッチアートで表現したものです。
サインペン、蛍光ペンで描いています。細い色ペンで着色していくので塗りつぶしは相当の根気がいります。一つの作品にかける時間は1ヵ月~2ヵ月とたいへん気の遠くなる作業です。
またたいへんユニークなのは修正ペンを使って風景画の雪を表現しているところです。
また、タイトル字ですが、本人の筆によるものです。和紙をちぎって用意された台紙の真ん中に、堂々と力強い文字で書かれたそうです。これも作品のひとつです。
この展示には後日談があります。期間中甲州市の関係者の目に止まり、甲州市でもギャラリー展を開くきっかけになったといいます。
ぶどう畑のアートギャラリー 「シャドーアート作品展」
12月の作品展は「シャドーアート作品展」(2022.12.2~12.25)です。シャドーアートとは、ヨーロッパ発祥の立体絵画だといいます。
シャドーアートは印刷されたイラストや写真を何枚も切って重ねて立体感を出すのだそうです。
例えば、作品は見事なポインセチアです。近寄ってみると何枚も同じ図柄が等間隔に奥行を持って配置されていました。
さらに横ら覗くと分かります。重ねる枚数を変えことで、絵の中の距離感、立体感を再現しているのです。接着はシリコンボンドを使用しているそうです。
3人の作家さんのおよそ20点の作品が並びます。花、風景、ボトルなどヨーロッパムードの作品が中心ですが、中には「端午の節句」といったものもあります。
額縁の絵というよりも箱のようにです。そのためシャドーボックスも呼ばれるそうです。額も含めて作品として制作されているとのこと。
ぶどう畑のアートギャラリー 「なかざわまさみイラスト展」
1月の作品展は「なかざわまさみイラスト展」(2023.1.9~1.31)です。
なかざわさんご本人がいらしていてお話を伺うことが出来ました。地元笛吹市一宮町出身で、本業のかたわらイラストを描いているそうです。青楓美術館では7年ぶり2回目の作品展です。
水性カラーペンで描かれた作品は全部で34点、中央のひと際目を引くプロレスマスクの男たちは、風呂敷のデザインで採用されているとのこと。
大小さまざまな作品があります。色使いと余白を大事にされているとのことです。それだけに背景が白いだけに余白の間隔がストレートに出てきます。
猫のイラストが多いのですが、これは山梨県立美術館(芸術の森公園)や小瀬スポーツ公園の猫ちゃんとのこと。確かに、この場所には猫ちゃんがいるのです。
左の壁にはちょっと趣が変わって雷神や妖怪たちの世界です。
和のテイストも多いです。あかべこ、酉の市とか鶴ケ丘八幡宮の扁額などがあります。
メッセージからは、生活の一部として絵を描いていることや、青楓美術館との関わりなども見えてきました。
年代を問わず楽しめる作品展示だと思います。
ぶどう畑のアートギャラリー 「甲州一宮デイ 絵手紙展」
2月の作品展は「甲州一宮デイ 絵手紙展」(2023.2.2~2.28)です。
甲州デイサービスセンター一宮事業所の利用者のみなさんの絵手紙作品展です。およそ90点の作品が展示されています。
デイサービス絵手紙教室の様子の紹介があります。山梨市の山下ひろみ先生が絵手紙を指導されたのが始まりとのこと、現在は週1回職員を中心にみなさんが絵手紙に取り組んでらっしゃるそうです。
モットーは「下手でいい、下手がいい」、でも、そのモットーに反した力作ぞろいです。
ふと、気が付いたのは赤い色づかいが多いのです。情熱の赤、元気の赤でしょうか。
4月には甲州市で作品展も予定されているとのこと。
ぶどう畑のアートギャラリー 「一宮町文化協会 書道部作品展」
3月の作品展は「一宮町文化協会 書道部作品展」(2023.3.2~3.31)です。
まさに一期一会。書の展示もよいものです。
津田青楓も晩年は書の時代だったので通じるものがあります。
おわりに
今回はギャラリーを中心に紹介しました。ミニギャラリー目的で無料で見て帰る見学者も多いようです。気兼ねなくミニギャラリーだけ見て帰ることも可能です。
時期にもよりますが青楓美術館のある笛吹市一宮町は、甲州市勝沼のワイナリーの立ち並ぶエリアにかなり近い地理関係です。小さな美術館ですが、ワイナリーとなど周辺のスポットとあわせて立ち寄ってもいいスポットです。
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