【笛吹市青楓美術館】ぶどう畑の中の最古の美術館(4) 「津田青楓が描く花の世界」を見に行く
はじめに
ぶどう畑の中にある山梨最古の美術館こと笛吹市青楓美術館では、半年ごとに展示替えを行っています。2023年度前期の展示は「花のあるくらし~津田青楓が描く花の世界~」(2023.4.19~9.3)として青楓が各年代ごとに描いた花の作品を展示しています。
過去の展示替えについても拙稿で紹介しています。
2022年度前期「青楓人物画展」
2022年度後期「小池唯則と津田青楓」
青楓美術館
笛吹市一宮町はぶどう畑と桃畑の広がる果樹栽培の地域です。青楓美術館はそんなぶどう畑の中にある小さな美術館です。
開館は1974年(昭和49年)10月23日です。来年は50周年を迎えます。現存し通年開館している美術館としては山梨県内で最古の美術館です。
笛吹市一宮町の出身の小池唯則氏(1903年~1982年、明治36年~昭和57年)が郷里に文化をとの思いで私財を投じて美術館を建設しました。
小池氏は友人の紹介で津田青楓(1880年~1978年、明治13年~昭和53年)と出会い、交流を重ね青楓の作品を集めていきました。美術館の作品は信頼できる方法で収集したいと考えていたからです。美術館を作ることを知った青楓からは、売って建設費用の一部にするようにと40点の作品が寄贈されました。しかし、小池氏は売るなんてもったいない、この作品を展示しようと美術館の名称も「青楓美術館」にする旨を快諾してもらい自身の故郷に青楓の美術館をつくりました。青楓からの寄贈は最終的に70点になったといいます。
しかし、青楓が美術館を訪れたのは開館の一度だけです。青楓はこの時90歳を超えていました。4年後、青楓は天寿を全うしました
小池氏も1982年(昭和57年)に亡くなりました。美術館は遺族から一宮町(当時)に寄贈され、町村合併を経て笛吹市青楓美術館として現在に至ります。
青楓作品の寄贈も多く現在では700点の作品、資料を収蔵しています。
「花のあるくらし~津田青楓が描く花の世界」
津田青楓の90余年の生涯は、
・図案の時代
・洋画の時代
・日本画の時代
・書の時代
と大きく4つの時代に分けることができます。その中で、さまざまな絵画を描いていますが、どの時代においても花をモチーフにした作品が必ず残されています。およそ900点の収蔵作品の中から、花を描いた作品47点を紹介しています。
時代ごとに作風の変化がありますが、青楓の描いた花に一堂に触れる機会です。
展示室の撮影は出来ませんが、リーフレットやチラシ、図録などの画像から可能な限り作品を紹介します。
1階の展示室は京都丹後の冬の荒れる波を描いた300号の大作《疾風怒涛》が壁一面にあります。大きさゆえに動かせないため、テーマに関わらず通年展示されています。社会情勢が不安定な昭和初期に民衆を鼓舞するために描いた作品といいます。
生い立ちと図案集
津田青楓は、1980年(明治13年)、京都の生け花の家元の次男として生まれました。本名は亀次郎、跡取りのいない母方の祖父の養子となり津田姓となりました。「亀青楓」と称したり晩年耳が遠くなり「聾亀」と自称しているのは本名に因むようです。
1階展示室の左側ガラスケースの中に《亀吉生家京都中京区立花道界隈の由来》1973年があります。晩年生家を回想して描いたものです。生け花去風流の家元の父を略歴とともに描いたものです。
京都市立染織学校を卒業後の青楓は、助手として勤めながら染物屋で働いていました。その頃の京都の呉服問屋では新しい図案を求めていた時代でした。
階段を上がったところの展示ケースには、青楓の図案集が3点あります。『華紋譜、花の巻』(明治32年)、『華紋譜、楓の巻』(明治33年)、そして有名な『うずら衣』(明治36年)です。
この図案集については複写したものを館内で手に取ることができます。
1階展示室の作品
1階の展示室に戻ります。ガラスケースの上の壁に作品があります。
《花(八角硝子器)》は、チラシのメインカットになっている晩年の作品です。
《青山白雲(篭中紫陽花図)》は、篭に入った水色の紫陽花に青山白雲で始まる画賛が添えられています。
《薔薇》1922年は、40代の作品水彩画のような淡いタッチながら薔薇は朱色です。
《花瓶の花》1929年、これも40代で油彩画です。全体的に暗い中に百合なのか白い花が目立ちます。
次に、別の壁には3点の日本画です。
《硝子器椿》、ガラスの花瓶のような器に入れた花をを描いています。
《静物画(籠の花)》は、描かれた竹篭は枝から切った花で埋められています。
《壺西洋芍薬》は、スケッチ画のように軽いタッチで水彩で色がつけられています。解説に依れば、つぼみの状態から満開になった花までを描き、花の一生を描いたといわれます。画賛の訳がありました。
和室の作品
さらに、奥の和室の展示ケースには絵入り団扇が4点、これも花の図柄です。
また、壁全体のガラスケースには画材など愛用品が展示されていますが、こちらにも作品が展示されています。
《老梅孤鶴》(《白梅丹頂鶴》)1950年は、見事な白梅に鶴、亀青楓と署名があります。
《茶掛け》は、描かれているのは菖蒲かアヤメです。
《篭中蘭白梅之図》は、チラシにカットが添えられています。
2階展示室の作品
2階へ進みます。壁一面の「第9回しあわせ絵手紙展」の作品に囲まれ、踊り場で大きなフランス刺繍を見ます。階段の途中にも《あざみ》《ざくろ》《いいぎり》など草花を扱った色紙が掛かっています。
「第9回しあわせ絵手紙展」についても拙稿で紹介しています。
2階展示室は40代で書かれた洋画が3点まず目に入ります。
《金池院の蓮池》1928年 は、48歳の時の作品です。関東大震災を受け京都に戻った頃のものです。泥から伸びて見事に咲いている蓮を描いています。
《花時京洛風景》1927年 も、京都での作品で風景画です。
《春郊》は、年代は分かりませんが、風景画なので、同じ頃のものでしょうか。
次に日本画が2点あります。二科会に参加していた頃の作品です。
《山水(桃源郷)》1921 は、40代の時に書かれた山水画です。
《薔薇鶏之図》1917 は、薔薇と鶏の取り合わせが奇妙です。
奥のほうは梅を描いています。
《紅梅》、《梅花画賛》、《梅花と歌》は、いずれにも画賛が添えられています。晩年の作品でしょうか。
ケースの中には《小金井の桜》、《九竹草堂》があります。
反対側の壁には絵画が6点、70代に描かれた頃の日本画があります。
《金地菖蒲花》1955年と
《金地菊花》1955年は、同じ技法で描かれていて、洋画のように見えます。しかし、金地の紙を使用していることや落款などから日本画です。
かつて洋画で活躍した青楓ゆえの新しい試みがみられる作品です。
《石楠花》
《紫木蓮》老聾亀とあるのでかなり晩年の作品
《紫陽花》は、チラシにカットが添えられています。
ケースの中には絵巻があります。
《草花絵巻》は、数々の草花が描かれ左側に画賛があります。
奥には晩年の書画などが並びます。
《白菊図》1974年は、晩年の掛け軸
《椿花》、大胆に書かれています。
《富貴不傲(牡丹)》は、見事に白い牡丹一輪を描いています。
《白牡丹》も、白い牡丹一輪、葉は黒い墨で描いているようです。
《落椿》は、少し若いころでしょうか。紅白の牡丹が対で描かれています。
ぶどう畑のアートギャラリー「葉画記絵色彩展」
「ぶどう畑のアートギャラリー」は、受付前のエントランススペースをサークルや個人の作品の発表の場として月替わりで提供する小さなギャラリーです。本ギャラリーのみの観覧であれば無料です。
4月の作品展は「葉画記絵色彩展(ハガキエイロイロテン)」(2023.4.2~4.30)です。甲州市勝沼町の鈴木八束氏のはがきサイズの水彩画の作品展です。
桃の花やワイン、料理などが色鮮やかに描かれています。およそ150点あります。
鈴木八束氏ご本人が迎えて下さいました。おひげを蓄えたおじいさまでした。鈴木氏のこちらでの作品展は7年ぶり2回目となるそうです。
鈴木氏が以前、山梨日日新聞(2021.3.21付)に掲載された記事がありました。もとは芸大卒業後広告デザインの仕事をされていたそうです。ほぼ毎日はがき絵の作品を作り1万枚に達したとのこと。
テーマごとにパネルに入れたられたはがき絵の題材は、地元の風景、料理、ボトル、名画の模写などです。
桃の花は地元笛吹市や甲州市の風景です。
こちらは、焼き物を描いた作品。
また、勝沼在住の鈴木氏はワインのラベルをデザインした作品もあります。人物は勝沼町出身のジャズドラマー森山威男さんを描いています。
名画を模写したりモチーフとして取り入れています。
NHK甲府放送局のローカルニュースで紹介されてから、大勢の方が鑑賞に訪れています。
余談ですが、鈴木八束氏の話によれば、甲州市勝沼町の山口園という観光ぶどう園兼レストランに青楓の作品が飾られているそうです。青楓美術館訪問の際立ち寄り、青楓が描いたのだといいます。もし開館当日に描いた絵が現存しているならば貴重ですし、ぜひ公開していただきたいものです。
ぶどう畑のアートギャラリー「夜行路~浅間夜行イラストレーション原画展~」
5月の作品展は「夜行路~浅間夜行イラストレーション原画展~」(2023.5.3~5.31)です。富士河口湖町在住の浅間夜行氏のイラストレーション展示です。
夜行氏の作品は、手書きの原画にコンピュータで彩色を施すという制作過程のようです。原画展ということからも、展示では原画と彩色し完成したイラストを並べて展示しています。
まるでプロのアニメーション作家さんのようです。チラシにある赤い怪物は「怪獣の聖地・熱海」新怪獣デザインコンテスト応募作「トバラ」だそうです。新作ストーリーもトバラのようです。
武田神社と諏訪大社がありました。大河ドラマ「どうする家康」の信玄公が話題ですが、こちらの信玄公もインパクトあります。
かの有名なUFO事件の甲府星人や近年の感染症で話題になったヨゲンノトリがあります。どちらもリアルに描かれてます。どちらも山梨ローカルから全国区になった(?)キャラクターです。
今回の展示のための書き下ろし作品が2点ありました。右は津田青楓《犠牲者》のリスペクト作品でしょう。
ぶどう畑のアートギャラリー「心と色のハーモニー展」
6月の作品展は「心と色のハーモニー展」(2023.6.2~6.30)です。社会福祉法人和音の郷の利用者さんたちの作品展です。
アクリル絵の具にて、花をモチーフに五感で感じたイメージを表現したとのこと。27点の作品があります。
2019年(令和元年)に完成した作品で、4年越しに展示の機会となったそうです。
絵だけではなく「土偶」の製作も。縄文人に倣って願いが込められています。
秋の草花を生けて墨で描いたり、紅梅はストローで息を吹きかけて墨を伸ばして枝にします。
おわりに
花というテーマは誰が見ても楽しめる内容ですし、ぜひ青楓の作風の多彩さを見ていただきたい展示です。
あいにく、展示室の撮影はできないため、出典を明記したうえで画像を借用しました。やや見にくい構成となりましたがお許しください。
参考文献
練馬区立美術館編『背く画家 津田青楓とあゆむ明治・大正・昭和』芸艸堂、2020