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[エッセイ]銅のような、ゴムのような

高校最後の日、友人たちとの別れに浸る間もなく、私の頭の中は「数時間後には金髪」という新しい自分のことでいっぱいだった。

卒業式のあと、ブレザーに記念の花を刺したまま私は駅前のドンキへ急いだ。
事前にチェックしていたヘアカラー剤の棚へ真っ先に向かい、ブリーチ剤を購入した。
パッケージを見て、『一番色がごっそり抜けそうなもの」をチョイスした。
そして家へ帰るや否や、早速ブリーチをし、明るい金髪へと様変わりし、明るい大学生活への一歩を踏み出した。

ーーはずだった。

しかし、現実はそう甘くはない。
色がごっそり抜け落ちるだろうと希望を託していた、金髪の少女が描かれたいかにも派手なお姉ちゃんが使いそうなパッケージのブリーチ剤は、私の髪には全く通用しなかった。
なんだか銅線のような、茶色にピカピカ光る金髪とは言い難い変な仕上がりになってしまった。

これは一体どういうことだ。
卒業式の後、私は3年間友情を育んだ友人たちに、次会うときは金髪だから!と豪語してしまったというのに。
銅線って、どういうことだ。あまりに格好がつかなすぎる。
こんなはずじゃ。
自分でもなぜここまで金髪にこだわるのかよくわからない。
洒落っ気があるわけでもないし。
だからこそ、極端なことをしたがると言われればそれまででもあるが。

それはそうとして、一応明るくはなったよな、と鏡の前で写真をパシャパシャ撮る。
ぎりぎり、真っ黒なそのまんまの眉毛でも違和感のない茶髪だった。
不本意ながら、垢抜けとしては成功しているような気もした。
金髪よりは女子大生らしい色といえなくもない、気がする。
結果として大学デビューっぽい仕上がりともいえる。

中学時代のヤンキーだった友人が、ふと脳裏をよぎる。
『ブリーチを繰り返すと髪がゴムみたいにぶよぶよになるぞ』とか言っていた気がするけど、あれは本当だったのか?
触れたことはないが、彼の金髪はパサついていた。
あれも実は触ったらゴムみたいにぶよぶよだったのだろうか。

まてよ。今回のブリーチは1回にカウントされるのだろうか。
どうせなら、金髪になって1回にカウントされたかった。
ブリーチしたとは思えない茶髪なのに、貴重な1カウントを消費してしまったのはなんだかもったいない。
金髪ですらないのにゴムみたいになってしまったら、情けないにもほどがある。
これから、あと何回ブリーチをすればいいのだろう。
私は理想の髪色になれるのだろうか。
その前に髪の毛がぶよぶよになってしまうかもしれない。

私の金髪への熱意と、キューティクルが熾烈な我慢比べを繰り広げるだろう。
理想に1回でたどり着くことなんてない。
鏡越しに映る銅線ヘアと、まだ見ぬ金髪の自分。
その間にある長い道のりを思いながら、私は記念にピカピカの髪を写真に収めた。

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