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語り尽くせない立山の魅力。その2

前回からの続きです。8月の猛暑の中、2泊3日で立山を歩きまわってきました。

その時の写真と記事が登山メディアの山と渓谷オンラインに読者レポートとして掲載されています。

3日で1,000枚近い写真を撮ったので、使わなかった写真と語りきれなかった立山の魅力についてnoteで書きたいと思います。立山には語っても語り尽くせない魅力があるのです。

前回の記事はこちら。

雷鳥沢キャンプ場のテントで1泊して、2日目です。

今日の予定はキャンプ場から剱御前山→別山→真砂岳→富士ノ折立→大汝山→雄山→竜王岳→浄土山→室堂山→室堂平を経由してキャンプ場へ戻る立山ぐるり周遊ルート。地図であらわすとこのような感じです。

西回りに約13km、10時間ほど歩き倒します。

朝、四時に起きて四時半には登り始める予定でした。
ところが目を覚ましたみると昨夜の雨がまだ降り続き、テントの薄い布地にパタパタと雨粒の当たる音がします。

「このまま雨なら困るなぁ」とテントの上でどうしようか考えていましたが、五時には雨がやみました。行動開始すると空を覆っていた雲はすぐに薄くなり、空はあるものの晴れ間が見え始めました。

雷鳥坂から見る風景。

まだ雲はありますが雨はすっかりとやみ、奥大日岳の方を見ると空にうっすら虹までかかっています。

上空にうっすらと虹。短い時間で消えてしまいました

一時間半ほど雷鳥坂を登り、別山乗越まであがります。別山乗越にある剱御前小屋から剱御前山の山頂までは30分もかかりません。


小屋から山頂まではゆるやかな登山道

空は気持ち良い晴れ具合で、浮かれて写真を撮りまくります。

「今日は最高の天気だ! 山の神様に歓迎されている!」などと頭の中で叫びながら。

剱御前山からの眺め
奥大日岳の美しい山容
地獄谷のあたり。
剱御前から眺める劔岳。

「山と渓谷オンライン」の記事でも書きましたが、『剱御前』という言葉はもともと、劔岳自体を表す尊称でした。劔岳を含む立山は信仰の山で、修験者が劔岳を拝んでいた場所だった山がいつの間に剱御前山と呼ばれるようになったのだとか。

3年前、この場所から劔岳を眺めたいと思って立山を訪れました。劔岳といえば一般登山道の難易度は国内最大級と聞きます。山男初級の私も「いつか登るぞ」と野心を持ち、登る前に山をじっくり眺めておきたいと思っていました。3年前は天候に恵まれず撤退せざるを得ず、劔岳の影も形も見えなかったので3年越しのリベンジです。

「3年前は縦走を諦めて撤退するしかなかったが今年は山の神様の歓待を受けて劔岳を拝み、立山を周遊、夏の最高の山登りができたのでした」などと、頭の中で早すぎる勝利のモノローグを流していました。

まあ、そう簡単には甘やかしてはくれないのが山です。

剱御前を下る頃にはだんだんと雲が見え始め……
別山に着く頃にはこの有り様。

太陽の気配はそこにあるのに、濃い霧が山を覆い隠してもはや道すら見えません。

「もう劔岳見たろ? よかったな。じゃあ帰れよ」
と山の神様に思われたのかも知れません。気まぐれですから。山というものは。

立山はいわゆる霊山なので、深い霧の中を歩くのもそれはそれで雰囲気があります。山とは大昔からあの世へ通じていると考えられていました。立山の地名は「地獄谷」や「血の池」「浄土」と、あの世そのものみたいな名付け方もされていますし。

霧の中の道。どこへ続くかわからない怪しい雰囲気。

「あの世とこの世の境目を歩いているみたいだ。テンションあがるなー」などとこの時はまだ霧を楽しむ余裕がありました。だって今日は長く歩く予定ですから。霧が出ているといっても雨でもないし、太陽は霧の向こうで出ているし、そのうち晴れてまた景色見えるでしょ、と呑気に考えていました。

まさか一日中、霧の中とは。

晴れたら絶景らしいけど、霧。
何か見えるが、何かはわからない。霧。
雄山の山頂神社も霧。
登山道。もちろん霧。

霧の中を2時間、3時間も歩いているともう、あの世この世云々なんて幻想的な気分も吹き飛んでただひたすら無心で進むだけです。景色も見えないし。足を踏み外したら危険なはずの岩場も、高度感が無いせいか少しも恐怖を感じません。

景色が見えても見えなくても登山道の楽しさは同じです。手を使わなければ登れないスリリングな岩場、山頂直下に急勾配、足をとられるようなザレ場などなど有って楽しい山行には違いありません。

でもせっかく3年越しにリベンジしに来たのだから少しくらい景色が見たい。すれ違う登山者の方にも「晴れてたら絶景なんですけどねぇ」と言われて、景色がみたいという気持ちは強くなるばかり。

しかし、山の神様は個人のお気持ちなんて基本的に考慮しませんから、願いも虚しくこの日は一日中、霧の中でした。

竜王岳を目指している時も霧。
最後の室堂山。ここまで来るともう期待もしていない。
ほぼ平坦な、室堂平まで道。

立山をぐるりと一周し、16時頃には雷鳥沢キャンプ場まで戻りました。

で、これは登山をする人なら必ず一度は経験することだと思いますが下山したあとに山頂が晴れているわけです。

下山後、立山の稜線が晴れ渡っている

「この時間に山頂にいれば絶景だったろうな……」と未練たらしく山頂の写真を撮ります。

立山の稜線からの景色は見られなかったけど念願だった劔岳は見られたわけですし、仕方がありません。山に登っていて景色がキレイに観られるかどうかは運ですから。

まだまだ登りたいけれど行ったことのない山はたくさんあるので、もしかしたら立山を歩くのは今日が最後かも知れない。まあ、立山の景色が見たければ写真や動画がいくらでも出てくるし、それを楽しめばいいか。などと、自分を納得させようとしていましたがどうしても立山稜線からの景色が見たい。

明日は2泊3日の最終日。奥大日岳まで行って引き返し、テントを撤収して帰る予定でした。帰宅できる最終の時間帯を調べながら改めて地図を見ると、今日歩いたコースを少し省略すれば、最終日にもう一度立山の稜線を歩けると気付きました。

「もう一回歩くか? 同じ道を? でもこれで明日も天気が悪かったら最悪だよな。それなら一度も歩いたことない奥大日岳の方面を歩いたほうが……」と少しだけ迷いましたが、夕飯を食べる頃にはすっかり気持ちが固まりました。明日、もう一度同じコースを歩こう。3年前は稜線からの景色を諦めて帰るしかありませんでした。もしかしたら今回が最後のチャンスになるかも知れないし、明日の天気に賭けようと決めました。

結果、この判断が大正解でした。

この日の夕飯。

長くなったので【その3】へ続きます


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東武@ペンシルビバップ
また新しい山に登ります。