【旅エッセイ73】危険な眺望
真冬の北海道では通れない道路がたくさんある。特に山道は雪で埋もれるので、立ち入れないように封鎖されてしまう。
「コッタロ湿原展望台」までの道も、同じく通れなくなっていた。
通れないと言っても封鎖されているわけじゃない。展望台に至るまでの階段に雪が凍りつき、段差部分が雪と氷の滑り台のようになっている。
整備されたコンクリートの階段ではなく、土と丸太でつくられた小さく狭い段差には足を乗せるようなスペースもない。物理的に通れない。
でも、封鎖はされていない。
つまり立ち入り禁止ではないということ。
それなら登っても良いはずだと、私は一歩を踏み出した。
手すりを掴んで、雪と氷の滑り台を慎重に登り始めた。何度も足を滑らせて、手すりにしがみつくようにして展望台へ向かう。
二度と真冬の北海道には来られないかも知れない。今しか観られないかも知れない。
私はごく平均的な日本人なので「今だけ」という期間限定感に弱い。今日、いま、この時を逃したら二度と、コッタロ湿原展望台からの景色は眺められないかも知れない。
つるつる滑る氷の階段を必死で登った。手すりを放したら止まることなく一気に滑落するだろう。真冬なのに汗がしたたるほどに暑い。ぜえぜえと息を切らして、登る。
必死の頑張りの甲斐あって、ついに展望台からの景色を眼下に眺めた。
今日、今、この時。これが晴れた夏の日の北海道ならもっと楽に登れたのだろうし、緑の豊かな湿原を眺められたのだと思う。けれど雪の残る冬枯れの湿原は今、この時にしか観られない。
やり遂げた達成感と共に、写真を一枚撮った。
もちろん、その時の私は降りでもっと苦労することに気づいていなかった。
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また新しい山に登ります。