【毎日エッセイ110】河津七滝ループ橋
人の手でつくられた建造物を観て感動する人もいる。
私は人工物より自然の景色の方が好きなので、あまり建造物を観て感動することは少ないけれど、河津七滝(かわづななだる)のループ橋はなかなか、壮観な景色だった。
伊豆の険しい山を越えるために、ぐるぐると円を描きながら上方向へ伸びる道路で、円を脱出する頃には45メートルの高さまであがっていく。目が回るので、車に酔いやすい人にはちょっと辛い。
首都圏に住んでいて車に乗る人には、首都高速の「大橋ジャンクション」のような形状と書いたら伝わるかも知れない。私はあの大橋ジャンクションに初めて乗り込んだ時ほんとに勘弁してくれと思った。
ただでさえ首都高は運転し辛くて苦手意識があったので、その時は運転を変わってもらって助手席に座っていた。壁と天上に囲まれて圧迫感のある道路でループ状になった道路を720°も回る。遠心力が掛かりっぱなしで、だんだん気持ち悪くなってくる。
これまでの人生で3回だけ乗り物酔いをしたことがあるけれど、その3回目が大橋ジャンクションに乗った時だった。
「もう二度と首都高なんて乗らないぞ」と心に誓うくらいイヤな思い出になったので、河津七滝のループ橋もイヤな予感がしていた。
ところが、河津七滝のループ橋は首都高と違って山の中に作られている。
大きな建造物の何もない、山に囲まれた景色の中に大きなループ橋の立つ姿に、どことない美しさを感じた。
ループを曲がるたびに少しずつ標高が上がって、目線の高さが上がっているのがわかる。山の中という解放感も手伝って、不快さはまるでない。
むしろループ橋の向こうに見える緑の山が、ただ自然の姿で見るのとはまた違った美しさを感じた。助手席の窓から、伊豆の山々とループ橋を眺める。
自然と人工物が調和していると美しく思えるんだな、と感じる貴重な体験だった。
大橋ジャンクションも自然の中にあったら、あんなに苦しまずに済んだのになあ。