第一話 『青春 【前編】」〜青彩編〜
「この世界を彩るもの」を【佐々木 青彩】の視点から描いていきます。
この「青彩編」の作品だけ見ても物語は楽しめます。もしよければ、前作もご覧ください。
前作 「この世界を彩るもの」
1章−1
春風が木々を揺らし心地よい気分にさせてくれる。照りつける太陽は優しく私たちを見守ってくれる。家から歩いて5分もすれば登り坂で、道の脇には太陽を反射して綺麗に光る小川が流れている。
私は、自然の中で育ち、自然とともに成長をしていった。でも、私の身体は弱かった。小さな頃から喘息で夜になると呼吸をするにも精一杯で寝付けず、吸入で薬を体内に取り込み安静になることを繰り返していた。
酷いときには緊急で病院に行くことも稀にあった。もちろん、夜に診てもらえる大きな病院は近くにない。車で30分以上かけて向かう。両親には沢山の迷惑をかけたと自覚している。
私は喘息もあって運動は苦手だった。速く走れたり、マラソン大会で優勝するような人たちが本当に羨ましかった。
そんな私の心のキャンバスにかけがえのない彩りをくれた物語だ。
ある日、学校の授業でアサガオを1人ひとり育てることになった。自分専用の植木鉢に土を入れて数センチの穴を指であけてそこに種を入れた。水をかけて、日の当たる場所にみんなで置いた。
先生が私たちに質問をしてきた。
「植物が成長するには何が必要でしょうか?」
土、水、太陽とみんなが答える。どれも正解だろう。でも、ある男の子だけ違うことを言っていた。
「続けること」
先生はその男の子に質問した。
「何を続けるんだい?」
「願い続けること」
周りのみんなは、笑っていた。でも私は、その言葉が頭から離れなかった。
学校が終わり、放課後に珍しく声をかけられた。
「ねぇ、一緒に体育館でドッチボールしない?青彩が入ってくれると人数も丁度いいからさ」
クラスでも運動のできる春田くんから声をかけられた。この歳頃に運動のできる人はだいたい人気者である。
「うん、わかった」
不安もあったが、声をかけられたことが少し嬉しかった。やってみると、ボールで相手に当てることは難しいけど、みんなと一緒に何かをやることが素直に楽しかった。
しかし、その日の夜に私は酷い発作を起こした。酸素を肺に取り込もうと身体も懸命に呼吸するが苦しくて、息をすることができない。すぐに病院に連れて行かれた。
診断の結果は、肺に穴が空いてそこから空気が漏れていた。その日から入院することになった。
母は病院に泊まりながら看病をしてくれて
「早く良くなるといいね。」
とすぐそばで見守ってくれた。ふと、本音が出た。
「私生きてていいのかな」
私の目から涙がこぼれていた。母に迷惑をかけて、友達にもせっかく誘ってもらって遊んだのに、私の身体は脆くて弱い。
私がいない方が、誰にも迷惑をかけないと思えた。
そんな私に母は
「青彩、人ってね、そこに居てくれるだけで幸せなんだよ。それでね、青彩が生まれたときから、お母さんにとっては希望なの。だから、青彩が生き続けてくれることが願いでもあるんだよ」
と伝えてくれた。迷惑をかけたと思っているのは自分だけかもしれない。そして、私もいつか誰かを想い願い続ける人になりたい。と幼くも感じた。
「うん、ありがと」
私はその夜、母の手の温もりで眠りについた。
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