『杪冬』
この「青彩編」の作品だけ見ても物語は楽しめます。もしよければ、前作もご覧ください。
前作 「この世界を彩るもの」
「この世界を彩るもの〜青彩編〜」
1章−1 「青春」
1章−2 「青春」
2章−1 「盛夏」
2章−2 「盛夏」
2章−3 「盛夏」
3章−1 「秋声」
3章−2 「秋声」
3章−3 「秋声」
携帯の着信が鳴っている。佐助くんからだ。
「もしもし」
「おっ、もしもし。今何してる?」
いきなりの着信で驚きながらも答えた。
「今バイト終わりだよ」
「そっか、奇遇だな。僕も今終わったところ」
「お疲れ様。急にどうしたの?」
「青彩、映画好きだったよね。明日一緒にでもどうかな、と思って」
「明日、丁度予定空いてるよ。行っちゃおうか」
「よかった。じゃあ、明日の朝10:00ごろに池袋駅の東口側に集合でもいい?」「了解。着いたらまた連絡するね」
「オッケ、じゃ、また明日」
「明日ね」
佐助くんと2人で会う約束ができた。私は思わぬ展開でジェットコースーターに乗るような感覚であっという間にいろんな感情が過ぎ去っていった。
でも、その私は佐助くんに言えないでいる事がひとつだけあった。
私は待ち合わせの時間に丁度到着したら、佐助くんの姿が見えた。私の中の悪魔が囁くように、佐助くんを驚かせようと行動していた。
「おまたせ!」
思った通りの反応に私は笑った。こんなときがいつまでも続けばいいと感じていた。
「じゃあ、行こうか」
「うん、何観よっか?」
「『天気の子』とかはどうかな?」
「あっ、私観たかったやつだ。ナイスチョイス!」
見たいと思っていた映画だった。でも、佐助くんと一緒なら本当はなんだってよかった。佐助くんは話が途切れないように、いろんな話を振ってくれたいた。おかげであっという間に映画館に到着していた。
ポップコーンを買って上映される館内に入っていった。でも佐助くんは少し緊張していることが私にも伝わっていた。
座席に座り、予告の作品が紹介される。佐助くんとの時間を焼き付けようとスクリーンに集中していた。
映画は思ったよりも感動して、1つ1つの描写や背景を丁寧に作りあげられていた。
「面白かったね」
「最高だったね」
思わず質問してしまった。
「背景や何気ないシーンの絵をなんであんなに綺麗に描くのかな?」
「そうだね。新海監督はこの世界のことが好きで、生きる価値がたくさんあるって強く肯定してるからだと思うよ。」
なるほどと思いながらも、いろいろ考えていた。
「へぇ、そうなんだ」
と返事したとき、初めて佐助くんと目があった気がしていた。
お腹も空いてきたので、お昼にしようと2人でスマホを見ながら探していた。私はこの際、食べてみたかった大きいサイズのハンバーガーが目に止まった!
「これなんかどうかな?」
「おっ、良さそう」
お店は大行列で混んでいた。でも、佐助くんと3文字しりとりを勝負していたらあっという間に私たちの順番が来ていた。
予想以上の大きなハンバーガーに大興奮しながらも、食欲が止まらなかった。2人とも大食いだったと初めて気づいた。なんだか可笑しくて笑ってしまった。
「次は食べ放題とか行きたいね」
「おっ、牛角でも行ってみるか」
またこんなふうに笑い合っていたい。そんな素直な思いが言葉として出てしまった。
「水族館に行ってみない?」
「それナイスチョイス」
私は佐助くんにここで伝えると決心をこのとき決めていた。
僕たちはサンシャイン水族館に到着して様々な生き物たちを観ていった。すると大きなガラス張りの水槽で、とある説明書きに僕は目がとまった。
水族館に到着し、水槽を眺めた。
私は「水の中でなぜ生物が生きているんだろう?」と佐助くんに聞いてみようと思って、辺りを見渡すと佐助くんは看板の前で立ち止まっていた。
「いろんな見えない繋がりがあるんだなぁ」
とひとり言を呟きながら、見ていた。私は、さっきまでの疑問のことなど忘れて小学校の頃を急に思い出した。
「実はさ、私小学生のころに佐助くんに助けられたんだ」
「えっ、僕なんかしたかな?」
「うん」
魚は水の中で当然のように生きている。でも、水がなければ生きていけないと毎日考えることはない。私は当然のように今隣にいる佐助くんに、かけがえのない必要な存在だと伝えたい。そんな気持ちが行動へと導いてくれた。
「佐助くんから直接的に助けられたわけじゃないから気づいてないと思うけど、私さ、小さい頃から喘息がひどくて運動するのが、嫌いだったんだ」
「そうだったんだ」
「小学生のときさ、マラソン大会があったでしょ。私は発作が起こるから最初から諦めて走らなかったんだ。そのときのマラソンで佐助くんはスタートで転んで怪我して後ろを走ってたでしょ?でも、最後まで走りきる姿をゴール手前で見てた私は、それが何よりかっこよく見えたんだ」
「そういえば、そうだったかもしれない」
「それからだよ。佐助くんを好きになったのは」