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最終話 『四季折々 』〜青彩編〜
普段の日常が特別な日常に変化していく心を彩る物語
この「青彩編」の作品だけ見ても物語は楽しめます。
原作 「この世界を彩るもの」
「この世界を彩るもの」を青彩の視点から描いています。2倍楽しみたい人は是非原作もお読みください。
1章−1 「青春」
1章−2 「青春」
2章−1 「盛夏」
2章−2 「盛夏」
2章−3 「盛夏」
3章−1 「秋声」
3章−2 「秋声」
3章−3 「秋声」
4章−1 「杪冬」
4章−2 「杪冬」
4章−3 「杪冬」
最終話
季節は巡る。
春の暖かさと梅雨の時期の雨、夏の強い日差しに、深い青の空、肌寒い秋風に爽やかな秋晴れ、冬の凍てつく風と澄み渡る空気。天候は私たちにいろんな影響を与えながら移ろっていく。
「天気の子」の作品の中でこんな台詞があった。
「ただの空模様に、人間はこんなにも気持ちを動かされてしまう」
でも、1番影響を与えるのは「天候」でも「神」でもなく、「人」なんだと思う。人は人と一番強い繋がりを持っている。その繋がりは、ときに違った方向に影響を与えてしまうこともあれば、受け取る側が間違って受け取る時もある。
私たちの意思疏通は思った以上に複雑だ。
1人1人、背景にあるものが違い、見える景色が違うから。
だからこそ、相手を深く理解する必要がある。そして、私たちは互いに理解しようとする努力を怠らず、歩み寄り続ければ必ず互いを理解し合うことはできる。
そう、信じれるようになったのは、きっと君がいたからだ。
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2020年のお正月を迎えた。
佐助くんは冬休みの間、時間を見つけては顔を出してくれた。
「調子はどう?」
手をすり合わせながら病室に入ってきた。外は氷点下の気温であることを改めて気づかされる。
「大丈夫だよ。外はそんなに寒いの?」
「めちゃくちゃ寒いよ」
「冷た!」
「外の寒さ共有だな」
私の頬に掌をつけてきた。そして、私の驚いた表情に佐助くんは笑っていた。いたずら好きな一面がなんか新鮮で胸が高鳴った。これがいわゆる胸キュンか。
「青彩は部屋から出ることないもんな」
「うん、今出たいと思わないけどね」
「そりゃそうだな。青彩は退院したら行きたいところとかあるの?」
「うーん、どこでもいいの?」
「どこでも」
「絶景を観に行きたいかな」
「具体的にあったりするの?」
「あるよ、フィンランドのオーロラとか、テカポの満点の星空とか、ウユニ塩湖とかも行きたいね」
「たくさん出てきたな」
「死ぬまでに行きたいところだね」
「じゃあ、退院したら行こうよ」
「えっ、本当に?」
「うん、そうしよ」
明日を迎えることが少し楽しみになっている。不思議だ。たった1人の存在がどんな綺麗な景色よりも、病院が与えてくれる薬よりも、私の病気を癒してくれる。そしたら私はどんなに辛くても、なんとかなると前を向いていた。
しかし私には骨髄移植が待ち受けていた。
どうやらHLAと言って白血球抗原の型が同種造血幹細胞移植が全て一致する人から提供を受ける必要があった。兄弟姉妹で4分の1、それ以外の血縁者でも100分の1で、非血縁者では、数百から数万分の1の確率のようだ。
私には弟がいた。3つ歳が離れている弟だ。
その弟のHLAが偶然にも一致していた。でも、私は気が少し引けていた。弟の負担になると思っていたからだ。
あるとき弟が珍しく病院に来てくれた。
「姉ちゃん、元気か?」
「うん、なんとかね」
「俺さ、姉ちゃんに小学校のとき、助けられたことあるんだ」
「そんなことしたっけ?」
「放課後に些細なことで友達と喧嘩して、1人で後悔しながら家にも帰りたくなくて公園にいたら、姉ちゃんが俺を見つけるなり、優しく声をかけてくれて、一緒に手を繋ぎながら帰ってくれた」
「そんなことあったかもね」
「そのとき、独りじゃないってわかったんだ」
「どんなに嫌なことがあっても、帰る場所や待ってくれる人がいるって本当に暖かいってそのとき感じた」
「そうだったんだ」
「だから、今度は姉ちゃんのために俺ができることをしたい」
「えっ、、」
「姉ちゃんのこと家でちゃんと待ってるから」
私は思わず、涙が流れた。
「うん、ありがと」
そして、手術は無事成功した。弟には感謝してもしきれない借りができてしまった。
入院生活は長い辛い1人旅のように大変で辛いこともあった。でも、それがあったから誰かに支えられていることや、誰かと繋がっていることを存分に感じれる壮大な喜びの旅のようでもあった気がする。
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2020年のクリスマスイブの夜
佐助くんに退院したことを伝えたくてLINEを送った。
「退院することができました。明日会えたりしないかな?」
「おめでとう!ほんと良かった。退院したばかりなのに大丈夫?」
「元気だから大丈夫!じゃあ、近くのファミレスに集合ね」
「わかった。気をつけて」
25日 クリスマスの日
約束のファミレスに行った。佐助くんが手を振って待ってくれていた。
「ごめん、待った?」
「そうだね、ずいぶんと」
本当にいろいろと待たせてしまった。
「お待たせ。じゃあ、まず腹ごしらえしようか!」
「おう、本当に大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫」
いつもの食欲があることに感謝しながら、たくさん食べてしまった。佐助くんも少し心配そうに見ていたが、こうして笑い合いながら食べるのは久々で心地よかった。
「ねぇ、この後行きたいところがあるんだけど、付き合ってくれない?」
「うん、どこに行きたいの?」
「綺麗な景色が見えるところに行きたい」
「綺麗なところねぇ、、よし!」
「えっ、どこ?」
「行ってからのお楽しみ」
佐助くんに行き先は任せた。車の運転免許も取っていてなんだかワクワクしてきた。
車内ではMr.Childrenの「GIFT」が流れている。
「一番キレイな色ってなんだろう。一番光ってるものってなんだろう。僕は探してた。最高のGIFTを。君が喜んだ姿をイメージしながら。」
よく聴いていた歌が車から流れる。思わず口ずむ。
「私この歌好きなんだよね」
「あれ?ミスチル好きなんだっけ?」
「うん、小さい時からお母さんが大好きでいつも車で流れてたんだ」
「へぇ、初めて知ったな」
「私さ、実は白血病って診断されたとき、私死ぬんだ。って覚悟してた。だから、最後に佐助くんに感謝の気持ちだけでもちゃんと伝えて、そのまま死ぬつもりだった。でもね、本当は今あるものが全て無くなることを考えただけで胸が引き裂かれるほど苦して、病院のベットでひとりで泣いてた。
そしたら、佐助くんは病院に駆けつけてくれて、私の見る世界を変えてくれた。
入院してご飯が食べられなかったときも
声が出なくなったときも
身体が思うように動かないときも
どんなに辛いことがあっても
佐助くんとの思い出や
大学で再会して楽しく過ごした時間も
告白してくれたことも
病室に来て、置いていってくれた「ありがとう」のメッセージも
何度も来てくれた時間も
佐助くんと何気なく過ごした時間も
私の中で太陽の光みたいに私の目の前に差し込んできて
生きたい、まだ生きたい
って強く願わずにはいられなくなったの。
病気だとか、見た目とか、心配かけるとか関係ない。
ただ生きて佐助くんともう一度、一緒に歩みたいって本当に思えた。だから私にとって、今この瞬間が最高の贈り物なんだ」
本当に私は幸せを感じていた。
「僕も今思ってる青彩の気持ちと同じかな」
佐助くんを見たら、頬に伝わる涙が見え隠れしていた。
丘を登り、車が目的地に着いた。車を降りて、2人で歩きながら町全体が見渡せる展望台に向かった。
その景色は、どんな景色よりも美しく、透き通っていた。
そして、私はふと、気がついた。
「そっか…」
「ん、どした?」
「ううん、なんでもない」
見たかったのは綺麗な景色じゃなくて、大切な人と一緒にいることを感じ合える景色だったんだ。
私は優しい手の温もりとともに
ただ、ただ
2人だけの絶景を眺めていた。
このイラストは弟が描いてくれました(お願いするといつも想像を超える作品を描いてくれます)
Mr.Children「GIHT」
END
【あとがき】
このあとがきは、原作を描き終えたときにも書かせていただきました。
独りで生きている人はいないと思います。誰かを助けて、誰かに助けられて
誰かを支えて、誰かに支えられて、影響を与えて、影響を受けて
自分の価値観を通して、あなたの価値観を通して
1人1人が自分の人生を彩っています。
そして、この僕も他の人に彩りを与えることができるひとりの人であることに
今更ながら書き終えて気づきました。
青彩のイラストと最後のイラストは弟(漫画家)が描いてくれました。
もっといい作品を作りたい。そう想えた作品でした。
この作品は私ひとりでは書き上げられなかった作品です。
ずっと自分の感情を表現したい、書きたい、作品として出したい
そんな思いがずっとありました。
でも、途中で物語が詰まってしまい止まったときもありました。
そのとき相談に乗ってくれた友人がいました。
「最後まで書き通すことに意味がある」
その友人からもらった言葉です。
やはり、独りでは書き上げられない作品だとつくづく思います。
そして、この物語を彩ったのは紛れもなく、私と出会った全ての人たちがいたからでした。
読んでいただいたあなたにも何か彩りを届けられたら幸せです。
この場を借りて、出会った皆様に感謝を申し上げます。本当にありがとうございます。
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