【新小説】靄が晴れるその日まで③
人は一人一人の世界観でこの世界を観ている。私もその一人である。この物語は他者の世界観を不思議な力で感じとれるようになった主人公の正田 観月(しょうだ みづき)の物語。
私は小学校に入学し、1年生を迎えた。
母親の顔には、未だに靄がかかっている。私は母親との買い物の帰り道でこんなことを聞いたときがあった。
「お母さん、私のことよく見える?」
「どうしたの?ハッキリ見えるわよ」
「ぼやけて見えないの?」
「ぼやけてなんかないわよ」
「あの夕日は、キレイに見える?」
「そうね、キレイね」
どうやら、母親からは何も見えていないようだと私は知ることができていた。
一体、この靄は何なのだろう?
保育園の影山先生の顔にも靄がかかっていたが、なぜその2人に靄がかかっているのか、理解できずにいた。
あるとき、小学校のとある授業で、隣の席の秀介(しゅうすけ)くんが何度も机の中を確認していた。
「どうしたの?」
と私が聞くと、
「教科書忘れちゃったみたい…観月の教科書、一緒に見せてくれない?」
と焦りながらもお願いしてきた。
「いいよ」
困ってそうだし、断る理由はなかった。
そのとき、先生が私たちのところに近づいてきた。
「秀介くん、観月ちゃん、教科書忘れたのかい?」
すると、秀介くんから信じられない言葉が返ってきた。
「観月ちゃんが教科書を忘れたみたいで、一緒に見ようって言ってました」
「そうか、秀介くんは優しいな。観月ちゃんも気をつけるんだよ」
と私の話は聞かずに、先生は授業を始めた。
すると、秀作くんの顔の周りに靄がうっすらかかっていた。
つづく
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