『秋声 【前編】』
「この世界を彩るもの」を【佐々木 青彩】の視点から描いていきます。
この「青彩編」の作品だけ見ても物語は楽しめます。もしよければ、前作もご覧ください。
前作 「この世界を彩るもの」
「この世界を彩るもの〜青彩編〜」
1章−1 「青春」
1章−2 「青春」
2章−1 「盛夏」
2章−2 「盛夏」
2章−3 「盛夏」
「次は上野…」
新幹線のアナウンスが流れる。上野駅で降りるのは2回目だ。1度目はマンションを探すために高校の春休みを利用して東京に来ていた。
マンション探しは、母親もついてきて学生だけが住める学生マンションに決めた。いや、正確にいうと決められた。
一階玄関にもセキュリティの扉があって、そこには防犯カメラも設置されていた。母親が心配していたこともあって、安心させるためにもここでいいやという感じで私は母親に委ねていた。
マンションに向かう途中の道には、小川が流れる桜並木がある。桜の蕾がもう少しで開こうと準備を整えていた。
まだ私の地元は肌寒さが残っていた。でも東京は薄手のカーディガンを羽織るくらいで丁度いい気温だった。
いよいよ明日から大学生活が始まる。
そう思って、1人だけの部屋で何気なくスマホの中の写真を見返していた。
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高校は女子校だった。
中学から始めたバスケットボールを高校でも続けて県でベスト8に入ることができた。強豪と呼ばれるほどではないが1人ひとり、向上心を持っていて一緒にプレーする環境は価値のある時間であったと思う。
そこでできた仲間は今でも連絡を取り合って遊んだりしている。
小学生時代の私は身体が弱く、目立たない存在だった私がここまで変われたことに自分でも驚いている。
地元から東京の大学に進学したのは私だけであった。友人は地元の大学に進学するか専門学校に行っていた。でも、私は地元から出てみたかった。
そんな思いを胸に、私は思い切って東京に出てきた。
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不安と期待が脳の中を彷徨っているような感覚だった。私はいつの間にか、眠りについていた。
朝日が眩しい、住み慣れない部屋は、新鮮で気持ちよかった。身支度を整え、余裕を持って乗り慣れない電車に乗り込み沢山の人たちが行き交う駅や交差点に圧倒されなながらも大学に着いた。
昨日の夜の不安はどこへ行ったのか、何事もなくガイダンスが終わった。
大学の授業は自分で選択する。私は元々選択するのが苦手だった。自分でこうしたい!というやりたいことがわからずに安全な舗装された道を流されたように歩んでいたからだ。
でも、そんな私でも自分で決断したと自覚できることは少しだけあった。最初から諦める自分を変えたいと思い、中学で憧れる先輩と出会い、バスケ部に入部したことだ。
今も自分の人生を自分で選べる人になりたいと思っていた。
そんなある日、授業が終わって大学の広場を歩いていると懐かしい面影が私の視野の中に入ってきた。
それはまるで夜空の流れ星を思わず追いかけてしまうように、私はその人に目を奪われていた。
そして、私は自然に声をかけていた。
「佐助(さすけ)くん?」
「あおい?」
「やっぱり、よかった」
内心ドキドキしていた。でもその緊張は少しずつ安心感に変わっていく。
「同じ大学だったんだね。見かけたとき本当にびっくりしたよ」
「ほんとだな」
会うのは中学の卒業式以来だろうか。声をかけることが怖くて、不安で、何も出来ずにいた私が佐助くんに声をかけられた。
私は気づかぬうちに様々な人から勇気をもらっていたのかもしれない。
「あっ、もしよかったら今からお昼でも一緒に食べに行かない?」
「そうだね、行こうか」
やっと、その勇気を使えた。それがなによりも嬉しかった。
ふと、佐助くんと見上げた空は、青くどこまでも深く澄み渡っていた。