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【短篇】甘くとろける、十の××

 九日前、一人の男性が行方不明になった。男性のことはよく知らない。報道によると、奥さんと娘さんがいる人だったらしい。家庭にも仕事にも問題は無く、失踪した理由が全くの不明とされていた。
 その翌日、四人の男女が無理心中をした。SNSで寄り集まった人達だった。そのまた翌日には二人が『決闘罪』を犯して相打ちで死に、後日一人が強盗に殺害されて、一人は強盗を自白する遺書を残して首を吊った。

 初めて入った喫茶店。レトロな雰囲気が妙に落ち着く空間で、僕は、彼と彼女を悼むために珈琲を注文した。普段は甘く円やかなミルクティーを好む僕の舌には到底受け付けられない、ブラックの珈琲だ。
 底が見えない、光を一切通さない真っ黒な液体の中へ、僕は九個の角砂糖を落とす。

 ひとつふたつ。むっつななつ。ここのつ。

 溶けるか少し不安だったが、十分な熱を持った珈琲は、きちんと九個の砂糖をその身に馴染ませてくれた。そこにザラザラとした不快感もない。ホッとしながら、僕は上着のポケットから小さな包みを取り出す。

 それは、掌にすっぽり収まる程に小さな薬包紙だ。慎重に開きながら、サッと珈琲カップに傾ける。砂糖よりも細かく繊細な粉末は、黒く甘い海に浸った刹那に消えた。味に不安が生まれたので、もう一つ、角砂糖を追加する。誰にも咎められないよう、自然な動作を心掛けてスプーンで一混ぜしてから、一思いに飲み干した。

 喉が焼け付く暴力的な甘さに一瞬だけ顔を顰めてしまった。けれど、どうか大目に見て欲しい。
 これは本日限定、彼らとの『顔合わせ片道切符』なのだから。

(了)

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吾妻燕
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