【連作】燃費
『来ないはずの明日』→(略)→『元の場所に返してきなさい』→(本記事)
先生を幸せにする為には、如何程の燃料が必要か考えてみる。
そもそも、先生の幸せって何だろう。どエロい本を一日中読み耽ることか。それとも、私には到底理解出来ない極彩色の絵を描くこと? 焼きではなく、揚げたカレーパンを口一杯に頬張っている様子も、実に幸せそうだけれど、果たしてそれらが本当に<先生の幸せ>に繋がっているのだろうか。
三日三晩どころか十日十晩考えても埒があかないので、手っ取り早く本人に訊いてみた。
「先生の幸せって何ですか?」
唐突な問いに驚いたらしい。窓から差し込んだ夕日に照らされた先生が、ちょっと間抜けな表情を浮かべる。漫画なら顔の側に『?』とか『きょとん』とか『きょとり』と書き添えられていたに違いない。
「うーん」と唸りながら目蓋を下ろす。腕を組み、首を傾げて硬直すること数十秒。縛りが解けたみたいにパッと開いた目蓋の奥、茶色い瞳を輝かせながら、満面の笑みを浮かべた先生は、「君の幸せかな」と言った。
「君が『世界で一番の幸せ者だった!』と叫んで死んだら、僕は幸せな気持ちになれるよ」
心の片隅で「あ、嘘だ」と悟る。
何故、嘘だと思うのか。或いは疑うのか。私自身わからない。だから、悟った事象にそっと蓋をして、先生の言葉を全面的に信じるふりを演じる。
私の幸せが、先生の幸せ。しかも「世界で一番の幸せ者だった!」と叫んで絶命しなければならないのか。難しい上に妙な方向にぶっ飛んでいる。
何にしても、燃費は余り良くなさそうだなと、内心で溜め息を零した。
(了)
ここまで読んでもらえて嬉しいです。ありがとうございます。 頂いたサポートはnoteでの活動と書籍代に使わせて頂きます。購入した書籍の感想文はnote内で公開致します。