見出し画像

読書記録事情その壱

『読書ノート』を残し始めたのは二〇一六年からである。
 その前はBeahouseの『読書記録しおり ワタシ文庫』を使っていた。今も愛用している。

 図書室から借りた本の裏表紙の内側にあった『貸出しカード』を彷彿とさせる、レトロなデザイン。大好きです。溢れ出る懐かしい感じ……本物を使っているだけあって、袋のオレンジ色もまた絶妙。時間の経過で劣化すると、「あーこれこれ! 古い図書室の本にあった!」と言いたくなる風合いになるのが堪らりません。
 ただ、難点が二つ。

 一つは、感想文を書く欄が二行しかないこと。書き始めるとダラダラ長くなりがちな私にとって、二行の枠はちょっと物足りない。

 二つめは、『読書感想しおり ワタシ文庫』を取り扱う文具店や雑貨屋が、どんどん少なくなっていること。

 二つめの問題はかなり深刻である。
 初めて買った場所は、近所の丸善だった。「これイイネ!」と思って追加購入するため数日後に再訪したら、全部売り切れてしまっていた。しまった、もう何個か買っとけば良かった! マァでも、いずれ再入荷するだろう。……そう思って早五年ちょい。入荷する気配は露ほどもない。
 どこかに売ってないかなあ、そろそろ無くなっちゃうよぅ! と巡り巡って再会した場所は、立川のヴィレッジヴァンガード。通称ヴィレヴァン。本の壁をじっくり眺め回していたら随分と高い場所──しかも、めっちゃ隅っこ──に二個、プラーンと吊り下がっていたのである。発見した時は、めちゃくちゃ驚いた。お前そんなとこに居ったんかい! と歓喜しながら、いそいそと踏み台を使って(ヴィレヴァンで踏み台を初めて借りた瞬間でした)二個とも手に取り、購入した。
 わーい、これで問題解決だあ! と思いきや、時間的にも交通費的にも「たった一つのアイテムを購入する為だけにホイホイ立川へ来るのは余りにも非合理的な現実」に気付いてしまう。
 ああ、振り出しに戻った……と絶望しかけた時。地元の複合デパートにて「クリエイターによる様々なアイテムを筆頭に、知的な良品を雑多に扱う店」がオープン。その店の文房具コーナーにて『読書感想しおり ワタシ文庫』を発見したのだ! しかも全色! 大量に!!
 やったー! これで本当に問題解決だ! 更にその二年後、駅ナカの本屋さんでも取り扱われるようになる。

 キタ……! 遂に『読書感想しおり ワタシ文庫』の時代が……!!

 いつでも必要な時に、ホイホイ追加購入できる環境が整った。これで安泰だ──私はホッと胸を撫で下ろしました。

 読むスピードが遅いために、早々と『読書記録しおり ワタシ文庫』が消費される自体は避けられていた。また、決して安くない価格から「漫画、巻数の多いラノベは記録しない」という独自ルールを設けたことも、節約に一役買っていた。
 けれど「いつどこで購入出来るか分からない」という状態は、心を不安にさせた。湧いた不安は堆くなってゆくほど、焦燥や疲弊という副産物も生み出した。
 読書のアイテムに大げさな。代用品は幾らでもあるじゃないか。第一、読書にアイテムなんぞ要らんだろう。そんなことより一冊でも多く読みなされ! と、思われるかもしれない。私もそう思います。
 でも、一度「これで記録、管理するの!」と定めたアイテムが、恒久的に入手出来ない。出来ても不安定。というのは、結構しんどいものなんです。

 その、しんどい問題から解放される。つまり、ストレスが解消される。余計な問題について脳を使わなくて良い。もやもやしなくて良い。
 =より豊かな読書ライフが送れる! なんて素晴らしいんだ! ハレルヤ!!

 ……と、思っていた時期がありました。

 今年。緊急事態宣言が発令される直前。「クリエイターによる様々なアイテムを筆頭に、知的な良品を雑多に扱う店」が閉店した。
 閉店の兆しは元々あった。というのも、その店で扱う商品はどれも「えっこんな値段するの?」と瞠目するほどにお高く、訪れるお客さんは『買い物目的』よりも『冷やかし目的』の方が多かったのである。フラ〜っと入ってフラ〜っと出て行く光景を眺めながら、幾度も「この店、よく潰れないな」と思ったものです。
 よく潰れないな、と思ってたら潰れた。間抜けだ。

 けれども、マァ、気を落とすことはない! だって駅ナカの本屋さんがあるもの!!

 件の本屋さんは、電鉄の系列会社が運営している書店である。
 前述した丸善が駅よりもやや離れた場所にある為、そこでは書籍以外にも子供向けドリルなどの教材、文房具、祝儀袋や香典袋などなど「あったら便利だな〜」なアイテムを取り揃えているのだ。最近では、電鉄のオリジナルグッズやオモチャまで販売している。忖度いやサービス精神旺盛な本屋さんなのだ。
 あそこに行けば、絶対あるに違いない。でも、ちょっと心配だから確認しとこうかなあ。そんな軽い気持ちで行ってみた。

 無い──。

『読書記録しおり』を含め“読書関連品”が並んでいたコーナーは、数種類のブックカバーを残して見事に縮小されていた。替わりに整列するのは手のひらサイズの小さなノートと、レターセットだった。
 ……ま、マァ、そうね。『読書記録しおり ワタシ文庫』よりも、小さなノートやレターセットの方が「あったら便利だな〜」って思うよね。メモったり、目の前のタリーズコーヒーで恋文を認めたりするよね。うん! わかる!
 わかる! と納得しつつも、諦めきれない私は文房具コーナーをグルグルと廻った。上から下まで、嘗め回すように眺めながら廻り続けた。某絵本のトラの如く、いつか体が溶けてバターにでもなるんじゃないかと思うぐらいの廻りっぷりだった。レジ内の店員さんが不審者を見る眼差しで私を眺めていた。

 あれから今日まで、『読書記録しおり ワタシ文庫』を販売している店には出逢っていない。


 ここまで書いている間、何度も「そんなに欲しいならネットで買えよ」の有り難〜いお声が聞こえてきた。きっと、ここまで読んでくださった神様も「ネットで買えよ」と呆れているだろう。
 そのツッコミは重々承知しています。
 でも、未だに『××ペイ』を使ったキャッシュレス決済に拒否反応を示し、コンビニ決済でさえ「買った気がしないからやだ」等と言って顔面を歪める人種に、クレジット決済(若しくは電子マネー)を利用したオンラインショッピングはハードルが高いのです。

 主よ。二十一世紀──二〇二〇年を生きる現代人に有るまじきアナログっぷりを、どうかお許しください。アーメン。

(了)


ここまで読んでもらえて嬉しいです。ありがとうございます。 頂いたサポートはnoteでの活動と書籍代に使わせて頂きます。購入した書籍の感想文はnote内で公開致します。