オタク経済圏創世記+推しエコノミー
中山 淳雄さんの本を2冊読んだので、内容をまとめた。
著者はブシロードの執行役員であり、ゲーム業界を熟知した猛者である。
2冊とも満足度が高かったので、今後も中山さんの本は買い続けるだろう。
1.オタク経済圏創世記
本書では、オタク文化が世界でどれだけの経済規模に発展するかを述べている。
サブカル市場の誕生から発展までを知りたい人には大いに役立つだろう。
著者自身がエンタメの前線で戦ってきた人なので、読んでいて説得力を感じる。
1.なぜ日本のマンガは強いのか
シンプルに言えば、日本のマンガは他国よりも安くて、生産スピードが速いということだ。
マンガ家の生活が過酷なのは知られているが、作品が大量に生み出されることによって文化は拡大されているのだ。
(良くも悪くも手塚治虫先生のおかげ)
2.無から有を生み出した任天堂
ここでは、ゲームフリークの成長を6年待ったニンテンドーのエピソードが紹介されている。
ゲームの現場でも作家(ゲームフリーク)と編集者(任天堂)のような関係性が築かれている。
後述するウマ娘の件と同じだが、5年以上内容を暖めてからリリースするガマン強さに驚く。
また、モバイルゲームの海外展開について
失敗原因はユーザーに愛着を持たせるようなストーリーテリングができなかったことが理由として挙げられている。
現在は『原神』や『ウマ娘』のようにストーリーを設けたゲームも出ているので、ガラケー時代のゲームからスマフォに変わって解決されている。
(ウマ娘は元の馬が居るので、キャラ設定も上手い)
3.著作権が生み出す三位一体の共犯関係
オタクコンテンツをマネタイズするにはアニメが1番だと説いてる。
Netflixでも世界的にアニメは人気だし、ハブ機能として必須なのは分かる。
ただ、いきなりアニメオリジナルでヒットを飛ばすのは難しいと思う。
新海誠クラスのビックネームでなければ、人が集まらない。
オタク経済圏の仕組みとして、10兆円規模に膨らんだポケモンを紹介している。
ポケモンはゲームから始まり、アニメで広く流布し、玩具や雑貨が身の回りに現れ、新聞でマンガも連載され、社会をとりまくインフラとして「キャラクター経済圏」を築いている。
身近な実例だと『鬼滅の刃』のキャラを至る所で目にするようになったのが挙げられるだろう。
4.「共体験をすること」にコアをもってきているコンテンツは成長している
2010〜15 年にかけて、音楽ライブ市場は突如として3倍に膨れ、7000億円規模の市場におちつき、結果的に世界一の音楽パッケージ市場になった。
その理由はAKB 48 や乃木坂 46 など「コンサートなどのイベント事業と連動したCD販売」である。
オリコンチャートで100万枚以上にランクインしているのは、すべてAKB 48 である。
この共体験というワードは『推しエコノミー』に繋がっていく。
5.コンテンツを延命させるための3次元展開
ヒットしたコンテンツもすぐに忘れられてしまう時代である。
ここでは『バンドリ!』というゲームの人気を維持するための施策に触れている。
現代では「流行させる」よりも「流行を維持させる」方が難しい。
6.顧客としてのオタク
オタクは消費指向性が高い層として認識されている。
個人的には、Apple製品を愛用するApple信者も同じジャンルだと思う。
客単価が高いので、市場がターゲットにするのは分かる。
若者の半分がオタクを自認している。
顧客として既に経済圏に取り込まれているのは大きい。
7.オワコンから復活した新日本プロレス
私が生まれた頃には既にプロレスは斜陽産業となっていたが、数字として表すと、どれだけ縮小していたか分かる。
そこで、新日本プロレスを買収したブシロードは以下の施策を行なった。
3次元であるプロレスを、2次元的なキャラクタービジネスと捉えなおし、メディアミックスによる再生。
(レスラーのタレント化・キャラクター化)イメージを180度転換するため、大規模なプロモーションを演出。
動画配信で北米展開
また、プロレスは世代を超えた消費体験のシェアが可能なコンテンツだと著者は述べている。
理由は、選手生命の長さである。
つまり、プロレスは親子二世代での視聴・参加体験が行える、ゴジラやウルトラマンに近いのである。
8.後世に残る作品の共通点
後世に残る作品をつくっているクリエイターは、常にその時代のマンネリ化しがちな主流プラットフォームを壊し、自由さを担保すべく新しいビジネスモデルを切り開く人間なのだ。
2.推しエコノミー
コロナ禍の中で書かれた本作。
鬼滅ブームなど、最近の出来事に触れているので理解しやすい。
前作はアニメの説明が多かったが、今作はSNSやゲームにフォーカスを当てている。
また、最近聞くようになった「推し」という言葉について、マーケット側からの分析を行なっている。
1.フォートナイトが見せつけたゲーム空間によるエンタメ市場の侵食
これは話題になっていたので知っていたが、ゲーム空間であるので参加人数を現実世界よりも増やせるのが凄い。
しかも国境も関係がない。
『オタク経済圏創世記』で述べていた「共体験すること」の最先端とも言える。
2.「萌え」から「推し」へ
また、ももクロに関して演出家鈴木聡氏は
「突出した美人というわけでもないので、異性としてみたり、彼女にしたいというより、高校野球の球児に対するような、「親戚の子」的親しみが湧いて、応援したくなってしまうんです」
と述べている。
3.ウマ娘という新基軸
ここでは、覇権を握ることになったウマ娘について解説をしている。
製作指揮・石原章弘『アイドルマスターシリーズ』
構想からリリースまで5 年超
2 期のアニメBDを買うと課金アイテムが手に入る。
(ゲーム内課金よりも安い)ゲームに課金したユーザーは作品から離れにくくなる(サンクスコスト)
構想からリリースまで5年というのはポケモンに通じるものがある。
BDを買うと課金アイテムが手に入るのは新しい発想だと思う。
アイカツおじさんのコメントについてだが、作品が確実に1年続くことが作品を推すことの基準となっている点が面白い。
推し活において、まずコンテンツの続く長さを重視しているのだ。
これは、コナンやエヴァのような長寿コンテンツのお祭り化に繋がっていると思う。
4.コナンとシンエヴァ、100億円を作り出す物語
シンエヴァはリリース3ヶ月から再び観客数が増えた。
(100億円を目指すという物語)公開3ヶ月後に入場特典として冊子を配った。
鬼滅の刃ブームと同じ時期に公開したコナンは祭りにならず、観客数は伸びなかった。
(観客は他の作品に夢中になっていた)
ファンが作品を見るだけでは完結せず、発信者になるのはSNSが発展した現在の特徴である。
100億円規模のお祭りには、この要素が欠かせない時代となっている。
シンエヴァ、コナン、鬼滅は上記の要素を満たすことで、お祭り化に成功した。
(みんなで感情をシェアする時代)
5.推しエコノミーの確立
キャラクターとは「運動体」であり、動きが止まった瞬間に価値はゼロになる。
(SNSで呟かれなくなる)日本のキャラクターで最も認知度&好感度が高いのが『ドラえもん』である。認知度 98%、好感度 70・9%。
資本は「消費」から「参加」へフェーズが移り変わっている。
推しエコノミーにおいての貨幣はキャラクターであり、中央銀行は
ユーザー個人である。貨幣の交換場所はスマフォに移っている。
(TikTok、YouTubeなど)
ここでは、推しエコノミーの総括としてキャラクターを貨幣として扱っている。
こういったキャラクター経済圏の動きは、ビットコインのように中央銀行が存在しない。
個人が「推し」という感情で作品の品質を保証しているのだ。
6.個人的に響いた箇所
日本のフィギュア文化の源はこういった場所から垣間見ることができる。
しかも、元の仏像の姿に日本オリジナル要素を加え、それを崇拝するという動きが起きているのが面白い。
偶像崇拝を否定しているのに、勝手に作り始めるモノ信仰の力強さを感じる。
キャラクターに内面を求めない日本人の異端さが面白い。
日本人はキャラクターに内面がなくても、自分で味付けをして愛でてしまう。
欧米は中身が人間ぽくないと愛せないようだ。
ピカチュウのようなキャラが受け入れられた理由は気になる。
「へぇ」知識。
これは豆知識としてどこかで使いたい。
本書では、組織を一度解体した方が改革が進む例えとして挙げている。
「まず破壊せよ」と言った毛沢東を思い出す。