人生にあらかじめなんてない

 だいたい、腹が立つんである。
 「あらかじめバターを室温に戻してやわらかくしておく」って、何なの??
 何、「あらかじめ」って。
 誰にでもあらかじめる余裕があると思わないでいだたきたい。
 バターだけじゃない、クリームチーズもだ。
 しかもたいていレシピの冒頭に書いてある。もうそこで気持ちをくじかれる。
 お菓子食べたいな~って思って、なになに、簡単に作れるって?なるほど、材料3つで簡単クッキーね。ふむふむ、3ステップで完成☆チーズケーキね。って読み始めたレシピの1行目に「あらかじめ」。
 あらかじめる余裕があるんだったら簡単レシピなんか読んでない。あらかじめたい人は、泡立てたり厳密に計量したり、高級バター使ったり和三盆とか放牧で育てた鶏のうみたてたまごとか使ってるだろ。
 あらかじめたくないからこそ、簡単レシピに辿り着いてるのに、冒頭からあらかじめを要求してくるような輩は「簡単さ」「手軽さ」の概念を履き違えてる。ユーザー目線じゃなさすぎる。
 私は、あらかじめたくなんかない。
 かと言って、「バターをあらかじめない場合は、電子レンジでやわらかくする」の、さらなる難度の高さよ。
 いい加減にしてもらいたい。
 バターを電子レンジにかけたらどうなるか、ご存じないわけじゃないでしょう?電子レンジですよ。
 とけるっつーの!!とけました。何回もとかした。もう嫌になる。
 かといって、「10秒ごとに様子を見ながら、指のあとがスッとつくくらいまでやわらかくしましょう」って、もう、やーめーてー!要求が細かすぎる!そんな、10秒ごとに電子レンジの扉を開けてバター出して指でさわって「ん~あと10秒」ってまたレンジに戻して扉を閉めてセットして10秒待って、次に開けたときにはもうはしっこがとけかけてるっつーのー!
 電子レンジってそういうところある。秒単位で裏切ってくるから全然信用できない。
 ほかにも、ローストビーフを作るときの肉問題がある。こっちもあらかじめを要求してくる。
 あらかじめる必要がある材料を用意させるなら、レシピの構成自体をもっと壮大な物語風に描くべきじゃなかろうか。
 朝起きたところから想定して書き始めてほしい。「目覚めたら、まず、顔を洗う前にバターを冷蔵庫から取り出します」くらいの感じじゃないと、あらかじめられない。
 その物語風レシピを読んでる時点で午後だったら、「あ、じゃあ明日の朝から始めよう」って心の準備ができる。
 ローストビーフも、「今、あなたがこれを読んでいるのが夜ならば…、明日に備えてすぐに肉を冷蔵庫から出してください。今日はこれ以上できることはありません。作業は明日です」って書いておいて。「昼ならば…今から肉を買いに行きましょう。そして寝る前に冷蔵庫から取り出して、明日に備えましょう。今日はそれ以外にできることはありません」くらい書いておいて。あらかじめってそういうことじゃないでしょーか!

 日々の怒涛のような流れの中に、「あらかじめ」を組み込むことはほんとうに難しい。だからこそ、あらかじめが必要な時は用意周到に準備万端に申請してほしい。アタリマエの顔して冒頭からあらかじめを要求しないでいただきたい。
 そして、あらかじめなくても美味しいもの、楽しいもの、嬉しいものを、たくさん作れるようになっておきたいし、それによって心と生活に余裕が生まれたときにはじめて、私も「あらかじめ」をやさしくゆるせるようになるのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?