とあるXジェンダーの就活転落記-化粧とスーツでセクを初めて自覚させられた話
先日、「ああ、普通の女性たちもこれ悩むんだ…」と深く唸ってしまうようなnoteを見かけた。
この手の話に突き当たるまで、私は実は性自認がXジェンダーだとはっきり自覚しておらず、それが案外珍しそうな気がしたので、いちLGBTs学生の就活の失敗談として身の上話をまとめてみることにする。
遅かった「性別違和感」への気付き
LGBTsの中でもとりわけ性自認が出生時の身体性と異なるタイプ…トランスジェンダー、Xジェンダーの中には、出生時の性別役割を求められることに抵抗感が強い人がいる。
(抵抗感があまりない人もいる)
私はどちらかというとこの「身体性別の性役割を、周囲から期待される」のが死ぬほど耐えられない。
でも、それをはっきりと自覚したのはなんと大学3年の時だった。
トランスジェンダーの人の生い立ちの記なんかがよくテレビや新聞、本で紹介される時、「物心つくかつかないかのころから身体の性別に違和感があって…」という体験を話す姿が印象に残っている人も少なくないと思う。
が、私はそこまで小さい頃から明確に身体性別に違和感があって耐えられなかったわけでもなく、異性装をしようとしたこともほとんどなかった。
Xジェンダーの概念を知った時も、「もしかしたらそうかもしれない」くらいにしか思わなかった。
無論、思春期になって第二次性徴があった時にはそれなりに嫌な思いはしたが、「生物の仕組み上仕方ないのかもな」という謎の納得をしていた。
「女」ではないけれど、どうやら自分は人間の「メス」らしい、と。
こんな風に、メス=女という短絡的な発想にならずに比較的自由な発想でいられた――つまりは性別についてシスジェンダーの人がするように、考えたこともなかったような気でいられたのは、母方の血の影響によるところが大きい。
祖母はもともと勉学の好きな人で、時代が時代なら大学に行っていただろう。
学者になるか実業家にでもなっていたかもしれない。
母親はというと、これまた化粧っ気の少ない人で、オタクがまだ「おたく族」なんて呼ばれていた頃からアニメやゲーム、漫画の好きな人だった。
早い話が、「一般女性」がお金をかけるだろうコスメやファッションに凝るくらいなら趣味に金をかけるタイプの人だ。
そんな感じの親だったもので、家であまり「女の子なんだから○○しなさい/したらだめよ」みたいな注意を受けた記憶が薄い。
(無論なかったわけではないし、未だに言われる時もある)
そうやって育った私は、大学三年の時、就活という壁を前に自分の性自認は?という問題に直面させられることになった。
歴然と男女に分かれる就活という儀式
就活では、男女どちらでもない人間が男女どちらかに収まる必要がある。
少なくとも、私のいた札幌では当時まだ、LGBTsの就活などという言葉は聞こえてこなかった。
就活セミナーでは女子生徒は当たり前のように化粧をするものとして語られていた。
冒頭で紹介したnoteにある通り、真面目に校則を守っていた子ほどここで「化粧なんてしたことない、どうすれば」と当惑する。
もちろん私も、中高生時代に容姿で弄られていたこともあり、化粧なんて興味がなかった。
しかもここで、「じゃあ就活をするために化粧をしてみようか?」と自問自答したところ、「無理だ、気持ち悪い」という思いしか湧かなかった。
普通の「女性」なら、化粧が「面倒くさい」と思うことはあっても「気持ち悪い」まではいかないと思う。
それも、「自分が社会的に女性として扱われるから気持ち悪い」とは。
また、就活スーツでさえも男女で分かれている。
入社してからはカジュアルの会社でも、面接はスーツのところが多いだろうし、大学の就活セミナーでは就活=スーツすらちゃんと着れないなら就職できないぞみたいなニュアンスで語られていたからその時点で拒否反応が出た。
パンツスーツがあるだけ女子のほうがマシだろ、とも言われそうだが、パンツスーツだろうと女性もののスーツは女性ものの仕立てになっているので、一目でそれとわかる。
男性のスーツの小型版だったら、まだ良かったのにと当時は思っていた。
「就職するためには必要なんだから」と大学のキャリアカウンセラーは言った
化粧と、スーツ。
そこから強烈に自覚してしまった性別違和感と性自認……男女どちらにも居場所がないというこの感じ。
これらを踏まえた上で、どうしていったらいいかなと思い、当時の私は軽いノリと重い気分で大学のキャリアカウンセラーの元を訪れた。
結果は、相談したことを後悔するような対応だった。
露骨に嫌な顔をされたわけではない。
中途半端に理解したような顔をして、優しげにその相談員の女性はおよそこんなようなことを言った。
「性別のことは大事だけど、とりあえず就職するためにはしかたないことだから…」
大事だけど目をつぶれと?
それって結局あなたのそれは気のせいだって言ってることにならない?
私にとっては些細なことでもなんでもなく、アイデンティティの根幹に関わるし、そこが分かってもらえるのか否かでやっていけるかいけないか、だいぶ変わるんだけど。
こうして、とりあえずで本音や大事なことを現実とやらにすり合わせ――悪く言えば妥協させられることが嫌いな私は、日本で最も有力な就職の切符である新卒就活を手放すことにした。
これが私が新卒就活から転落した大きな理由の一つだ。
(もう一つの大きな理由としては、就活という儀式そのものに気持ち悪さを感じたからというのもあるが、これはまたの機会に書くことにする)
余計なお世話かもしれないが、同学年に一人いた、トランスジェンダーっぽい雰囲気のあの子は、この問題をどうにかできただろうか。いまごろどこかに就職して、元気にやっているだろうか。
私はというと、就活も大学院での研究もしくじったので案の定無職だが、なんとか元気でやっている。
あの時無理して「普通の女」になろうとしなくてよかったと、そこだけは誇りに思っている。
***
ただの失敗談なのでオチはないよ……!!
最後まで読んでくれてありがとうございます。 役に立った、面白かったらサポートを頂けるとと嬉しいです。 今後の更新のための本代などに使わせていただきます。