子どもを中心に多様な働き方を考えるとは?|あずかるこちゃんMEETUP パネルトークレポート
先日開催された『あずかるこちゃんMEETUP #00 』では〝子どもを中心に多様な働き方を考える〟をテーマにしたパネルトークを行いました。
社労士法人ワーク・イノベーション代表の菊地加奈子さん、精神科医の齋藤暢是さん、NewsPicksコミュニティマネージャーの佐藤裕美さんをゲストに迎え、Slidoを用いながら参加者と双方向の熱い議論が交わされました。
穏やかな人柄の裏に、確固たる意志をもつ3人。ここに至るまで、どう悩み乗り越えてきたのか?これから描く未来は?。仕事を頑張ることも、子育てを頑張ることも「自由」。第三者の話を聞くことで、少しでも救われるヒントはきっとある、そう思っています。仕事と育児の両立に悩んでいる人にぜひ読んでいただきたいイベントレポートです。
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仕事と育児の24時間、どう過ごしている?
園田 とてもお忙しいお三方かと思いますが、仕事と育児の24時間をどう過ごしていますか?
(写真中央右から、CI Inc.代表 園田正樹、社労士法人ワーク・イノベーション代表 菊地加奈子 氏 、精神科医 齋藤暢是 氏 、NewsPicks コミュニティマネージャー 佐藤裕美 氏 、POLAAR グラフィックデザイナー カワセタケヒロ 氏)
菊地 私は社労士法人の代表として企業の働き方や両立支援、制度構築を行なうと同時に、保育園を3園運営していて、家族が働きやすいあり方をつくるために日々奮闘しています。子どもが0〜15歳まで6人いますが、事務所は自宅から5分、保育園も学校も全て近いので移動の負担を感じたことはないです。ただ、日中はお客様の企業に訪問したり地方出張もあるので事務所にいないことが多く、朝3時頃に起きてデスクワークをやっています。
園田 3時は早すぎませんか?(笑)
菊地 はい、これを言うと反発を受けるかなと思ったのですが、正直にお伝えしようと思って書きました(笑)。逆に帰りは絶対に残業はしないと決めているので、18:30に保育園へお迎えに行ってご飯は必ず作ります。お風呂などは夫がやってくれて、夜はみんなでご飯を食べて寝るという生活をしています。
カワセ さっそくSlidoでも質問がきていますが、睡眠時間はどれくらいですか?
菊地 4、5時間ですかね。
齋藤 精神科医としては非常に気になりますね(笑)
菊地 先ほどもお会いしてすぐに短命ですよって言われました(笑)
でも日中は移動の間に休んだり、疲れたらコンビニに出たりと自由に過ごしているのでそんなにストレスは感じていないです。
リモートワークを効率よく使う
佐藤 私は朝5時に目覚ましをかけて、炊事洗濯掃除、朝ごはんや息子の塾のお弁当を作りながら、前日のWBSや当日のNHKのニュースを見ていて、他にもNewsPicksと日経電子版、Googleアラートで情報を見るのが日課です。朝はニュースに触れながら家事育児をしていますね。
NewsPicksはオフィスへの出勤義務がないので場所を選ばず仕事をしています。移動時間は音声入力でメール返信やメモを書き留めたり。帰りは18:30には仕事を終えてお迎えに行き、夕食はできたものから一品ずつ料理を出しながら食べさせて、その日にあった話を聞いています。夜寝るのは23時くらいで、6時間の睡眠確保で大丈夫かなと思っています(笑)
齋藤 大丈夫です(笑)
園田 出社義務がないのはいいですね。
佐藤 フルリモートの社員もいますし、逆に自由度がある分、パフォーマンスを出さなければという責任感やプレッシャーはありますが、裁量権があるので目標に向かってチーム全体で動けていれば、どこでどのようにやっても良いという形です。Slackとかオンラインコミュニケーションは密にやっています。
園田 リモートワークの弊害を感じることはありますか?
佐藤 対面とテキストコミュニケーションの伝わり方の違いはありますよね。◯◯ですか?って聞いたことが怒っているように取られたもことありますし。他社の方でリモートの時は、今日はこれをやりますと宣言をして、終わったあとは成果物をチーム内に共有するようにしているという方もいらっしゃいました。
自由度をマイナスに感じるときは?
カワセ Slidoからの質問で、自由度の責任感が気持ち的にマイナスに感じた時はどう切り替えていますか?
佐藤 自己開示が大事で、自分はこれをプレッシャーに感じるとか、プライベートの状況を周囲に伝えるようにしています。私は、夫が年の3分の1は海外出張なので、ワンオペがマストになるタイミングがあります。その時、私は余裕がなくなるんです。今週はちょっと大変なタイミングですと伝えると、周囲も理解して声をかけてくれるので、1人で抱え込まないことだなと思いますね。
有給+週2日勤務でとれた「パパ医師育休」
齋藤 僕は自治医科大でがん専門の精神科医として勤務していて、亡くなられた後の遺族外来も行なっています。昨年結婚して、9月末に娘が生まれました。産後うつの症例もたくさん見ていたので、2ヶ月は奥さんをサポートしたいと育休を考えましたが、実際には育休を取ることができず、今は有給を使って週2日勤務+当直という形で生活をしています。
園田 なるほど。有給を使いながら仕事と家事育児をされているんですね。
齋藤 一昨日、残り7日ですというメールがきました(笑)
当直がない日は夜19時半か20時には帰れるようにしていますが、1500床の大学病院にがん専門の精神科医は1人しかいないので、急な対応で帰れなくなる時はどうしてもあります。ネックは片道1.5時間の通勤なので、子どもの発熱時は奥さんが大変かなーと考え中です。
カワセ Slidoから、家事育児は奥さんと一緒ですか?という質問がきています。
齋藤 ほぼ完母なので、産まれてすぐは僕が3食作って掃除してという感じでした。今は少しづつ一緒にやっています。子どもが2時と5時に起きますが、僕は夜が得意なので残った家事とミルクをあげる、朝は逆に奥さんがやるという生活でした。最近は朝まで寝るようになったので夜中に起きることがなくなりました。1人時間は本を読んだり、のんびり楽しく育児をやっています。
どこまで許す?家事育児のこだわり
佐藤 男性は女性が手作りの食事や完母にこだわることをどう思いますか?先日「名もなき家事」を取り上げた記事がありました。例えば献立を考えることにも工数がかかっていて、見えない家事があるという話なんですがNewsPicksのコメント欄でも賛否両論ありました。
齋藤 僕は「ズルく、早く、美しく」やればいいと思うタイプ。
かと言って、僕もこだわりがないわけではなくて、妻の家事のお直しをやるという細かいところもあるんですよ(笑)
園田 家事のお直しですか!僕も基本は全然やらないんですが、やりだすと完璧主義なところがあって、たまに手を出すとすごく嫌がられます(笑)
齋藤 我が家は、毎日子どもが寝たあとに豆乳を温めて30分くらい話す時間を必ず作っていて、たとえばラベル剥がしとかお風呂の洗い方とか、こういうところがお互いのこだわりだよね、どこまで付き合おうか?という話をしています。
佐藤 すごい。夫婦の時間、とても素敵ですね。
カワセ Slidoでも「お互いが納得すればこだわってもいい」という意見がありますね。特に〝1人目はやらなきゃいけない感〟が強いのでしょうか?
菊地 そうですね。1人目の時は専業主婦だったのもありますが、頑張って育児日記を2年間つけました。初めて食べた物は字を青くしたりして、今では考えられないです(笑)
カワセ 2人目以降だと違いはありますか?
菊地 徐々に無理なものが出てきますね。仕事が始まると仕事を頑張りたいと比重が大きくなる時期もありました。夫が手伝ってくれるようになったり、環境や考え方は少しづつ変わってきたと思います。私もこだわりを捨てずに大事にしたいことはありますし、逆にお掃除は家事代行にお願いして、ここは手放して人に任せようと割り切ってやっています。
理想の働き方とは?
園田 今の自分は理想に近い生活ができていると思いますか?
菊地 そうですね。今の収入を会社員で稼ごうと思うと難しいですし、自由度があって好きなように働ける環境を自分で作ったという意味では、半分は実現していると思います。
子どもをオフィスの隣の保育園に預けて、途中で授乳をしに抜けたりしています。先週、夫に運転してもらって兵庫・広島と往復2400kmを走って出張に行ったのですが、会社員だったら生後3ヶ月の赤ちゃん連れ出張を認めてもらうのは本当に大変なことだと思うんです。
育休をとる、休むという選択じゃなくて「仕事も育児もやる」という選択肢ができる。2400km走るのはすごく大変なように聞こえるかもしれないですが、私は助手席で寝かせてもらったり、サービスエリアに温泉や宿泊施設があるというのを聞いて、行ってみたり、新しい楽しみを感じられているので、本当に自由に柔軟に毎日を過ごせています。仕事のストレスはないです。
園田 裁量権が自分にあって、生活を自分でデザインできるように環境を構築できていることがストレスを減らしていますよね。
「やりたい」を引き出す環境をつくれるか
園田 菊地さんのように代表という立場ではなくても、同じように生活をデザインするにはどうすればいいでしょうか?
菊地 皆さん、いろいろな理由がありますよね。私にも社員がいますが、転勤族で地方にいながらフルリモートで力を発揮していたり、お子さんが病気や障がいを抱えている方もいます。
社労士という専門職として、休める環境を作るのはもちろん大事なことですが、単に制度を作るだけでなく、それ以上に「やりたい」という気持ちがある人が、キャリアを伸ばす環境をどこまで作れるかを大事にしています。柔軟にひとりひとりに合わせ考えていく姿勢や取り組みを、まずは企業側から変えていけると良いですね。
園田 すごくいいですね。菊地さん自身が課題感を感じているからこそ、ワークとライフをどうデザインするとフィットするか、ひとりひとりに確認をして働き方を調整されているんですね。
齋藤 先日、医者のキャリアはVSOP(ブイ・エス・オー・ピー)だと聞きました。20代はバイタリティで仕事をして、30代でスペシャリティを作る。40代からはオリジナリティでお客様を集め、最終的にはパーソナリティで仕事をしていくんだと。
僕としてはスペシャリティを構築し終わったところで、この先どうオリジナリティをもっていくか。奥さんはまだスペシャリティを構築できていないので、子どもと奥さんのキャリアを考えると、僕は週3勤務でのんびりやろうかと思ったりもします。かと言って、やはりがん領域の世界が魅力的で大好きな仕事なので、どうするか考えているところです。
人生をデザインするのは自分
佐藤 私はプライベートでママのロールモデルをシェアする「パワーママプロジェクト」の活動をしています。「人生をデザインすることは誰でもできる」ということを知れたことで、自分の心地いい生き方が見つかり、人生の満足度は高くなりました。
確かに、企業に勤めていると制度や変えられない問題はあると思います。でも、そこで思考停止するのではなく、同じように企業に勤めながらもやりたいことをやれている人はどうしているのか?を知ることで、目的のための方法を考えることができますよね。
子どもも成長期で、日に日に状況も変わる。固定化せずにアジャストできると納得できますし、自分の判断で納得してやる覚悟ができているという意味では理想に近いかなと思います。
園田 理想と近いところで「覚悟」というキーワードが出てきました。自分がどうありたいかを決めて実現できる。佐藤さんの場合は転職もされましたね。
佐藤 色々と選択肢がある中で、その選択をするのは自分ですよね。何かしら不満があるかもしれない企業に留まることも選択で、それは他責じゃなくて自責にした方が良いと私は思っています。
ただ、偏った見え方だけだと判断が鈍るので、エビデンスのある最新の情報を仕入れておく、かつ、それに対する多様な見解を知っておくのは大事なことだとも思ってます。
園田 意思決定をする時によりリッチな情報を届ける側に、今、佐藤さんは身を置かれているということですよね。
覚悟だけでは語れないシステムエラー
齋藤 ひとつ話しておきたいのは、ここにいる人たちはみんなスペシャリティを持つ強い人たちで、やめてもどこかでやっていける自信のある人たちですよね。僕が周産期の産後うつで担当している方たちの中には、スペシャリティを持てなくて本当に困っている人たちがたくさんいます。週3有休や週1出社を許してくれる会社はまだまだ少ない。そういうギャップがあるということは認識した方がいいと思いますね。
カワセ 今、Slidoからおもしろいコメントが上がってきました。
「誰の参考にもならないすごい3人(笑)」。
これは本当にそうで、モデルケースの話をするときのジレンマで難しいです。問題を解決していけている人たちのことを知りたいと思って、そのことを発信したいんだけど、そうすると本当に苦しんでいて自力では脱出できない状況の人たちの事実を知ることができない。
たとえば僕みたいなグラフィックデザインの仕事は、夜も昼もなくて、そういうのを耐える覚悟をするかキャリアを諦めるかの二元論になりやすい。「覚悟を持てない人は諦めるしかない」ってよく言われてたんですけど、それはシステムエラーなんじゃないかなと違和感をずっと感じていました。
あずかるこちゃんもソーシャルイノベーションですが、こういう社会システムのエラーを回避させるような取り組みが必要だと思います。
理想と現実のギャップを埋めるには?
園田 3人にもどうにもならなくて苦しんできた過去があると思います。そこをどう乗り越えてきたかを聞かせてください。
菊地 私は6人子どもがいることで「参考にならない」とか「頑張りすぎ」と本当によく言われます。「同じ女性を苦しめている」と言われることもあって、登壇してお話するのが段々苦しくなった時期もありました。聞いている人も苦しくなるのかなって。
その方たちの気持ちを考慮して話すこともできるんですけど、でもそうではなくて、私も同じように苦しんだ時期があったので、それぞれのステージを真剣にやっていること、いろんな生き方や働き方があることを知ってもらえたらと思います。
カワセ Slidoから「しくじり先生的な話が聞きたい」とコメント来ていますが、どうですか?
菊地 実は私、専業主婦になりたくて結婚したんですが、突然、夫がパワハラにあって30〜40%もお給料を減らされたんです。そのとき私は何にもできなくて、隣にいる人を支えることができない、これはしくじりだと思いましたね。その悔しさが今のバックグラウンドにあります。
学生時代にもっといろんな人の話を聞いておけばよかったとか、働く女性の生き方をもっと見ておけばよかったという後悔は今でもあります。社会復帰するのに6年かかって、頑張っても頑張っても仕事をすることができなかった。開業した当時は「大事な6年を棒に振ってしまった」とものすごく後悔しましたが、そのおかげで、働けない人の気持ち、これからもう一回頑張ろうという専業主婦の人の気持ちを経験できたことが、今では良かったと思います。
キャリアは揺れ動く、遠い先を考えすぎない
齋藤 僕は専門職である奥さんの仕事をやめさせたことが最大のしくじりです。つわりがひどくて、妊娠は誰も代わってあげられないと思いました。
カワセ 奥さんも復職の希望はありますか?
齋藤 専業主婦をこだわってやりたい気持ちと、活躍してバリバリキャリアを築きたい気持ちと半々で揺れ動いていて、その気持ちに変な色をつけないようにしたいと思っています。この先の理想像はまだ見えていないですが、手の届く5年先のこと、10年15年と遠い先を見据えながら、最善の手を考えておくということが、ギャップを埋めていく僕なりのやり方かなと思いますね。
佐藤 しくじりでいうと、今から思えば2人目の復帰直後は産後うつだったと思います。坐骨神経痛になって全然動けなかったのもありますが、なぜか涙が溢れるし、当時の私は「自分で幸せにならなければならない、家事も育児も全部自分でやらなければ!」と考えていて、自分で自分の首をしめていましたね。
ひとりで抱えずに対話をしよう
園田 どうやって乗り越えられたんですか?
佐藤 家事育児に関わるタスクと時間を全部書き出して旦那に送りました(笑)これはイーブンにして欲しいと言っているわけではなくて、私がなぜイライラしているのか、家庭を運営する上でこれだけの工数がかかるということを共有したかったんです。結果、会話ができるようになり、すごく気持ちが楽になりました。
あとは、一人で考えていても解決策にたどり着けない、検索したくてもキーワードが思い当たらないことがあるので、対話できるコミュニティのような場所があると良いと思います。
園田 「対話」のキーワードも大事ですね。子育てをどれくらいリッチにしたいかも人それぞれですし、課題は全て「誰か」と「自分」の間にあると思います。誰とどこで食い違ってしまうのか、壁になるのはコミュニケーションなのか価値観なのか。
これがあれば絶対解決できるというのはなくて、みんな苦しんでいる。僕らあずかるこちゃんも、理想の形はあっても現場の先生方や親御さんは求めていなかったと気づいて苦しんで、この2年間なかなかサービスローンチができませんでした。
子育ての問題は本当に多様で、解決策はないというのが僕の率直な考えにありましたが、改めて今日のパネルトークを経て実感しています。子育ては多様であり、その先をこれからも皆で考えていきたいと思っています。今日はありがとうございました。
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Event Title: あずかるこちゃんMEETUP #00
Date: 2019.11.24
Facilitator: Masaki Sonoda & Takehiro Kawase
Text: CI Inc. PR