玉子カレーとチーズコーヒー
玉子カレー
玉子カレーってわかります?
あー、カレーに生卵のせるやつね?
違いますね!私が言っているのはインドカレーの話で。
ジュンパ・ラヒリ短編集『停電の夜に』にはたくさんの美味しそうなインド料理(時には貧しい食べ物)が登場していて、玉子カレーは『三度目で最後の大陸』に出てくる。(「たまご」の表記は本書に従って玉子とする)
インドから船でロンドンへ出てきた「私」は、寮生活をする。寮には
「私と似たり寄ったりの、金のないベンガル系の独り者ばかりが、少ないときでも十何人かは住んでいて、異国で苦学し、身を立てようと頑張っていた。
私はロンドン大で経済学を受講しながら、大学図書館のアルバイトで生活費を稼いだ。寮では三人か四人が同室で、凍えるような共同便所が一つあり、交替で玉子カレーをつくっては、新聞紙を敷いたテーブルを囲んで、手で食べていた。」
週末に知り合いが寮に詰めかければ、「玉子カレーを増産」する。玉子カレーばかり食べていたようだ。貧乏学生たちの唯一の自炊メニュー、つまり経済的で簡単らしい。要はカレーの具が玉子ということなのだろうが、その玉子はいったいどんな状態なのかが気になった。生卵は外国ではあまり食べないというし、加熱調理するとして、目玉焼き、ゆで玉子、スクランブルエッグ、オムレツ?
どれも、ありっていうか、美味しそうだが、答えは…ゆで玉子でした!
では、ゆで玉子は切るのか丸のままか?
これは、半分にまたはくし型に切る例もあるものの、丸のままが主流のようす。ネットで写真を見ると、丸い玉子がごろごろとカレーに浸っているものがずらりと並んで迫力だ。いろんなレシピがある。ゆで玉子を炒めて表面をパリっとさせるとか、炒める前にスパイスをまぶすとか、炒めないで煮込むとか、煮込まないとか。
玉子は肉が入らなくてもボリュームが出るし、宗教上ハラールミートでないといけない人や、ヴェジタリアンにも対応できる。それに手に入りやすく安価だし。
さて、貧乏学生だった「私」は、アメリカで職を得て結婚する。故郷カルカッタからアメリカへ来た新妻のために、玉子カレーを作る。「私」のレパートリーはこればっかりなのか。機内食にビーフがあったので食べずに来たという妻と、ふたりで玉子カレーを食べる。妻はお腹は空いているはずだが、緊張して味がしないかもしれない。お互い気をつかって初々しい食事。この玉子カレーはジャガイモが入っているようだ。しかも皮つきらしい。玉子とジャガイモのカレーなのかな。
レシピが詳しく書かれていない料理の方が、想像をかきたてていっそう美味しそうに思われる気がする。
写真は『停電の夜に』 ジュンパ・ラヒリ 小川高義訳 新潮社刊
左 新潮文庫
右 新潮クレスト・ブックス(このスパイスの写真が大好き)
チーズコーヒー
ちょっと待って、何ですって?
「食事のあと、ふたりはチーズをフォークに刺してコーヒーに浸し、チーズが柔らかくなるまで待つ。」
ストーリそっちのけで気になった。しかもこの1行のみで、説明がなにもない。
出典は『ミレニアム7』。スウェーデンのベストセラー『ミレニアム』の第7弾。今作では13歳のスヴァラが大活躍する。スヴァラは、ドラゴン・タトゥーの女・リスベットの姪、無痛症でヴェジタリアン、金庫の暗証番号がなぜかわかる能力があり、サルのぬいぐるみを持ち歩く…と設定がてんこ盛り。そしてサーミ人の血をひく。
サーミ人とはスカンジナビア半島北部などに居住する先住民族だ。ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、ロシアなどの国境をまたいだ北部に住み(主に北極圏)、トナカイ放牧などをして暮らしていた。引用の食事を供した女性もサーミ人だ。 ふたりが食後に楽しんだものは、「カフェオスト」、「オスト」はスウェーデン語でチーズのことで、英語だと「チーズコーヒー」になる。サーミ人が楽しむらしい。
レシピは熱いコーヒーにチーズを沈めて、チーズが柔らかくなるのを待つ。溶けてしまいにくいチーズがいいらしい。あとは、コーヒーを飲んだり、チーズを食べたり。最初の衝撃が過ぎると、ありなのかもなあと思えてきた。カフェオレはコーヒーにミルクを入れたものだし、コーヒー+乳製品は合う。温かく柔らかくなったチーズも面白くて美味しいはず。
ネットによると、本格カフェオストは粗びきコーヒー豆を煮出したコーヒーがいい、しかも薪の火がいいとか、トナカイの干し肉を添えるといいとか、チーズはこんな種類が合うとか、カップは木でできた「ククサ」がベストとか、いろいろな説があった。とりあえずは、いつものコーヒーにありあわせのチーズで試してみたらいいかも。
サーミ人について調べるなかで、『河合雅雄の動物記6 極北をかけるトナカイ』に出会えた。児童小説だが白いトナカイはカッコよく、極北の描写は暮らしたことのある作者ならではの臨場感だった。シリーズのほかの動物記も読んでみよう。図書館書庫に追いやられていた掘り出し物。
上杉あずき@STEP
参考文献
『家庭で作れる東西南北の伝統インド料理』 香取薫 河出書房新社
クックパッド https://cookpad.com/
『世界の先住民5 いまはわたしの国とはいえない ラップランドのサーミ人』 訳 柏木里美 リブリオ出版
『河合雅雄の動物記6 極北をかけるトナカイ』
草山万兎/著・文 金尾恵子/イラスト フレーベル館
『さがし絵で発見!世界の国ぐに15 デンマーク・ノルウェー・スウェーデン』 こどもくらぶ編 あすなろ書房
北欧少数民族のアレンジコーヒー『カフェオスト』をご紹介【チーズ入りのコーヒー? 】 (cafend.net)
コーヒー×チーズ!?北欧のチーズコーヒー「カフェオスト」とは?カフェレス子がわかりやすく解説! - フードマニア Food Mania by 旭屋出版 (food-mania.jp)
☕ カフェオストの作り方【世界の不思議なコーヒーレシピ】 | Coffeemecca
https://wordpress.com