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ライディング・ホッパー:チャプター1 #7

ライディング・ホッパー 総合目次


「あーあ、またやっちゃったなー」

運搬用ギアに牽引されていく自身のギアを眺めながらワタルがボソッと言う。

「毎度毎度無茶をやるからです。正直使い物になるジャンクも底を着きましたし、これ以上のリペアは不可能です。これからのレースはどうするおつもりですか?」

「ノープラン」

「…かける言葉もありませんね」

うう、とワタルは唸るが何も案は浮かばない。この後にはまだ4度のレースが控えている。カナズミ、R&W、アストラル、そしてアモウ。どれもアライアンスの頂点に名を連ねる、この世界の支配者連中だ。このままフリーのギアライダーとして相手にするのははっきり言って自殺行為に等しい。

「まずは勝利おめでとう、と言ったところかな」

コウイチロウが手を叩きながらワタルに声をかける。

「いやはや、まさかあの森の中をショートカットしてくるなんてね。1歩間違えば見当違いの方向へ走って行ってしまうだろうに」

「まー、トレミーのおかげでね。でもこれ以上のレースはもうダメかも。ギアを修理するパーツも予算もないし、どうしようかなって感じ」

コウイチロウが牽引ギアの方を見やる。そして意を決した顔でワタルへ向き直った。

「単刀直入に言おう。君たちに協力したい」

「…巽建機が僕らのスポンサーになるってこと?」

「いや、私が個人的に支援をするんだ。会社のこととは無関係にね」

「企業の御曹司ともあろうお方がなぜ私たちを?我々に何かさせようという魂胆ですか?」

「悪いけど僕たちは僕たちの目的がある。そっちの都合で動く気なんてさらさらないよ」

どの企業のスポンサーも受けない。それが2人が『ストリート』のレースの時点で決めたルールだ。あくまでこれは2人の戦い。故にどんな手厚いサービスでも断る。そう決めていた。

「いや、君たちにそのままレースを続けてもらいたい。それだけだ。そのためのガレージも資金もパーツも全て用意しよう。動かす人員は最小限に抑え会社の名は一切出さない。どうかな?」

「…ちょっと虫が良すぎる話だ。本当に何も企んでないの?」

「疑い深くなるのも当然だ。分かった、正直に話そう」

コウイチロウの表情はシリアスだ。

「私の父は知っているだろう?」

「巽建機の社長のことですね。大崩壊後の混乱から一代でアライアンスへ登り詰めたという」

「最近、アストラルの連中が父に擦り寄って何か共謀している。私が問い詰めても父は何も話そうとしない」

「つまり親子喧嘩?」

「いいえワタル、論点はそこではありません。アライアンス内でのパワーバランスが崩壊することを気にかけている、ということですね?」

「そうだ、優秀なAIくん。アストラルはアライアンスの一員だが、ライディングギアを含めて長らく自社の技術研究を公表していない。我々も情報収集しているが入ってくるのは人体実験だとかオーパーツ技術の解読だとか不穏なものばかりだ
。そこで、このレースで奴らを表舞台に引きずり出して欲しい。それが君たちに協力する理由だ」

アストラル・バイオサイバネティックスはアライアンスの企業の中でも謎に包まれている。企業城下町は一種のアーコロジーコロニーであり、身寄りの無い者でも快く受け入れる博愛と慈愛の企業……そう謳っているが、コウイチロウの言った通りその裏で旧世紀の技術を現代に再現しようと見境のない非人道的実験を繰り返しているとの噂も流れ、実際アストラル社の敷地を跨いで戻ったものはいない。当然、アストラル社はなんの根拠もないゴシップと一切認めず、それを裏付ける確たる証拠もないというのが現実だ。

「父がアストラルに加担しているとすれば、それは巽に少なからず不利益をもたらす。私はそれを止め、父の真意を知りたいのだ」

コウイチロウは落ち着いた口調だが、その目は真剣な眼差しだった。

「なるほど、そんな事情が…」

ワタルは何も言わず熟考する。できるなら企業の傘下に入ることは避けたいと考えていた彼にとってコウイチロウの提案は渡りに船だ。しかし、まさか企業間の駆け引きに巻き込まれるとは……

「何度も念を押すようだけど何かあった時のトカゲのシッポ切りなんて役目はゴメンだよ?」

「もちろんだ。私も相当なリスクを侵して君に接触をしている。信じて欲しい」

「トレミー、ウソ発見機」

ワタルのゴーグルを介してトレミーがコウイチロウを分析する。

「バイタルは極めて平均的。発汗や心拍数も異常ありません」

「どうかな?」

コウイチロウは微笑んだ。少なくとも敵意はないのだろう。しかしどうも好きになれない表情だ。

「……分かった。その支援、ありがたく受けることにするよ」

「ありがとう。これで私と君たちは運命共同体だ。仲良くやっていこうじゃないか」

「久々に友人ができましたね、ワタル。あなたの交友関係が広がって私も嬉しいです」

「一時的な協力関係!あくまで一時的な!」

こうしてワタルとトレミーの支援者が加わった。巽建機御曹司、巽コウイチロウである。


【ライディング・ホッパー:チャプター1終わり チャプター2へ続く】

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