ライディング・ホッパー:チャプター1 #2
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―――時は数刻戻る。
「君がワタル君だね?まずは『ストリートレース』優勝おめでとう」
巽建機の御曹司、巽コウイチロウは2m近い身長ににこやかな笑みを浮かべて手を差し出した。
「どうも」
ワタルは口数も少なくそっけなく返事をして握手に応じる。年の差は2歳ほどだと聞いていたが、こうやって向かい合うとまるで大人と子供だ。
「あのラストスパートでの急降下着地にはヒヤヒヤしたよ。あれじゃ仮に一着でも五体満足でいられる保証はなかっただろうに。ねえ、一体どんなマジックを使ったんだい?サスペンション?アブソーバー?それとももっとほかの秘密が?」
やたらと馴れ馴れしく接してくるコウイチロウにワタルは早くも辟易してきた。
「申し訳ありませんが、それについては技術的機密情報です」
バッグのストラップからトレミーの声が応じた。
「うん?いったいどこから声が?」
コウイチロウがキョロキョロとあたりを見渡した。どうやらオーバーリアクションは自然体のものらしい。
「ここだよ、ここ」
ワタルはストラップを指し示した。
「トレミー。自作のAIなんだ。ギア操縦のサポートやメンテナンスなんかも手伝ってもらってる」
「AIを自作だって?そんな馬鹿な!人工知能分野は大崩壊で完全にロストテクノロジー化したはずだ」
「私は特別製ですので」
トレミーがいつものように調子づいた。
「……なんてことだ。これほどまでに優秀な人材と技術がありレースで優勝しながら、どこからもオファーがなかったとはね」
「痛いところを突いてくるなあ」
そう。どこにも属さないフリーのギアライダーたちが腕を競い、優勝者となれば企業からのオファーを受け廃市街地でジャンク品漁りの生活からおさらばできる……そうした人生を逆転したい奴が集まるのがワタルが参加した『ストリート』のレースだ。当然、優勝は逃しても光るものを見出されればオファーが来るし、事実トウヤもアカネも今では企業にスポンサードされるオフィシャルギアライダーとなっていたが、ワタルには一件のオファーも来なかったのだ。
「やはり高高度急降下着地がまずかったのでは?」
「もう終わったことだろ。いい加減切り替えないと次に進めないよ」
「とにかく」
言い合いをしている少年とAIストラップをしばらく眺めていたコウイチロウは、なにやらひらめいたような顔をして言った。
「君は優勝して挑戦権を得た。それに応えまずは私、巽建機の次期社長たる巽コウイチロウがお相手しよう。もちろんライディングギアでね」