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【座右の銘を教えてください】 「歴史に学ばなければ、歴史が教えに来る」 (40歳・CDショップ店員、ライター)
【本企画の趣旨について】
この企画は、私、あじしおが、見ず知らずの人にインタビューをし、その人の人生を根掘り葉掘り聞きながら、「座右の銘」を教えてもらうというものです。
■CDショップ店員
※以下「あ」=あじしお(インタビュアー)
あ:本日はよろしくお願いします。
こちらこそよろしくおねがいします。
あ:現在のお仕事は何をされているんですか。
今は、タワーレコードの渋谷店で、クラシック担当の店員をしています。
あ:おお!渋谷のタワレコといえば、渋谷から原宿に抜けていく途中にある大きな店舗ですよね?タワレコといえば渋谷という印象です。
そうですね。大きい店舗ですし、そういう位置づけですね。
あ:では、まずタワーレコードの仕事に就かれた経緯について教えてもらえますか。
大学時代、就職活動をして、いくつかの企業と面接をしました。しかし、どうもそれは、私自身に合わないって思ったんですね。それに当時、新卒の学生の就職の状況も悪くて、本意な会社に入れる見通しというのが、正直薄かった。であれば、自分が好きなことを仕事にしようと思ったんです。
あ:なるほど。
それで当時、タワーレコードの渋谷店で、クラシックの店員募集があったので入りました。それが2004年4月ですね。途中、池袋の店に移って、2007年から2011年2月までタワーレコードで働いてました。
あ:あれ、一回、2011年でタワーレコード辞められるんですか。どうしてですか?
いやぁ、これは大失敗ですよ。私の人生で唯一やり直したいことがあるとすれば、ここでタワーレコードを辞めたことです。
あ:何があったんですか?
自分自身に行き詰まってしまったっていうんですかね。勝手に自分で行き詰まって、勝手に自分で立場を悪くしたというか。
あ:行き詰まった……?
池袋店に移ってすぐは、すごく調子が良かったんです。どんどんクラシックの売上の数字が良くなっていくわけですよ。ところが、2年目、3年目となると毎年自分が作った数字を上回らないといけなくなる。それがきつくなってしまったんですね。それに行き詰まりを感じてしまって、上司や会社との関係がどんどん悪くなる。私が悪くしたんですけどね。結局投げ出したくなってしまって、辞めたんです。これは私の人生の中でも大きな失敗ですね。
あ:それっていうのは、前年の成績を次年度に超えるのが難しいというようなイメージ?
そうですね。予算に対して積み増せなくなってゆく。まあ今考えると、全然深く考える必要はなかったんですけどね。
あ:そのあとは何をされるんですか?
そのあとは、書店に勤めました。CDはタワーレコードでやり切ったと思ったので、次は本をやりたかったんです。
あ:CDから本ですか。本がやりたかったというのは?
私、元々は本の方が好きだったんです。それで本屋で働き始めました。2016年2月までは本屋で働いていたんですけど、身体の調子が悪くなって、辞めることになりました。
あ:あら……。どうなっていくんですか。
それで、私の祖父が神主だったというのもあって、2年間2016年から2018年の2年間は神主の資格を取る勉強をしました。
あ:え、神主ですか。予想外にいろいろなキャリアの変遷があって驚いてます。神主はやってみたかったんですか?
いや、全然ですよ。私自身、次の責任ある身の振り方というのが浮かばなかったんですね。一方、家族は家族で私をどうするかについて話していたようです。最終的には話をもらって、じゃあ、やらせてもらいますって形になりました。
あ:それは神主になられたってことですよね?
そうですね。資格を取って、実際に神社でご奉仕もしました。
あ:でも、いま神主ではないということは神主は続けられなかった。
はい。私が引き継ぐにあたって準備がうまくいかないところがあったり、財務的な問題もあったりして、見通しがつかない状況でした。それでも働く必要はあるので、2018年は1年限りときめて新宿の本屋で働きました。そのあとの2019年は、神主をやるのか、他の何かをするのか分からない状態でした。
あ:それは不安とかはなかったんですか?
常識的に言えば、すごく不安に感じるべきですよね。でも、正直なところ、あまり不安ではなかったんですよ。
あ:それはどういう心境だったんですか。
それは人間誰しも自惚れていますから。自分がやってきたことって、本でしょ?クラシックでしょ?わりと競争相手が少ないところに知識がある。いざとなれば、その分野でどうにかなると思っているわけですよ。
あ:なるほど。争う相手も少ない?
市場も小さいけど争う相手もいないんです。クラシックのCDを専門的に扱っている方って、多分全国でも20人程度しかいない。
あ:心のどこかで「本」という戦場、「クラシックのCD」という戦場であれば戦える自負があったからこそ不安がなかったんですかね。
そうかもしれないですね。それと仕事を辞めている間も、アーティストとの付き合いとか、評論家の先生との付き合いというのは、一種の浪人、在野にいる間に増やしているんですね。活動は切らしていませんでした。
あ:たしかに、いつでも戦えるぞっていう感覚があれば不安にならないか。
それで、結局神主の道は難しいという整理が付いたので、再び2019年にタワーレコードに入って今に至ります。
■クラシックとの出会い
あ:時を戻しましてクラシック、音楽に出会ったのはいつ頃の話なんですか?
先程も言いましたが、私は書籍という趣味の方が長いんですね。私、中等科、高等科で図書委員をしていたんです。
それで中等科3年生の頃、たまたま作業しているときに、ある本に出会いました。「20世紀の名演奏家」という本です。何かというと、昔の名だたる指揮者とかピアニストとかのエピソードがたくさん書かれている本なんですね。
あ:「20世紀の名演奏家」ですか。
本をめくったときに、こういう人がいるのかと、計り知れない世界だなと思いました。こういう人たちがやるのはどんな音楽か知りたいと思いました。そこから、猛烈にはまっていきましたね。
あ:どのくらいのめり込んでいくんですか?
例えば、大学の頃は、月の半分くらい演奏会に行ってたんじゃないかと思います。
あ:演奏会で実際に聞きながら、家でCDなりで聞いたりもするんですか?
そうですね。ものすごい量を買ってました。
あ:そんなクラシックにハマった少年、青年時代ですが、どんな性格だったんですか?どちらかと言うと真面目って感じですか?
うーん、ムラがありましたね。勉強にしても興味があることは一生懸命やる。興味がないことは全然だめ。
平均点を取れている科目と取れていない科目の差がものすごいあるわけですよ。知的関心はあるんだけどムラがあったかな。それは今でもあるかもしれないですね。
あ:ところで、私の主観なんですが、クラシックを聞くにあたって、ある程度知識が必要だったり、系譜のようなものを知っている必要があったりするんじゃないかと思ってるんです。このあたり、初心者にとっては敷居が高い音楽ジャンルだと思いますか?
いや、そんなことないと思いますけどね。クラシックって400年存続しているんですよ。そんなに難しかったら、こんなにも存続しないと思います。いま演奏会でかかるものって、大雑把ですけど、350年くらい前から現代の間で書かれたものが多いのかな。難しくて、ややこしいものであればそんなにも長く聞かれることはないんじゃないんですかね。
あ:なるほど。
ただ、一つあるとすれば、ある時期以降クラシックっていうのは音楽のメインストリームではなくなって、いわゆるサブカルチャーのような位置づけに変わっていった。そんな背景の中で、普段聞く音楽とは種類が違うものだから、知識とか、いくつかの決まりごとを知っていた方が楽しいかもしれないですね。ですけど、知らなくても聞くのに不自由はないと思います。
あ:合う、合わないの問題なんですかね。
だと思いますね。例えば、藤井風さんを聞くときにコード進行がどうのこうのって気にしないでしょ?そういうのを気にしないのと一緒だと思いますけどね。
あ:なるほど。笑 たしかにそうですよね。ちなみに、クラシックの面白さとか、魅力ってどんなところにあるんですか?
極めて自由で多彩であることですね。あとは、感性をいかに論理的に表現するかというのが、創作においても、演奏においても、クラシックの一番おもしろい部分じゃないかなと思います。感性から始まるんですけど、論理的に表現しないといけない部分があるんです。
あ:「感性を論理的に表現する」というのをもう少し教えてもらえますか。
例えば、指揮者は楽譜を分析してオーケストラの前に立つわけですよね。けれど指揮者って自分で音を出すわけではない。目の前のオーケストラに対して、自分のイメージしたものを、動作もしくは言葉で表現して、自分とは別人格の人間に対して納得がいくように表現しないといけない。
あ:なるほど。
そうすると、必ず論理性が必要になる。他人にある程度納得がいくように表現できないといけない。これは演奏者でも同じです。例えば、ヴァイオリニストであれば楽譜を読んで、身体の動作に変換できないといけないんです。
感性から始まりはするんだけど、そこに論理性がないと、良い創作、演奏が出来ない。
あ:面白いですね。
あとは、もう少し興味を持って聞くとすれば、クラシック音楽が歩んできた過程と、例えば世界史とか、論理学とかを重ねてみると物事の考え方が広がると思います。
そういう聞き方をしないといけないわけじゃないですよ。ただ、そういう聞き方をすると簡単にいうと人生がとても豊かになる、教養が広がると思いますね。
■ライターとして
あ:さて、お話を文章執筆へ移していこうと思います。現在、ライターとしてもご活動されていますが、書くことはいつ頃からされてたんですか?
最初にタワーレコードに入って仕事をし始めて、あるときから書くことへの興味が湧いてきました。そこからは、お話があれば書かせてもらうようになりました。
あ:そのときの題材は、やはりクラシックを書かかれていたんですか?
そうですね。
あ:書くことについての興味のきっかけって何かありますか?
高等科のときに、数学の点がすごく悪かったんですよ。それで、高3のときにデカルトの「方法序説」を読んでレポートを提出しなさいっていう課題が出たんですよね。それを提出したら、その先生に褒められたんですよ。それがすごく嬉しかったのを記憶してます。それが物を書くことへ興味を抱いたきっかけだと思いますね。
あ:お仕事として書くときって、やはりクラシック関連が多いんですかね?
そうですね。クラシックに関しては、ある程度書けますよっという証拠がありますから、一応クラシックを中心に看板を出してはいます。でも、あくまで主観ではありますが、わずかでも興味があることであれば何でも書けます。
あ:いろいろ聞いてきましたが、近い将来においての目標はありますか?
50歳までに書き手として食べられるように、研鑽を積むことですね。ゴルフ観戦が好きなんですけど、プロゴルファーは50歳からシニアとなり、日本ではシニアツアー、アメリカだと「チャンピオンズツアー」というレギュラーツアーとはまた違った豊かさのあるフィールドに進めます。そこから第2のゴルフ人生が始まるって言われるんですね。私も50歳から、書き手として第2の人生を歩みたいです。なので、それまでにどれだけ40代一生懸命になれるかだと思ってます。
■座右の銘を教えてください。
あ:それでは最後になりますが、座右の銘を教えてもらえますか。
「歴史に学ばければ、歴史が教えに来る」です。アメリカで、長く上院議員をして、のちに駐日アメリカ大使も務めた「マイク・マンスフィールド」の言葉です。
あ:どのように解釈すればいいですかね。
重く考えることも出来るし、小さい次元で考えることも出来る、いろんな見方が出来る言葉だと思います。
例えば簡単な例でいうと、スポーツとか、そういう次元においても、歴史を知っていたほうが、物の見方とか、考え方が広がると思うんですよ。
ゴルフを見ているときに、このあと、同じミスして負けた人がいたなとか。だから次のショットが大事だなとか思うわけです。歴史を知っていると、物事をそういう風に楽しんで見られますよね。
歴史を知っていたほうが、世の中楽しくなると私は思っています。
あ:あらゆる事象に歴史があって、それを考慮するとおもしろいし、物事の見方が広がるというようなイメージですかね。
私は若い人に期待しているんですよ。今の若い人はこれまでの歴史と、新しいテクノロジーが使える。だから、若い人が一番優秀だし、有利だと思うんですよ。若いから経験がないというのは嘘で、経験が無いなら歴史に学べばいいと思うんです。歴史に学べば、それが経験になりますからね。