神田橋処方を試してみた話
神田橋処方というのは漢方の処方の組み合わせのことで、
「桂枝加芍薬湯」と「四物湯」を同時に飲む処方のことである。
組み合わせを変える方法もあるそうだが、基本はこの二つのようだ。
メカニズムこそ不明だが、
神田橋処方はPTSDやそれ由来のフラッシュバックに効くそうだ。
個人差こそあるが、飲んだ人の多くがフラッシュバックの改善を体験している。不思議な処方である。
麻酔がなぜ効くのかが長らく不明なのと同じように、この処方にもよくわからない効能があるということだろう。
ここからは自分の話になるが、私には複雑性PTSDと言ってもいい感じの心の傷がある、と自認していた。フラッシュバックがどのようなものなのかはわからないが、過去のことを思い出して手が止まり、鬱になることもよくある。
もし仮に、自分が体験してきた過去の反芻がフラッシュバックの範疇の出来事なら、神田橋処方で改善できるんじゃないか。
そんな一縷の望みにかけて、1ヶ月ほど神田橋処方を服用してきたので今回はそのレポと効いたかどうかを書いていこうと思う。
医師への打診
精神科医というのは大変な仕事だ。
しかし、中には厄介な人種も混じっていて、気難しい先生も一定数存在する。
精神疾患に悩む人は自分で症状や病名を調べて、
「自分は〇〇なんじゃないか?」
という予感を抱きながら診察を受け、考えていることを話すわけだが、医師によってはこの素人判断的な行為を嫌う人がいる。
薬なんかも一方的に決めてしまい、こちらが希望するものを出してくれないなんて人もしばしばいる状況だ。
とまぁ、くどくどと主治医ガチャハズレパターンについて書いてきたが、幸いにも私の主治医はいい意味でエゴの少ない人だった。
神田橋処方に該当する漢方の名前を出したら、すぐに
「神田橋処方ですね!」
と先回りしてくれて、お願いしたらあっさりと処方してくれた。
今は事情あって離れてしまったが、この主治医には感謝しかない。
というわけで、「桂枝加芍薬湯」と「四物湯」は簡単に手に入った。
後は服用して効果を試すだけである。
ジャッジメント
しかし、処方されたその日に服用するのは少しためらってしまった。
もし効果がなかった場合、自分の不調はPTSDとは関係のない怠惰によるもので、フラッシュバックかもしれないと思っていたのはただ嫌なことを思い出して嫌な気持ちになっているだけ、という可能性が強化されてしまうわけだ。
精神疾患を疑う人にとって最も怖いのは、想像していた病名を宣告されることではなく、別に病気でなく健康と言われることなのだ。
多くの上手く生きられない人は、これまでの人生で味わってきた違和感や疎外感を吐き出しにメンタルクリニックを訪れる。
本人は「自分は〇〇障害に違いない」のような予感と期待を抱いてやってくるのである。
ある種の生きづらい人にとって、メンタルクリニックの診断はこれまでの違和感の答え合わせであり、ジャッジメントの場なのだ。
精神疾患とか障害とか、そういう診断がおりるよりも、ただ無能なだけの健常者と断じられてしまうのが怖いわけである。
長く脱線したが、かくいう私もほのかにそういう恐怖を感じていた。
主治医曰く、神田橋処方が必ず効くということはないそうだ。
ただ、飲んだ人の6割近くは効果を実感するとの事で、PTSDやフラッシュバックにおいてはかなり効果的なのは間違いないとの事である。
仮にこれを1ヶ月服用してみて、効果がなかったらどうしよう。
自分が日頃から感じている生きづらさや過去の足かせは、誰にでもある事で取り立てて騒ぐほどでもない、ということを薬によって断じられてしまう可能性がある。
それが怖かったせいで、処方された当日は飲めなかったわけだ。
しかし、いつまでも放っておくわけにもいかない。
処方の翌日から、神田橋処方を飲み始めることにした。
で、味は?
薬に対してあるまじき見出しだが、桂枝加芍薬湯と四物湯の味を語らせてほしい。
不味い、とにかく不味い
粉薬のような形状の薬なので、飲むとなると少なからず味がしてしまうのだが、これが非常に不味いのだ。上手く飲めた時はいいが、ちょっと失敗して粉が舌にこびりついた時は最悪である。
私はシナモンなどの余計な風味を感じさせるような物が苦手なのだが、神田橋処方はまさに苦手なベクトルの嫌な味をしていた。
普段飲んでいた五苓散という漢方薬は少し嫌な感じのほうじ茶といった感じの味でそこまで苦痛ではなかったが、神田橋処方は飲むのが少し嫌になるくらい不味かった。
まぁ、良薬は口に苦しというので、黙って毎日飲むようにしていた。
無駄な話がとにかく続いたが、ここからはどのような効果があったかを書いていく。
効果のほどは
結論から
結論から言ってしまうと、
フラッシュバックの改善などの劇的な効果は感じられなかった。
個人差があるのは承知の上だったが、見事なほどに何も変化を感じなかった。さっきのジャッジメントの話に従うのなら、見事に私のPTSDやらフラッシュバックやらの疑惑は断罪されたわけである。
ただ、神田橋処方がガセというわけでもないので、PTSDやそれ由来のフラッシュバックで日常生活に支障をきたしている人は試してみてもいいと思う。味はともかく、漢方は生薬メインなので飲むこと自体にそこまでデメリットはない。
気になる人はぜひ、主治医に相談してみよう。
どうやら精神科医の間では有名なようなので、話も通りやすいはずだ。
さて、フラッシュバックやらなんやらという本命の効果はなかったわけだが、いちおう体調面で変化があったのでついでに書き記しておくことにする。
自己嫌悪に関して
まず飲み始めの時期だが、自己嫌悪が薄くなったような気がした。
あくまで気がしたというだけで、なんともぼんやりした感想だが、飲み始めた時のメモにそう書いてあるのだからそうなんだろう。当時の私の中では。
また、メモには
「変な義務感がPTSD由来のものだとしたら、
処方の効果が出ていると言えるかもしれない」
とも書かれていた。
変な義務感というのは、
「頑張らないといけない、頑張らないと自分には価値がない」
みたいな思い込みで自分を無駄に追い込む心の悪癖で、私はしばしば精神的自傷行為をしてきた。
だが神田橋処方を試した直後、それが薄くなった気がしたそうなのだ。
こうして記事を書いている私は、処方された分を飲みきっている。
しばらくは神田橋処方を服用してない状況なのだが、それでも自己嫌悪のスパイラル感は少し薄くなったような気もする。
非常にぼんやりした感想だが、これが神田橋処方の効果なら偉大な話だ。
単に何もかもどうでもいいと、人としての生を1段階諦めただけなのかもしれないが…。
非常にぼんやりした感想だが、感じたメリットはこれくらいだった。
逆に良くない変化もあったので、今度はそっちを書いていく。
悪夢が増えた
これもぼんやりしていて、神田橋処方とは関係のない部分が原因かもしれないが、夢見が非常に悪くなった。
これまでもたまに悪夢を見ることはあったが、神田橋処方を飲んでいる最中は悪夢率80%ループといった感じだった。
内容も生々しいというか、内心のコンプレックスが表出したような感じだ。
・高校時代、留年するかもと危機感を抱く夢
・前職時代、スケジュールに間に合わないと焦る夢
・架空の修学旅行で置いてけぼりにされてとにかく焦る夢
などがメインで、私が嫌な気分になる要素てんこ盛りなラインナップだった。こういう当時の焦りを再現するような夢はたまに見てきたが、神田橋処方服用期間は悪夢のアラカルト状態だった。
そのせいか眠るのが憂鬱になってしまい、寝起きも悪くなった。
元来の怠惰な性格も相まって、9月から10月にかけて生活リズムが完全崩壊した。日が昇る頃に寝て、日が落ちた頃に起きる、吸血鬼のような生活まで堕ちたわけである。
といった感じで、神田橋処方を試している期間は大いに睡眠に悩むことになった。とにかく悪夢がひどいし、その余韻で起きられないのだ。社会人だったらこの期間で完全に見放されてクビになるであろうていたらくである。
なお、神田橋処方をやめて五苓散のみに戻してからは、悪夢はほとんど見なくなった。
今日は午前10時に起床できたので、生活リズムも順当に行けば治りそうである。
まとめ
長くなったので、飲んでみての影響をまとめてみる。
①劇的な効果は見られなかった
※あくまで私には効かなかった、
もしくは私の症状はフラッシュバックと呼べるレベルではなかった。
という話であって、悩む人は一度試してみてもいいとは思う。
②自己嫌悪が薄くなった気がした
※あくまで「気がした」である。
それくらいにぼんやりと何となくの効能だった。
③悪夢が増えた
※内容は自分の軽いトラウマをなぞるような内容が多かった。
といった感じだろうか。
神田橋処方にはぼんやりとメリットやいい効果があるようにも思えたが、
それ以上に悪夢を頻繁に見るようになって生活リズムが乱れてしまった。
短くまとめるとこんな感じだ。
神田橋処方の効果による部分と私自身の怠惰な部分の見分けがつかないので、飲んだ人が必ずしもこうなるというわけではないのだろう。
今回は薬が合わなかったと判断しておくことにするが、機会があればもう一度処方してもらうかもしれない。
その場合、目的は治療ではなく興味本位になる。
今回体験した変化が神田橋処方によるものなのかどうかが地味に気になるからだ。
ネガキャンみたいになってしまったが、神田橋処方は有力な選択肢だ
精神医療界隈で有名なだけあり、フラッシュバックに苦しむ人の一定数に効果があるのはゆるぎない事実のようだ。
実際、処方を試した人の何割かがフラッシュバックの改善を体験している。
メカニズムが不明というのが不思議だが、効果があるのは間違いない。
私には合わなかった、もしくは私は神田橋処方を飲むほど重症ではなかった、という話なので、気になる人はぜひ主治医に相談してみるといいと思う。
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