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百寺巡礼(021)四天王寺 大阪 2022年8月26日

庶民の寺――四天王寺に響く祈り

大阪の空を見上げると、何処からともなく遠い時代の記憶が流れ込んでくる。この地に佇む四天王寺は、聖徳太子が建立したと伝わる歴史の大河の中にある。その佇まいは、ただ古いだけではない。ここには、大阪という街の魂そのものが宿っているのだ。

山号を荒陵山(あらはかさん)とするこの寺院は、和宗の総本山として、救世観音を本尊に祀る。境内に足を踏み入れると、千年以上前の奈良時代の瓦が出土したという歴史の重みが、地面からじわりと伝わってくる。この寺の歴史を知ることは、大阪という街の物語を辿ることと同義だ。

四天王寺は、大阪の庶民の寺である。それを象徴するのが、昭和20年3月13日から14日にかけての大阪大空襲。焼け野原と化した街と共に、寺もまた炎に包まれた。聖徳太子の祈りが込められた建物が、燃え尽きたその瞬間、ここに祈りを捧げてきた人々の胸には、どれほどの絶望が広がったのだろう。

だが、この寺は死ななかった。むしろ、それは新たな命を得るための試練であったかのようだ。瓦礫の中から蘇らせようとする庶民の力。誰もが自らの手で寺を再建しようと立ち上がった。汗にまみれたその努力は、ただ寺を建て直すという行為を超え、戦後の混乱に生きる希望を灯す行為でもあったのだ。

再建を果たした四天王寺の姿を目の当たりにしたとき、私はその背後に潜む無数の人々の声を感じた。祈り、希望、涙、そして未来への約束。庶民の力が、この寺を現代にまで運んできたのだ。

風にそよぐ鐘の音が聞こえる。それは1000年を超えた時を紡ぎながら、この寺が語り続けてきた物語の一部だった。四天王寺は、ただの歴史的建造物ではない。ここに生き、祈りを捧げた無数の人々の「生きた証」そのものなのだ。

振り返ると、夕陽に染まる寺の輪郭が優しく滲んでいた。四天王寺の歴史は、未来への灯火として、これからも大阪の人々を照らし続けるに違いない。


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