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【開催報告】第7回あざみのカフェレポート(後編)「その連携ほんまモン??多職種連携と協働についてホンネを語る」

2021年12月18日に、「その連携ほんまモン??多職種連携と協働についてホンネを語る」をテーマに行われた第7回あざみのカフェ。

前半戦では3人のスピーカーから

・連携と言いつつ、クライエントの「気持ちの代弁」に終始していないか?他職種のニーズはつかめているか?
・心理士の議論には「結論」がない?
・連携での心理士の専門性は、こころを捉える視点を育むこと

といった意見があがっていました。今回は、レポート後編をお送りします!

前編はこちら https://note.com/azamino_analysis/n/na5c1d4b2655f

▼目次

■タイミングよく連携してほしい
■意見はへりくだらず、率直に言おう
■「独走」する心理士
■個人療法モデルから、「みんなでかかわる」モデルへ
■ほんまモンの連携って? 「顔が見える」ことが第一歩

 ここまではスピーカーの3人の体験を中心に、心理士が多職種連携する上での難しさや苦労についていろんな角度から話してきました。
 ここでメインパーソナリティの岡田さんから、事前にアンケートをとっていた、他の職種の方の意見を紹介します。さて、他職種の方の目には心理職との連携はどう映っているのでしょうか。

■タイミングよく連携してほしい

 連携したい相手が忙しいという問題は多職種連携につきもの。タイミングが悪い連携はそれ自体が問題ですよね。

事前アンケートでは、以下のような意見が挙げられていました。

 短時間で端的に話すのは難しいけれど、現場では重要なことでもあります。現場での具体的な工夫がいろいろ紹介されました。

・ 定例会議などであらかじめ話をする場が決まっていると、その場で言うことができるので楽(木下)
・ 相手によって直接話して報告してくれた方が良い、報告書など紙でくれた方が良いなどやりやすい方法が違うので、それを最初に聞いておく。あるいは、看護師など他職種にその人にどう伝えるのが良さそうか聞くのもアリ(岡田)
・ 児相であれば、通院の付添い時に文書を持参するなどして、読んでもらう(坂口)
・ 児童福祉司もかなり忙しいので、記録を残してデスクに貼っておくことがある(坂口)
・ ツーカーの人であれば、休憩時間などちょっとした時間での報告で伝わる(木下)
・ 3分だけ時間ください、など必要な時間を提示してサッと声をかける(坂口)

 ただ、連携にタイミングの良さを求める意見はすべて精神科医の皆さんから 寄せられたものでした。ここには精神科医がお忙しすぎるという問題もあるかもしれません。

■意見はへりくだらず、率直に言おう

 心理士があまりにへりくだりすぎていて、自分の意見を言わない。自分に自信がないように見えて頼りないそうです。とても残念な気持ちになる意見ですね。

事前アンケートでは、こんな声が寄せられていました。

これについてのスピーカーのコメントです。

・ へりくだりすぎは、臨床心理士自体の問題でもある
・ 連携は大人と大人のすることなので、自信がないと甘えられても困る(木下)
・ 心理士の側に「自分たちの専門性が高すぎて、相手に伝わらないんじゃないか」という傲慢な考えもあって、それを抑えるために変にへりくだってしまう(木下)
・ 自分が言うよりも周囲の意見を促すような、促進的な立場でいないといけないカンファもある。ファシリテートも心理士のアイデンティティのひとつ(岩倉)

 実は、ここまでチャットや挙手によるリスナーからのコメントはありませんでした。なかなか入りづらいとは思うのですが。けれど、この「へりくだりすぎ」のテーマに対して、ある(勇気ある)リスナーから

「今のテーマ、まさに私だ!って感じです」

という感想をチャットでいただきました!(ありがとうございました!!!)

 他の専門職のなか、特に心理士はひとりだけの職場だと「自分がなにか言っていいんだろうか…」というきもちになってしまうこと、ありますよね。

 このコメントのおかげで流れが変わり、チャットでの意見も複数寄せられるようになり、リスナーも参加してのやり取りになっていきました。まさに「へりくだり」を打破して、意見を言ってくれて流れが変わりました。

■「独走」する心理士

 今度は、先ほどの意見とは逆です。周囲と方針を共有せず、独走してしまう心理士の問題です。まさに「連携してくれない!」ということですね。

事前アンケートで挙げられていた意見を紹介します。

これについてのコメントは次の通りです。

・ 処方について意見した心理士がいた、というコメントが挙げられていたが、処方についてはもし言うとしても、患者には言うべきではない。連携相手に直接意見を求めるべきだろう。(木下)
・ こういう人はたしかにいるにはいるが、少数派ではないだろうか。(坂口)

■個人療法モデルから、「みんなでかかわる」モデルへ

 ここで、心理職が独走しがちな理由の一つとして心理職の初期教育が話題に上がりました。これはスピーカー同士のやり取りでのすれ違いやすさから気づかれたことでした。

 個人療法モデルでの教育を受けてきていると、その影響で「ひとりのクライエントはひとりの治療者がみる」ことにこだわってしまうところがあります。個人療法モデルでは、複数の心理士がひとりのクライエントにかかわるのは弊害と考えるからです。

 たとえば、違う施設や機関で同時並行的に心理療法を受けるのは避けられるべき、というように。だから、ある意味で生理的に?複数の関係者でクライエントに関わることに違和感があったり、気づくと自分にとっておなじみの個人療法モデルで考えてしまっている。それは行政や福祉領域には当たり前に存在している「コミュニティで抱える」という感覚とはかなり違います。そういう違いがこの場でも生じていたようでした。

 別の言い方をすると、これは心理職が「one of them」になるのが苦手ということかもしれません。木下さんが最初に話していたような「自分は病院職員のひとりなんだ」という意識で「みんなでかかわる」モデルが必要なのでしょう。

 実際、児相で働いているスピーカーの坂口さんは基本的に「one of them」の意識でいるそうです。だからこそ、心理職は空気を読んで黙っていないで、心理療法の視点を全体に積極的に活かすべきではないかと感じられているんですね。

ここでなんと、リスナーからコメントが寄せられます。
 その方は開業の心理職で、あるクライエントに精神分析的心理療法を行われているそうです。
 なんと、その同じクライエントに医療機関では別の心理士が認知行動療法を実施しており、主治医を介して連携しているというご意見です(!!!)。そもそも、同時並行の複数の支援者による心理療法だって決してタブーではない。そう思わせてくれる素晴らしい実践のお話しでした。

 なんだか心理職にだって「独走」でもなければ、「へりくだる」わけでもない、「one of them」をちゃんとやれる感じがしてきます。

■ほんまモンの連携って? 「顔が見える」ことが第一歩

 おかげさまで今回のカフェもあっという間に過ぎて、だんだん残り時間もわずかになってきました。
 最後に、メインパーソナリティの岡田さんが皆さんに投げかけます。

それでは「ほんまもんの連携」とは一体どういうものなのか?それはどうすればできるのか?

スピーカーからは、以下のような意見が出ました。

・ 「ほんまもんの連携」は、一緒に働いてお互いが成長したと感じられたときではないか。そのためにも、率直なやりとりが不可欠。(木下・坂口)
・ コロナ禍で直接会いづらい時期だからこそ、連携には飲みニケーションや、勉強会での雑談が大切であることをあらためて実感している。(岩倉)
・ 連携をしていくなかでその職種について知っていく、それだけではなくて、その人を知ることから始まる、ということが大事。チームで動くことで、その人を知ることができる。(坂口)
・ 一度チームで連携がうまくいくと、その後やりやすくなる。(多田)
・連携には、みんなで喜べる達成感がある。そういうときは「世の中捨てたもんじゃない」と思える。(木下)
・ 若い人でひとり職場に入っていく人へのサポートや研鑽も大事ではないか。みんな、今日の話のような連携の成功例を知りたいと思う。(重宗)

リスナーの方からもご意見をいただきました。

・ (最初にチャットに意見を書いてくださった方から)ここでも、発言して大丈夫かなという思いがあった。
・ 意見が言いづらいという問題について、心理士としての意見しか言ってはいけないという思いがないだろうか? 自分がどの立場で話しているかがごちゃごちゃになることもある。
・ 他職種の方が心理士資格を取ることは多いが、心理職が他の専門資格を取ることは他職種の方はどう思われるんだろう?

 連携における心理職の遠慮は、他の職種の人たちの職域を尊重しようという配慮でもあるようです。

 多職種が尊重し合うためにできることは、他の職種とのコミュニケーションであり、それぞれにお互いの顔が見えることではないか。
それが今回のカフェでの「ほんまもんの連携」でのとりあえずの結論です。

 さあ、まずは心理職も「私はこう思うんですけど」と話し始めてみましょう。きっと「one of them」の仲間として他の職種も応援してくれるはず。

というわけで、第7回あざみのカフェ「その連携ほんまモン??多職種連携と協働についてホンネを語る」でした!

 参加された皆さん、事前のアンケートに答えてくれた他職種の皆さん、ありがとうございました!
 コロナ感染者数が日々増加していますが、なんとかサバイブしてまた会いましょう!

※なお、次回のカフェは2022年3月下旬を予定しています。

報告者:山口昂一・木下直紀

【参加者の声】(終了後のアンケートから一部抜粋)

《連携について》

・ 何が連携なのか、何故連携が良いのかがよく分からないのにチームをやっているフリをしなければならない状況はあると思います。どうしてそれ自体の研究がないのかな、と今回のテーマを見て改めて思いました。2回目3回目の「連携」回はあっていいのでは。
・ 心理職からだけでなく,他職種からの視点が聞けて面白かったです。情報共有をするときはまず相手の1日の動きを把握するところからなど実際に働いている方だからこその経験が聞けて参加してよかったと思いました。また,自分の性格的に何か思ったり気になることがあっても,「間違ってないだろうか大丈夫だろうか」と不安が強い方で言えずじまいなことも多いのですが,難しく考えず,「まずコミュニケーションを,話してみないとわからない」という気持ちを持って居ようと思いました。
・ 連携にあたって、私自身が他職種の人達を「職種」で見ていた部分が大きいのではないかと思いました。連携する相手はどういう人なのかという個人を見る部分を増やすと、連携をするということのハードルが下がるように感じます。今回お話を聞いていて、連携も単純な人と人との繋がりのひとつなのではないかと考えるようになりました。
・ 最初のころにあった木下さんの「それでどうする、まで伝える」という意見のインパクトがすごかったです。話し合いなどで求められている(困っている)のはそこなのに、それを決めるのは主治医、という感じがありました。ですが、その後のみなさんの討論を聞いていると、決めるのは主治医、と思っていたのは私であり、それは変なへりくだりだったのかもしれず、患者さんとのやり取りで得たものや自分の考えなどをもとにして意見してもいいのだな、まずはそこからだ、という感じになりました。

《心理士としてのアイデンティティについて》

・ 「臨床心理士はいらない」と言われている職場で、どう存在感を出すかにとらわれ過ぎていたことに気が付きました。臨床心理士の相談者の気持ちに寄り添う姿勢でも良いのだと思いました。これからは少し力を抜いて、自然にやって行きます。
・ 「心理職は心のことを独占する立場ではない」という意見が確かにそのとおりだと思いました。心を扱うことを心理職だけのものにしてしまうことは、偏った心をつくることにも繋がりそうと思いました。
・ 児相心理司の話が期待外れだったというトーク、すごく身に覚えがあるものでした。心理職として子どもの代弁者になりたい、より良い方向性をみんなで考えたい、と思いつつ、その解決策を提案できるほど自分には能力がないという無力感をよく抱きます。そんな時は、一人で抱え込まずに周りとの協働の中で何か探っていければ良いのかなぁという気持ちになりました。

《他職種の方からの感想》

・ 心理職の方々の連携に対する葛藤が聞けたり、クライエントのためにより良い連携を探っておられる想いが知れて良かったです。
・ 心理の方には「どうするか」の具体的な意見をあまり求めてはいけないものだと勝手に思っていましたが、そうでもなさそうなことがわかりました。

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