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人間農場と希望のない明日
オレたちに明日はない。
世界政府軍から加えられるあの攻撃の正体が掴めない。レーダーでも拾えない。ミサイルでも撃ち落とせない。機関銃でも吹き飛ばない。どこから来て、どう作用して、どうして死んでいくのか……仲間たちの死を散々見てきたオレにも、さっぱり分からないんだ
ステルス軍用機の「ブゥ……ン」という音が煩わしい。オレだって、早くこの建物から出て、敵と対峙しなければならないことは分かっている。銃を撃って相手に当てるためには、相手からも狙える場所に立たなくてはならないからだ。
銃弾だって、もう僅かしかない。オレの命が明日までもたないだろうということは、正直わかっている。けれど、それは「今死んでもいい」ということにはならない。恐怖がオレをこの暗い廃墟に留まらせる。
オレは後ろ向きな選択として、この建物を探索することにした。銃弾の一発や二発、案外転がっているかもしれない。レーションでもコオロギペーストでもいいから、腹の足しになるものが欲しい。
この建物は世界政府公営のアパートであるようだ。廊下に貼られた《ビッグ・ブラザー》めいたマスコットのポスターを引き剥がして、オレは一つの部屋に入った。
既に世界政府軍に荒らされた後のようだ。小さな子供のいる家族が住んでいたらしいことを、ひっくり返ったベビーベッドが物語っていた。家族はどこに行ったのだろう。逃げられたのだろうか。
あいにく、冷蔵庫の中身はみな腐っていて駄目だった。こういう世界でも、蠅は腐肉に集るようだ。
……肉?
なぜ肉があるんだ? 家畜なんてもうどこにもいないはずだろう? ではなんの肉なんだ……?
《食用人間》だと? 本当に存在していたのか? まさか? 軍隊はこの肉を取っていかなかったのか? なぜだ?
もう一度、冷蔵庫を見てみる。しかし、そこに肉は無かった。
幻覚か──?
思った以上にオレ自身の心はダメージを受けているようだ。もう何週間も戦いを続けているから、仕方ないことだろう。
自分の故郷を思い浮かべつつ、あの家にいた家族を想う。あの家族は、ちゃんとシェルターに入れたのだろうか。それとも、殺されてしまったのだろうか。
……食用人間にされたんじゃないだろうな?
食用人間なんて、本当に存在するのか? 「冥王星を惑星に」とか意味の分からないことばっかり言いやがる世界政府の世迷言かと思っていたが、本当に存在するのか?
疑わしい……疑わしいことは恐怖だ。
どこまでが本当で、どこからが嘘なのだろうか? オレが肉を見たのは本当なのか? オレが肉を幻覚と思ったのが嘘なのか?
恐怖は、オレの身体を建物の外へ駆り立てた。残弾を撃ち尽くすように走った。
オレにはもう明日はない。けれど死ぬときはミサイルや機関銃で撃たれたい。この肉を破壊してもらわなくては……!