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「檸檬」(さだまさし作詞)は希望、それとも絶望?

さだまさしの「檸檬」は、青春や過去の愛、そして時間の流れによって失われていくものに対する感傷が深く描かれた作品です。特に男女の感情の揺らぎや、女性の心情の繊細な変化が、象徴的な言葉で表現されています。以下に、詩全体の解釈をまとめます。

1. 湯島聖堂の石の階段

「或の日湯島聖堂の白い石の階段に腰かけて」


湯島聖堂は学問の象徴としての歴史ある場所であり、ここでの「石の階段」は、時の流れや永遠性を象徴しています。彼女がこの石の階段に腰掛けているシーンは、時間の流れに逆らえない現実や過去に思いを馳せながら立ち止まる瞬間を意味しています。青春や愛が過去のものとなりつつある中で、その儚さを感じ取っている彼女の心情が描かれています。

2. 檸檬を盗んだ行為の象徴

「君は陽溜まりの中へ盗んだ 檸檬細い手でかざす」


「盗んだ檸檬」は、青春や過ぎ去った一瞬の美しさを無理にでも掴もうとする行為を象徴しています。檸檬は青春の象徴であり、それを「盗む」ことは、彼女がその美しい瞬間を自分のものとして確保しようとする心の動きを表しています。檸檬の美しさとその背後にある酸味は、青春や愛の美しさと苦味、そして失われゆく儚さを同時に示しています。

3. 檸檬を齧る行為と現実の受け入れ

「きれいねと云った後で齧る」


彼女が檸檬を「きれい」と言い、その後に齧る行為は、青春の美しさと同時に、それが失われていくことの苦味を噛みしめる行動です。檸檬を齧ることで、彼女は過去の甘美な思い出を味わいながらも、現実の苦味や痛みを受け入れようとしています。青春の輝きは短く、それがもはや戻らないことを彼女は理解しています。

4. 別れの決意と遠ざかる過去

「喰べかけの檸檬聖橋から放る」


檸檬を齧った後、それを聖橋から放り投げる行為は、彼女が過去の愛や思い出を手放そうとしている象徴です。投げ捨てることで、彼女は過去と決別しようとしていますが、完全に忘れることはできず、どこかに未練が残っている様子が感じられます。投げ捨てた檸檬が「快速電車」とすれ違う描写は、時間の経過とともに過去が遠ざかっていく様子を描写しています。

5. 電車の象徴 — 総武線と中央線

「喰べかけの檸檬聖橋から放る 快速電車の赤い色がそれとすれ違う」


ここでの「赤い快速電車」は、中央線を指していると考えられます。中央線の赤は、都会的な生活や日常の喧騒、急ぎ足で過ぎ去っていく時間の象徴です。一方、「檸檬色の電車」は、総武線を指していると考えられ、過去の穏やかな思い出や青春時代を表していると解釈できます。  
総武線と中央線が交差する御茶ノ水駅上の聖橋で、彼女は青春や過去の愛が現実に押し流され、遠ざかっていく様子を感じ取っています。総武線は檸檬のような明るい色を持ち、過去の輝かしい日々を思い出させる一方で、中央線の赤い電車が現実の速い流れを象徴しているため、彼女はその対照的な感情の中で揺れ動いていると言えます。

6. 涙と感情の揺れ

「君はスクランブル交差点斜めに 渡り乍ら不意に涙ぐんで」


彼女がスクランブル交差点を渡りながら、突然涙ぐむ場面は、過去の感情が不意に溢れ出す瞬間を描いています。都会の喧騒の中で、過去の愛や青春に対する未練や痛みが彼女を襲い、思わず感情が込み上げてくる様子が、涙として表現されています。過ぎ去った時間が二度と戻らないことへの無念さが、ここで強調されています。

7. 失われた青春と愛の虚しさ

「まるでこの町は青春達の 姥捨山みたいだという」

彼女は、この町がまるで「姥捨山」のように、かつての青春や愛が無情に捨て去られていく場所だと感じています。都会の中で、人々がかつて抱いていた愛や希望が次々と捨てられていく様子を見て、自分の青春や愛も同じ運命にあることを悟っています。彼女の心の中では、かつて大切にしていたものが、今では価値を持たなくなり、忘れ去られることへの虚しさが強く描かれています。

8. 時の流れが愛を消し去る様子

「ねェほらそこにもここにもかつて 使い棄てられた愛が落ちてる」


「使い棄てられた愛」は、かつて大切だったものが時間とともに不要となり、忘れ去られたことを意味しています。彼女は、自分の愛だけでなく、他の人々の愛や青春もまた、過ぎ去り、捨て去られていることを認識しています。

「時の流れという名の鳩が 舞い下りてそれをついばんでい」

時間を象徴する鳩が、捨てられた愛を「ついばんでいく」という表現は、時間が過去の愛や思い出を少しずつ消し去っていく様子を表しています。時間が経つにつれ、過去の感情や思い出が無情にも忘れ去られ、徐々に消えていくという現実が描かれています。また、鳩は「時の流れ」を象徴する他に、以下の意味も含んでいると思われます。
平和と和解 時間が経つことで、過去の感情が癒され、心が平穏を取り戻す。
自由と解放 過去から解放され、前へ進むための自由を象徴。
伝達者 時間を通じて、過去からのメッセージや感情を運び、忘れ去られる前に何かを伝える役割。

9. 夢と愛の終焉、そして静かな別れ

「喰べかけの夢を聖橋 から放る 各駅停車の檸檬色がそれをかみくだく」


過去の夢や愛が、現実の中で徐々に失われていく様子が描かれています。総武線の「檸檬色の電車」がそれを噛み砕くという表現は、かつて抱いていた希望や夢が時間の流れの中で壊れ、消え去っていく様子を象徴しています。

「二人の波紋の拡がり数えたあと 小さな溜息混じりに振り返り 消え去る時には こうしてあっけなく 静かに堕ちてゆくものよ」

最後に、二人の関係が波紋のように広がり、やがて静かに消えていく様子が描かれています。彼女はその終わりが予想以上にあっけないことに気づきつつも、静かに受け入れています。過去の愛が穏やかに終焉を迎え、消えていくことを悟っているのです。

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総括

「檸檬」は、湯島聖堂の石の階段や檸檬を盗むという象徴的な表現、そして総武線と中央線の対照的な描写を通じて、青春の儚さと過ぎ去った愛の無情さを描いています。檸檬は青春と過去の愛を象徴し、時間がそれらを次第に消し去っていく様子が描かれています。彼女は過去の愛を手放そうとしつつも、完全には忘れられず、時の流れに押し流されていく運命を静かに受け入れているのです。

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