『バスカヴィル家の犬』~ホームズなんて足湯小説だ、なんて言ってごめん⑦~
導入から古めかしい怪奇味があって、やっぱりぐいぐい引き込まれた。依頼人モーティマ博士が持ち出した古い祟りの記録から話はドロドロと暗い雰囲気に包まれていく・・・。
※大昔ホームズを読み進めていた頃の記録メモの⑦です。
導入から古めかしい怪奇味があって
やっぱりぐいぐい引き込まれた。
ホームズたちの留守中、依頼に来たらしい紳士の
忘れ物のステッキから、客は田舎の医者であろうとか、
いつものごとく判じていると、当の依頼人が再び訪ねてきて、
まずもってその推断は間違ってなかったとわかる。
しかし、そんな枕はどうでもいい。
依頼人モーティマ博士が持ち出した古い祟りの記録から
話はドロドロと暗い雰囲気に包まれていく。
※本書は特に、事件の舞台となる茫漠とした沼沢地の描写を
頻繁克明に出してくるので、なお更、
物語が重苦しい感じになっていく。
※根底のユーモアは不動で軽快に読める。
その昔、件の沼沢地がある地方の領主だった
ユーゴー・パスカヴィル卿は、
神をも恐れぬ残虐な男だったらしく、
数々の冒涜的な行為を繰り返していたという。
なかでも性の淫蕩なること甚だしかったらしい。
拉致監禁など、日常のことであったろうが、
ある日、一目見て懸想したとある郷士の娘を
是が非でも自分のものにしたくなったユーゴーは、
無頼な輩と徒党をくんで家から浚ってきてしまう。
早速、自館の上階へ娘を幽閉し、
階下で仲間と祝いの酒を酌み交わし、
酔いまくって罵詈怒号を響かせていたところ、
当然、娘は生きた心地がしなかったようで、
怯えわななきながらも、館の窓から
壁面に這った蔦を頼りに逃げ出し、
一路、父親の待つ実家を目指し――
沼沢地のある方面へ一目散に駆けていった。
食い物などもって、上階へあがったユーゴーが
いざ娘のいないのを知ると、荒神の狂うがごとき怒りようで
「あの娘を取り戻せなかったのなら、オレの身も心も悪魔に捧げてやるぞぉ!!」
と怒号する。その気性の激しさは、
仲間の無頼漢さえ呆然とするほどだったという。
そこで無頼の一人が我に返ったのか、酔っていたのか、
犬をけしかけてやろう!などとほざきだした。
ために、それは実行されることになったわけだが、
ユーゴーは犬に負けじと、素早く馬にのりつけ、
娘のあとを悪鬼の形相で追いだした。
残った無頼の輩も、必死であと追ったが、
なんと辿り着いた先にあったのは、
娘の死体と、尻尾を股にはさみ、
怯えきった犬たちの姿であった。
当のユーゴーはというと、まるで地獄から抜け出てきたような
(自分らが放った犬とはまったく別次元の)、
悪魔のごとき巨大な黒い犬に、今まさに
その喉を食い破られているところであった。
血を滴らせて振り向いた黒犬の
爛々たる眼光に恐れをなし、無頼どもは
われ先へと逃げ出したのであるが、
うち一人はそのとき落命し、二人は逃げ延びたものの、
余生を正気では過ごせなかったという。
神を冒涜しすぎた振る舞いで、
ついに地獄の番犬にやられたのだから、
我々子孫は、これから神さまをあつく信望し、
すごしていかねばならん。
そして沼沢地には近づかず、夜は出歩かないこと。
そうすれば神のおぼしめしがあるだろうと。
とまぁ、ユーゴーの息子が子孫たちに
そんな書置き残していったわけなのだが、
何代か下った現在、チャールズという
パスカヴィルの男爵が不自然な死をとげた。
襲われた形跡はないが、本人とは思えぬほどに
恐怖に顔を歪め死んでおり、
近くには巨大な犬の足跡があったという。
そして、その莫大な財産と領地を、結縁者として、
新たに受け継ぐことになったヘンリ卿は
領地へ行くべきか行かざるべきか、
チャールズのお抱え医師だったモーティマとともに
ホームズに相談するのだった。
いつもならホームズが相棒のワトスンともども
領地へ繰り出し、事件の解明にあたるのであろうが、
長編なだけに別な展開を見せる。
自分は他の引き受けごとがあるからロンドンに残り、
いざという時まではワトスンに頼むということで、
中盤はワトスンが大活躍することになるのだ。
なんだワトスンか、などと思わないでほしい。
そもそもホームズに感情移入なさしめるのは、
一般人ワトスンの視線によるところが大きいからだ。
だから「パスカヴィル」は、いつもの短編より、
ワトスンの視点にたって、あれこれ思い巡らすゆとりがあり、
そのぶん楽しく読める。
考えすぎてはずれた予想もあったが、
ホームズのやり口?は、ちょっと伏線が出た時点でわかったし、
やっぱりなと思えて楽しかった。
※個人的には短編にした方が物語として、
完成度は高められたなと思う部分はあったが。
ラストは、ネタがわかってみると、
怪奇めいていた魔法が解けてしまい、
魅力がなくなっていくから、
すばやく閉じるべきなのだろうが、
最後に残された疑問等処理をするので、
ちょっぴり間延びする。そこはご愛嬌。
全部スッキリするし。
はてさて、モーティマに遅れ、
ロンドンへ相談にやってきたヘンリ卿が、
早くも何者かに付けねらわれていることがわかる冒頭から、
(ホームズがその序盤で敵に一敗する!)
領地でのワトスンの涙ぐましい?活躍まで、
一文字一文字、紙芝居に食い入る子供のように楽しめた。
※まだらの紐の亜種か。