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一乗寺下がり松の実たれで頂く蒸し茄子

韓国料理等によく使われる松の実。独特な食感や香ばしい味をたまに味わいたくなります。ということで、松の実を使ったソースをたっぷりかけた蒸し野菜を料理しながら、巌流島の決闘の次に有名な宮本武蔵の死闘を妄想した記録。


材料

茄子      4本
葱       1本
生姜      1欠け
松の実     50グラム
味噌      大匙2
黒酢マヨネーズ 大匙3
水       大匙1

気が向いた時に書いている大河妄想料理「二天記」
21歳の時に都に上り、京流吉岡一門に挑んだ宮本武蔵。当主の清十郎、その弟の伝七郎との決闘に勝利?詳しくはこちらをご覧下さい。↓

室町将軍家に剣術指南していたと言われる吉岡家の当主兄弟を破ったことで剣名も高くなり、武蔵本人も大いに満足したことと思います。ところが収まらないのは吉岡家の門弟達。
当主兄弟が無名の剣客に倒されたことで、面目丸潰れ。
人間関係がどんどん希薄になっていく現代からは想像しにくいことですが、剣術の師弟は強い絆で結ばれていました。
師匠兄弟が無残に倒されたからには、自分達が恥を雪がなくてはならないということから、今度は門弟一同が武蔵に挑戦状を叩きつける。


茄子のヘタを落として、皮を剥く。

勝ち逃げは許さんとばかり。しかし、こんなことをいつまでもやっていると復讐の連鎖がいつまでも続くことになると思うのですが、引くに引けない武芸者の意地ということか。
洛北、一条寺下がり松と決闘の場所を指定。武蔵に挑むのは吉岡又七郎。


葱を細かく切る。

又七郎とは当主、吉岡清十郎の息子ですが当時、7歳とか8歳。
まだ年端も行かない少年なので、門弟一同が助太刀するという形での決闘を申し入れる。
少年を名目人に仕立てて、複数人で袋叩きにしてしまえというリンチまがいの話。
集まった門弟の数は70人と言われます。
普通に考えて勝てる筈がないし、逃げてもいい筈ですが、何と武蔵はこの決闘を了承。これも挑む側から挑まれる側になったからには逃げる訳にはいかないという武芸者の意地。


蒸し器で15分蒸す。

昔、一乗寺という寺があったそうですが、いつしか廃寺。その寺があった周辺が一乗寺という地名で呼ばれるようになっていました。その地に立派な枝が垂れ下がった松の巨木。それが下がり松と呼ばれていました。
分岐した道の目印として植えられた松。その根方に床几を設えて、決闘の名目人、又七郎少年を座らせて、吉岡一門は武蔵を待ち受ける。
人数が多いことから楽勝ムード。
加えて、武蔵のクセを分析したつもりになっていました。二度の決闘で武蔵はわざと遅刻して相手をイラつかせて心理的に優位に立つという戦法。その手は食わぬとばかりに待ち受ける。
のこのこと刻限に遅れてやって来る武蔵を包囲して討ち取る心積もり。


摺り下ろした生姜、葱、マヨネーズ、味噌、水を混ぜ合わせる。

ところが、武蔵は前日から場所に来ていて、藪の中に隠れていました。
どうせ遅れて来ると思っているであろう門弟達の裏をかいたということ。
いきなり躍り出て、又七郎少年を一刀両断。
「決闘の相手、吉岡又七郎を宮本武蔵が討ち取った」
と勝利を宣言して、後はひたすら逃げる。
逃げながら、追いすがってくる者や立ちふさがる者を切り払っていく。


松の実を乾煎り。全体的に焦げ目が付くまで。

後年、武蔵は自身の兵法の要諦を五輪書に書き遺しています。そこに書かれたことが、この決闘に見事に現れています。
「山海の変わり」
相手が山と思っていたら、海とばかりに意表をつく動きをせよということ。遅刻して来ると思っていた相手の意表を突いたということ。
また、山海は三回にも通じる。つまり同じ手は二度までしか通用しないから、三回目は打つ手を変えよということでもある。
遅刻戦法は二回まで、三回目は先回りして待ち伏せということ。


炒った松の実をたれに混ぜる。

「多敵の位」
大勢に囲まれて、一斉に攻撃されているように見えても、攻撃には遅い速いが必ずある。誰が先に打ちかかってくるかを素早く見定めて、最初に掛かって来る者を打つ。
こうした実戦の経験が、武蔵に五輪書を書かせたというべきか。


蒸し上がった茄子を食べやすい大きさに切る。

この決闘に向かう途中、武蔵は神社に立ち寄りました。
神に祈ろうと鈴を鳴らすべく手を伸ばしたのですが、神に縋ろうとする自身の弱い心を恥じて、手を止めて立ち去ったといいます。
「神仏は尊し、されど神仏は恃まず」
これは五輪書ではなく、独行道という武蔵の自戒の言葉の一つ。
この神社、八大神社という名前で現存。何度か訪れました。
一乗寺に下がり松も存在しているのですが、残念ながら決闘当時の松は枯れてしまい、現在の松は植え替えた物。
神社には決闘当時の枯木が保存されていて、その小片を入れたお守りが頒布されていました。お守りを量産したら枯木がなくなってしまう。


一乗寺下がり松の実たれで頂く蒸し茄子。

蒸した茄子は柔らかく、旨味も凝縮された感じ。それが味噌マヨたれをしっかりと受け止める。
葱と生姜の香味が味わいを深める。松の実はタレに混ぜても香ばしさを失わず、表面を焼いているので水分を過剰に吸うこともなくしっかり食感。
松の実は滋養強壮や利尿作用があることから薬膳として用いられる食材。抗酸化作用もあり。
梅雨の長雨で体が冷えそうな時も生姜が体を温めてくれます。
茄子は食物繊維豊富と栄養もよし。

八大神社を訪れた時、私も武蔵先生を気取って、何も祈らずに立ち去ったことを思い出します。お守りは買ってしまいましたが。

この一乗寺下がり松の決闘ですが、別の場所だったという話や、武蔵は逃げたという異説もあることを一応、記しておきます。

京都の東寺に観智院という塔頭。ここに武蔵が描いたという絵が保存されています。下がり松の決闘の後、武蔵はそこに三年程、隠れていたという話。その間に描いたと言われています。
三年も都に留まっているより、さっさとよそに逃げた方がよかった気がしますが?或いは灯台元暗しということで、あえて洛中に留まっていたのか?
本当に70人もいたのかはわかりませんが、大勢と戦っている内に自然に二刀を振るっていたという話もある下がり松の決闘を妄想しながら、一乗寺下がり松の実たれで頂く蒸し茄子をご馳走様でした。

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