私家版 将棋遍歴録 第二話 将棋部に行く
さて、SとHに手習いしてもらった日の放課後、僕は将棋部の活動に参加した。
奥校舎の三階にある特別教室で活動をしているそうだ。中等部の教室からは、かなり遠いところにある。僕はS(同じクラスだ)に連れられて、教室に向かった。
教室に入ると、対局時計の秒読みが鳴り響いていた。
高校生の先輩方も真剣に将棋の対局に取り組んでいる。
僕はHを見つけた。対局しているらしい。
その対局を観戦する。
「助言は禁止だよ」Sは僕に向かってそういった。
僕は頷く。
対局は進んでいき、Hは先輩であろう人に優勢になった気がした。
そうして、そのまま、押切って勝利をしたHだった。
「負けました」先輩が悔しそうに投了した。
「ありがとうございました」
Hは大きく息を吸った。
僕は、ある局面に戻してと、Hに尋ねた。
すると、先ほど同様に、するすると局面を巻き戻していき、僕がある手を思いついた局面に戻してくれた。
「ここで角を打つ手なんかどうかな」僕は、盤の中央に角を打つ手を示した。
先輩は、僕に「筋がいいね」と言ってくれた。
Hも「岡野、結構いい手見えているね」と、ほめてくれた。
僕は嬉しくなった。
「そうすると、こうなって、こうなって」と局面を動かしながら、解説をしてくれた。
僕は、指してみたくなった。
今日は見学だけれど、指してみたいと希望を言うと、先輩は部長に話をつけてくれた。
そして、第一戦目は、中学一年生の子と対戦した。
結果は、ダメダメだった。
悔しい。けれど、楽しかった。
僕は、挨拶をして、負けましたと頭を下げて言った。
「感想戦はやりますか?」一年生の子は気を使って訊ねてくれる。
「感想戦?って何?」
「対局の終了した後に、ああでもないこうでもないと考える時間を作るんです」
「なるほど。じゃあ、やってみようか」僕は教えてもらうことにした。
そんな感じで、僕は、将棋部に馴染んでいった。
正式に入部したのは、一週間後だった。