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『学習科学ハンドブック 第2巻』

R.K.ソーヤー/R. Keith Sawyer (編), 大島 純, 森 敏昭, 秋田 喜代美, 白水 始 (監訳), 望月 俊男, 益川 弘如 (編訳), 学習科学ハンドブック 第二版 第2巻: 効果的な学びを促進する実践/共に学ぶ, 北大路書房, (2016).

この本について:
このシリーズ本は「人がいかに学ぶのか」を科学的に研究する"学習科学"の成果を取り上げた本である。(第1巻の訳本は第2,3巻の後に発売された)学習科学の代表的な、教科書的な書籍になると思われる。

第1巻には、学習科学の基礎(足場かけ、メタ認知、認知的徒弟制、活動の中の学び等)と方法論(マイクロジェネティック法、協調の分析、相互作用分析(interaction analysis)教育評価のデザイン、データマイニングとラーニング・アナリティクス)が書かれている。

この第2巻には、学習科学の実証的な研究がどのように進んでいったのかが具体的な例を挙げて書かれている。効果的な学びを促進する実践や協調学習におけるの「◯◯の環境における学び」の事例など。

第3巻は、新しい学びの科学として、領域専門知識に踏み込んだ具体的知見(数学教育、科学教育、歴史概念教育、リテラシー教育、芸術教育)と、学習科学研究を実践の場に持ち込む際のあれこれ(道具、動機づけ、文化、多様性、教師の学び、教育改革)が書かれている。

学習科学(the learning sciences)について:
学習科学は認知科学、教育心理学、計算機科学、文化人類学、社会学、情報科学、神経科学、教育学、授業研究、インストラクショナル・デザインなどの分野を含む。学習科学は比較的新しい学問分野である。1991年に最初の国際会議が開催され、"Journal of the Learning Science"が創刊された。教育という、科学的に捉えにくい活動を取り扱うため、特に科学的であろうとする姿勢で、慎重に書かれている。科学的ではあるが自然科学の方法論をなぞるだけではなく、多様な時間軸と多様な共同体をターゲットにした文脈に依存する研究成果を共有するための共通言語や議論文法の構築を目指して書かれており、それが特徴的に感じられる。学習科学以前の教育は、科学的に検証されていない常識的な過程に基づいてデザインされていた。それらを捉え直す試みである。

読んだきっかけ:
デザイン教育研究のために、学びや教育システムを記述するための科学的方法論を知っておきたいから。結果→→ハンドブックということだけあり、重要な示唆がたくさん見つかった。

学習科学における用語いろいろ:
【知識】問題解決に必要な世界についての事実(例.地球の自転軸は23.45度傾いている等)と手続き(繰り上がりのある足し算のようなステップバイステップ的な教示)の集合のこと。p.1
【課題解決型学習】Project-based learning(PBL)p.17-35
【問題基盤型学習】Problem-based learning(PBL)p.37-56


ポイントとなるテキストの抜粋、その他関連研究につながるもの:

●伝統的な学校教育の見方は教授主義(instructionism)と言われる(Papert,1993)p.2
●今日われわれが知識労働を経済の基盤とする知識経済の中で生きている(Bereiter, 2002: Drucker, 1993)。知識経済において、事実手続きを記憶しているだけでは成功するのに不十分である。教育を受けた者は、複雑な概念の深い概念的理解や、新しいアイデア、理論、知識、作品を生み出すために創造的に働く能力が必要となる。また、読んだものの内容を批判的に評価できること、自分自身の思考過程を言葉や文章で明確に表現できること、科学的・数学的な思考を理解できることも必要である。さらに、教授主義で重視されるひとつひとつ区分けされ脱文脈化された知識よりも、統合化され実際に使用可能な知識を学ぶほうがより重要である。...そのため教授主義は新しい知識を作り出し、持続的に発展させることができる創造的な専門職を教育するのには適していない。p.2
●学習者は間違った知識や先入観を含んだ知識もって教室にやって来る。...子どもたちにとって最良の学習方法は、自分たちの既有知識の上に学びを構築することである。p.3
振り返りの重要性:生徒たちは自分たちが構築しつつある知識を、会話を通してあるいは論文、レポート、作品などを作成することによって表現し、自分の知識の状態を思慮深く分析する機会を与えられることによって、よりよく学ぶことができる。(Bransford, Brown, & Cooking, 2000. by National Research Council)p.3
●1980年代までに認知科学者たちは子どもたちが表面的な知識ではなく深い知識を学んだ場合に、また、現実世界や実践的な状況における知識の使い方を学んだ場合に、教科書からよりよく学習し、その知識を一般化させ、より幅広い文脈へ適用できることを発見してきた。(以下画像参照)p.4

...こうした観察によって、学習科学の研究者は知識が状況の中にあるという見方(situativity view of knowledge)へと導かれた。(Greeno & Engestrom. 第1巻第7章)状況的とは、知識は学習者の頭の中にある静的な心的構造ではないことを意味する。...知るということは、人や、環境の中にある道具や人々、そして知識が応用される活動と関わる過程と捉える。この状況的な見方は、伝達と獲得を学習とみなす考え方を超越しており、学習内容の獲得に加え、学習の最中に起こっていることは、長い時間をかけて協調する中で参加パターンが変化することなのだという考え方である(Rogoff, 1990,1998)。これらの研究の組み合わせをもとに、学習科学の研究者は、子どもたちがグループ活動や協調からどのように学んでいるのかに注目するようになった(第2巻第20章以降)。...したがって、学習科学研究のもっとも重要な目標の一つは、生徒たちが取り組みつつ学ぶのに好適な活動はなにか、そして専門家の実践がもつ真正性を失うことなく、生徒の年齢に適した学習環境をデザインするにはどうすればいいのかを、正確に同定することと言える。p.5
●初心者→熟達者へのパフォーマンスの移行:学習科学者たちは知識労働の基礎となる熟達者の知識に注目しているので、初心者がどのように考え、どのような誤概念を持っているかを研究している。そして、誤概念に適切に働きかけ、もっとも効果的な方法で学習者が最終的には深い概念的理解に到達できるようなカリキュラムをデザインしている(diDessa. 第1巻第5章)。p.6-7
●学習は既有知識の利用。つまり足場かけ(scaffolding)が重要。(Reiser & Tabak, 第1巻第3章)p.7
効果的な足場かけとは、学習者が自分の力で理解するための助けとなるようなヒントやきっかけを与えることを意味している。効果的な学習環境は、生徒の主体的な知識構築を支援することである。...学習者の必要に応じてゆるやかに足場が追加され、修正され、段階的に取り除かれ、最終的には完全に取り外される。p.7
外化と明示化:学習科学では、学習者が自分で構築している知識を外化し明示化するときにより効果的に学ぶことを明らかにしてきた。(Bransford, Brown, & Cocking, 2000)...明示化と学習は相互に強化し合うフィードバックの環の中で結びついているのである。多くの場合、学習者は自分で明示するまで学ぶことはない。人は自分の考えを声に出すことによって、声に出さずに静かに学んでいるときよりもすばやく、深く学ぶ。この現象はヴィゴツキー(Lev Vygotsky)によって最初に研究された。p.8
ただし、生徒は自分が構築している理解を明示化するのが困難なので、支援が必要である。(効果的な足場かけの事例については第2巻PART IVに詳しい)
明示化が学習者にとって非常に役立つ理由の一つは、それが振り返りとメタ認知、すなわち自らの学習過程や知識について考えることを可能にするからである。(Winne & Azevedo, 第1巻第4章)
具体的な知識から抽象的な知識へ構築する:発達心理学者ジャン・ピアジェ(Jean Piaget)はより具体的な情報から学び、徐々に抽象的な知識を身につけることができるようになると述べた。可視化・図式化が理解支援になる。視覚的・空間的理解が先行しそれが言語的理解の足場かけになる。p.8-9
●テクノロジーと学習科学:コンピュータを用いたティーチングマシンなどがこれまで開発されてきたが、生徒のパフォーマンス向上にはつながらなかった。これは、学習科学に基づいた設計になっていなかったためである。p.9
●協調学習の分析方法2種。1)カーシューナーは、学習時に学習者がどのように認識して活動したかについて学習者のアンケート調査をもとに分析した。2)三宅は、学習時に何が起きているかそもそも簡単には捉えきれないプロセスなので、ひとりひとりの状態や環境という前提条件を踏まえたうえで、少人数の発話データから分析していくボトムアップ・アプローチをおこなった。p.147-163

●以下、まだ読んでないけど面白そう

「ミュージアムにおけるインフォーマルな学習環境」を会話で分析した。p.185-198
「コンピュータに支援された協調学習」CSCL(Computer-supported collaborative learning)とはなにか、Cooperative LearningとCollaborative Learningの違いとはなにかについて。p.199-216


以上。

2019-01-18

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