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児童発達支援サービスや放課後等デイサービス中、子どもはどう過ごしている?【Vol.9】Chameleon 井元さん
言語聴覚士。ことばによるコミュニケーションに難がある方に専門的サービスを提供し、自分らしい生活を構築できるよう支援する専門職である。
小さな子どもをもつ親は「子どもがなかなか言葉を話さない」「特定の発音が難しい」など、言語発達に課題や不安を感じたとき、彼らの支援を受けたくなるだろう。
しかし残念ながら、生活圏内でアクセスできる小児分野の言語聴覚士は非常に少ない。
そこでこの連載では、小児分野の言語聴覚士やその育成に関わる方に話を伺い、子どもの言語発達に関するトピックや、言語聴覚士としての活動内容などを紹介する。
子どもの言語発達に悩むすべての人に、この記事が届きますように。
今回お話をうかがったのは、福岡県大牟田市で児童発達支援サービスや放課後等デイサービスを提供している施設・Chameleonの井元(いのもと)さんです。
児童発達支援サービスや放課後等デイサービスではどのようなケアを提供しているのか、そこで言語聴覚士は子どもとどのように関わっているのかについて聞きました。
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言語聴覚士歴14年目。幼児期から成人期に至る入所の療育、通所の小児療育を経験。子どもたちの生活に入り、リアルタイムでより深い支援をしたいと思い、現在放課後等デイサービス・児童発達支援Chameleonを運営。子どもたちにきらきらとした生活を送ってほしい。〖すき〗や〖やってみたい〗を応援。子どもたちを理解してくれる方や場所を拡げたい。日々子どもたちの気持ちを受け止め、刺激をもらいながら奮闘中。
「子どもの生活に入り込んで支援したい」という思いからChameleonを開業
——はじめに、井元さんが言語聴覚士になった経緯や、小児分野で働こうと思った理由を教えてください。
井元さん(以下略):
私は元々子どもと関わるのが好きで、父が医療関係の仕事に就いていたこともあり「私も医療職になろうかな」と思っていました。
言語聴覚士という職業を知ったのは、高校時代に児童養護施設を見学したのがきっかけです。当時から私は子どもと関わるのが得意なほうだと思っていたのですが、その施設で出会った子どもに叩かれたんですよね。
「普通に接したつもりだったのに、なぜこの子は叩いてきたのだろう」と思い、施設の先生に理由を聞いたら「その子は言葉の発達が遅れていてうまく話せないから叩くんだよ」と教えてもらいました。
その体験から子どもの発達に興味が湧いて、その後言語聴覚士という仕事に行き着きました。
——現在は福岡県大牟田市でChameleonを運営していますが、なぜ施設を開業しようと思ったのでしょうか。
私は言語聴覚士の資格取得後、大分県の発達医療センターで7年間、福岡県の療育センターで4年間勤務。その2施設とも外来通所のこどもたち、入所で重症心身障害児者と関わってきました。
そこで感じていたのが「子どもの生活に入らないと、根本的な解決には至らない」ということです。毎回保護者からお子さんに関する話を聞きますが、その中には「その件は幼稚園の先生に聞いていないからわかりません」「そのときは自分が見ていなかったのでわからない」などと言われてしまうことがありました。
子どもの行動を保護者がずっと見ていることはできないし、子ども自身も出来事や思っていることをうまく伝えられるわけではありません。ならば、自分が子どもたちの生活に入り、より近い立場から支援を行った方がいいのではないか。そう考えて、今の施設を立ち上げました。
開業はもちろん大変ではありましたが「苦労した」とは思いませんでした。それよりも「これから思うような支援ができる!」という楽しみのほうが大きかったですね。
児童発達支援サービス、放課後等デイサービスでの過ごし方とは
——現在Chameleonではどのような支援を提供しているのでしょうか(編注:提供されるサービスは施設によって異なります。あくまで一例と捉えていただけますと幸いです)。
Chameleonでは、主に未就学児を対象とした児童発達支援サービスと、小学生から高校生までを対象とした放課後等デイサービスを提供しています。特徴は、言語聴覚士が5名在籍し、コミュニケーションや言葉に関する支援に特化している点です。個別療育だけでなく、少人数のグループでの療育も行っています。
個別療育やグループでの療育の内容は自由度が高く、その日のお子さんのコンディションや発達、各個人の課題によってグループメンバーを調整しています。未就学時だとプラレールやブロック、小学生だとパソコンやカードゲームなどを用いながら、お子さんが自由に主体性を持って活動できるようサポートしています。
また、時間があるときには公園に行ったり、交通機関や商業施設を利用する体験、農作業体験も行ったりしています。大人になったときに必要になるお金や時間の管理なども、活動を通して学べるようにしています。
お子さんが楽しく過ごせるようにしながら、職員としては何らかの目的を持って療育を行っています。
——どんな資格をもつ職員が在籍していて、どのように役割分担をしているのでしょうか。
言語聴覚士のほかに、保育士、学校教諭など児童指導員の任用資格を持ったスタッフがいます。明確な役割分担は行っていませんが、それぞれ専門分野を活かして支援に当たっています。資格というよりは、職員個人の役割があるように思います。
——言葉の面を集団で療育する際、意識している点を教えていただけますか。
お子さん同士でトラブルが起きたとき、関わった子全員で療育を行うことでしょうか。Chameleonに通うお子さんはコミュニケーションが難しいことや他者視点で考えることが難しく自分本位になってしまうこともあります。それでも、自分の言葉で状況や気持ちを発信してもらうようにしています。
職員は「なんでケンカになった?」「相手はどんな気持ちになったかな?」「どう思う?」など内容を深めたり、お子さんが暴言を言ったときには周りの職員が推測しながらその言葉の意味を相手に伝えたりします。トラブル発生時から解決までの状況をすべて把握しているものの、トラブルを収めるのはあくまでも子どもたち自身です。
それから、お子さんが言ったことに関しては否定しません。大人が先回りして解決しないように、お子さんができるだけ自身で考える時間を大切にしています。
——療育施設が少ない地域では、どこかしらの施設に入ることがスタートかつゴールになりやすいと思います。今通っている(もしくはこれから通う)施設でよりよい療育を受けるために、保護者ができることは何でしょうか。
療育は「子どもたちの成長のきっかけ作り」であり、終わりはないと思います。子どもたちを取り巻く人々が「こうしたらうまく関われるんだ」と気づき、理解し、その子自身も安心して成長できるのがよい環境だと考えています。
療育を受け始めてから、保護者が「不安だな」と思ったことがあれば、いつでも施設の担当者に投げかけてほしいです。担当者自身、保護者の気持ちを知りたいですし、いろいろとご相談いただくことで対応の仕方が変わってくることもあるでしょう。
また言語聴覚士としては、常に支援の質を上げていくことに重きを置いていると思うので、保護者からの言葉によってわからないことはさらに勉強すると思います。保護者も担当者も考えて悩んで、修正をかけながらお互い成長していけたらよいと思います。
子どもそれぞれの「コミュニケーション」を知り、理解者となる
——Chameleonや井元さんの今後の展望について教えてください。
開業から3年ほど経ち、生活の中でリアルタイムで支援ができることに充実感を感じていると同時に、開業当時に比べて子どもたち自身もできることが増えました。
今後は、地域で子どもたちを理解してくれる人の輪を広げていきたいです。こういった仕事をしていないと理解し難いこともあると思いますが、子どもたちが社会に出たときに温かい目でみてくれる人を増やしたいと思います。
また、子どもたちがやりたいことに挑戦し、好きなことを深められる時間も多く確保したいですね。子どもたちや地域の方が参加できる「電車クラブ」「いきものサークル」など、好きなことを軸に地域とのつながりが持てる仕組みも作りたいと考えています。
——最後に、子どもの言語発達に悩む親御さんへ向けて、メッセージをお願いします。
私は言葉自体にはあまりこだわっておらず、お子さんそれぞれの発達にあった使いやすいコミュニケーション手段を獲得してほしいと思っています。1人の時間や自分の世界が好きなお子さんも沢山います。そのお子さんと気持ちを通わせて「この人は自分のことを知ってくれているな」「この人といたら楽しいな」「安心するな」などと理解者として認めてもらえたら嬉しいなと思いながら、日々療育に携わっています。
保護者の中には、療育に通わせることや診断がつくことに対して「こわい!」という認識の方は多いと思います。また発達が気になったときに「私の子育てが悪かったのかな」と感じ、自分を責めて相談できない方もいらっしゃいます。
でもそんなことは全くありません。ぜひご気軽に、専門職に相談してもらえたら嬉しいです。
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