ドイツよりコロナ危機の制限解除について思うこと
ドイツのセミロックダウン開始から早くも1ヶ月半。4月半ば以降、感染スピードが低下し、非常に慎重に低リスクの活動から徐々に再開が始まっている。
外出そのものを強く制限していたイタリアやスペインの制限とは異なり、ドイツは、同居人以外の2人以上と会ってはいけないというコンタクト禁止条例は敷かれたものの、外出自体は禁止されていなかった。なので小都市に住む身としては、自由にのどかな緑地や農地沿いへとサイクリングや散歩に出かけていたし、正直それほど緊迫感を持たずに済んだのだが。
今のところ、このコンタクト禁止条例は延長され続けており、自由に人と集まることは出来ないのだが、ここ最近は何をどう再開していくのかというかというニュースで持ちきりだ。
そして、この再開については、各業界や団体、個人が意見書を出し、デモを盛んに行い、裁判を起こし、様々な合法的手段で、政策決定者に必死に訴えかけている。 現状、デモは通常通り事前許可を取った上で、他の人との距離を1.5m以上開け、人数を事前に合意した制限に収める限りにおいては許されている
今回の危機は、多かれ少なかれ、全ての人に影響を与え、それぞれの利害が出ることになった。だからこそ、今回は毎日それぞれが本当に必死で抗議や意見表明を行っている。政治家が全てを知る訳でも、正しい判断をできる訳でもないし、正当に自分達の声を表明して、少しでも自分達がいいと思う方向に持っていかなくてはいけない。有権者である住民の声がここまで大きいと、政治家も常にかなりの緊張感を持って、日々の執務に当たらなくてはいけない。ただ日々ニュースを追っているだけで、ダイナミクスが伝わってくる。欧州に住んで計4年、デモを目にするのは日常的になっていたけれど、ここまで動きが激しくなっているのは、コロナ危機だからなのだろう。政治家も政治家同士の政策について批判したり、意見を強く表明したりしている
一方で、日本について考えて見ると、様々に政府批判がなされ、首相も時々誤りを認めるような姿勢を出していることもある。(検査体制の不備を認めるなど) でも一方で、政府からの「自粛要請」で、仕方なく、沢山の企業や店舗が休業している。住民自らが意見を表明して戦っているこちらの様子とはまるで違う。
どちらが良いとか悪いとかいうのではなく、そもそもの政治社会のベースや人の考え方が異なるから、これほどの差が出るのだろうが、日本で普通に育った私としては興味深い。
と言うことで、こちらのここ3週間くらいの動きを振り返って見たいと思う。
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私の住むNRW州では、4月23日から高校卒業試験を控えた、中等教育最終学年の生徒の学校再開が始まった。再開にあたって、かなり厳しい規制が設けられ、各生徒の距離を1.5m以上開けるために、1クラスの人数を10-15人に制限しなくてはならず、クラスも分割されるので教員の手も2倍程度かかる。
その時期の学校再開は、生徒側には自由意志による登校とされていたが、生徒側からも反対をするデモが継続的に州議会の前で行われていた。家族にハイリスク層がいる生徒などが中心になって、再開を遅らせるように継続的に意見、署名が出されていた。学校側からも準備期間が短くて難しいという意見書が出され、そういう声も少なくなかったようだがが、自由意志だからということなのか、州の教育大臣は少しずつ日常に戻らなくてはいけないのだと言って、そのまま学校を再開した。 大学進学に繋がる卒業試験は全部記述式で、科目も多く、対策に非常に労と時間を要する。試験は延期されているが、キャンセルとは政府も多くの生徒もしたくない。だからか、多くの学校で大半の生徒が出席しているようだ。
©️RP online
そして、5月に入ってからは小学校の最終学年が再開され、保育園に子どもを預けられる親の職種も徐々に拡大してきている。学校については、今後は段階的に、より下の学年も再開していくようだが、教員組合からはこれ以上の負担は確保できないという意見書が出されている一方で、親と子どもは早く学校を再開するようにというデモが州議会前で起きている。両サイドから大きな声が上げられ、政策決定者もさらに判断が難しくなり、丁寧に扱っていかなくてはいけない。学校に補助人員を入れるのか、規制が多少緩められるのか、登校での授業数を減らすのか?くらいしか私には対策が思いつかない
なお、学校再開の少し前に、比較的小規模の店舗から、入店人数の規制など細かな制限がかかった上で、営業が許可されるようになったが、リスクがもう少し高い飲食店やショッピングモールなどは営業がまだ許可されていない。
小規模店舗しか営業が認められなかったのを受けて、4月末にも大きなデパートチェーンから、営業再開を認めるように裁判が起きていたが、それはデパート側の敗訴となった。
また、特にダメージの大きい飲食店、旅行業界からの州全体でのデモが継続的に起きている。
飲食店は、各都市で、営業再開が難しいならばさらなる補償を求めて、空の椅子を並べて抗議するデモが起きていた。うちの街の飲食店も、テイクアウトなどで頑張っているけれど、厳しいのは間違いなく、うちの市でもメイン広場で大きなデモが起きていた。
©️Westfalen Blatt
その翌週には、旅行業界からのデモが州議会、各地の空港前で、空のスーツケースを持って、さらなる補償を求めるデモが行われている。 EU各地の国境閉鎖は相変わらず解除されないが、国内の旅行も、取り急ぎ6月半ばまで禁止されている。ホテルも観光客の宿泊はできなくなっており、ホテル業界飲食店よりダメージが大きそうだ。
©️Westfalen Post
飲食店は、アルコールの摂取があるためにコントロールしにくいこと、旅行業界は言うまでもなくウィルスが広がるのを恐れているため、低リスクの活動とはならず、まだ私の州では再開の具体的な日付は出てこない。
ただ、各地で行われるこういった活動が効いているのか、最も多い感染者を出した南部のバイエルン州では、5月後半からの段階を経た飲食店、ホテル再開の許可が検討されているようだ。
すでに、美容院や博物館、動物園や植物園、宗教施設での礼拝など、距離を開け、活動を縮小・変更することを条件に許可されているが、一方で、いまだにバーやスポーツ施設などの再開のめどは立っていない。
最近の大きな話題は、ブンデスリーガの無観客試合を認めるかどうかだ。プロ選手は練習することは早々に許されていたが、現時点でCOVID19の検査をしたところ、すでに10名程度がほぼ無症状で感染したことがわかっている。サッカーの試合をオープンにすることで、一般住民の気持ちが晴れるところもあるかもしれないけれど、順序が違うと言う批判もあるし、緊張モードが崩れるのを恐れているのではないかと言う話もある。
8月末まで大型のイベントは禁止され、ドイツの大きな市民文化の一部である、夏祭りも全て禁止、世界から人が訪れるオクトーバーフェストも中止となってしまった。夏祭りでとんでもない量が消費される、ビールの消費量が今年は激減するので、ビール会社も危うい。年末のクリスマスマーケットも危ういのかもしれない (個人的には、今年の夏祭りはドイツ人と一緒にドイツ語を話してエンジョイするという、渡独直後の去年の私の目標は、いつの間にか実現が難しくなってしまった…)
どう地域経済の崩壊を防ぎながら、コロナの対策を取っていくのか、どう転んでもあまり正しい道はないような感じがする。
なお、緩和されているのは、まだ比較的低リスクの活動のみであるが、最近のDPA(German Press Agency)の調査によると、ドイツに住む人の半分が、これまでの緩和のペースが早すぎると感じているらしい。みんながそれぞれの視点から、それぞれ思うところをぶつけるのが民主主義だが、舵取りは本当に難しそうだ。
なお、少しはいい話もあって、
映画館の営業は禁止されているものの、車に乗ったまま映画を見られるドライブインシアターが各地で増えている。結婚式を延期せざるを得なかったカップルも、そのドライブインシアターで普通とちょっと違う結婚式をあげ始めるようになった。人はクリエイティブにもなれる。
また、今週末の母の日に向けて、老人ホームの訪問がやはり厳しい制限の下で(訪問者は一人のみで、簡易防護服を着なくては患者に会えないとか?)許可されるようになる。ハイリスク層の集合施設への外部者の立ち入りというのは、一番難しそうな問題だと個人的には感じていたが、これもケアホームの連合団体が、面会の禁止によって入居者の心身の健康が損なわれているからと、早期の解禁を求めていた。その意見はもっともだと思う。
ロックダウンでDVや虐待の増加というケースも少なくない中で、簡単に家族は大事だなどということは言えないけれど、この時期に人との繋がりの大事さを再認識した人も少なかったと思う。人との繋がりを強められるような行いは、早く再開してほしいと思う