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香り

学校からの帰り道にパオラが香水を買うと言うので、アルゼンチンから来たソフィアとともについて行くことにした。

歩いてる時に香水の看板が素敵な小さな香水屋さんを見かけていたので、そこに行くのかなと思っていたが、その店はあっさりと通り過ぎ、シャネルやイヴ・サンローランなどの高級ブランドコスメを扱う店に入っていった。

高級コスメを扱うチェーン店

そこで香水を試しながら買うのかと思ったら、エントランスのところにある小さなサービスカウンターで身分証を確認し、小包を受け取って、おしまい。パオラに「お待たせ!」と言われたが、5分ほどしかかかっていない。

買い物のあり方が、私のそれとはだいぶ違っているので驚いてしまった。私も通販を利用しないわけではないが、買うものといえばもっぱら中古本や古着で、それも内容やサイズを確かめたうえで買うことがほとんどだ。だから香水のように嗅いでみるまでどんなものかイメージすることすら難しいものを、試しもせずにネットで買うという発想が私にはなかった。

彼女が購入したのは、何かのクリーム、クレンジングオイル、Cartier、Jean-Paul-Gaultier、Versaceの香水。
手を出してと言われるままに右手を差し出すと、指1本1本と手の甲、手首にそれぞれの香水をつけてくれた。

香水お試し会

確かにいい匂いなのだが、一滴ずつくらいしかつけなかったのに、シャワーを浴びた後までずっと匂いが残っているのには閉口した。昨日着ていた服の袖口を嗅ぐと、1日経った今も香りが残っている。昨晩ご飯を食べている時にイザベルに「香水つけた?」と聞かれるほど香りも強い。

イザベルは、フランスでも香水をつけるか否かは人によると言っていた。だが、帰り道に歩いていると、すれ違い様に香水の匂いをする人は多いし、近所のスーパーでも香水が売られていて、前に見た時は売り切れていた。おそらく香水は日本よりも日常的に用いられているのだろうと思う。イザベルも過去には毎日つけていたけど、今はもう全くつけておらず、香水をつけるのをやめたら、鼻が鋭くなったらしい。

私には香りを身にまとうという習慣が基本的にはない。練り香水をつけることがごくごく稀にあるが、それも汗の匂いがしないか気になるような夏の暑い日しか使わないので、何年も前に旅行のお土産として買ったというのに、一向に減らずに今日まで残っている。

そういえば、小学生の頃にシーブリーズが流行って、教室にいろんな匂いが充満していたが、私はそのブームに乗りきれなかった。なぜなら両親にシーブリーズが欲しいと言ったら、以前から父が使っていた無臭のものを買い与えられたからだ。香りのついているものが欲しかったけど、せっかく買ってきてくれたのだし、少し残念に思ったがそれで我慢することにした。今思えば無臭に開き直ったのはその時だった。無臭といっても何かしらの匂いがあるだろうと思われるかもしれないが、ある男子に匂いを嗅がれて「なんも匂いしねー!」と言われたことを、恥ずかしさととともに覚えている。

そんな小中学生の男子ではないけれど、私は香水の匂いよりも食べ物の匂いの方に釣られてしまう。焼き菓子の焦げたバターの香り。ピザのトマトソースの香り。お肉がこんがりと焼けた香り。帰り道はいつも、それらの美味しそうな焼き目を横目に見ながら、足を止めたくなるのをこらえて歩いている。もしそれらの香りがVersaceの香水のように一晩中つきまとっていたら、私はプクプクと太ってしまうに違いない。

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