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映画感想#78 「スモーク」(1995年)
原題 Smoke
監督 ウェイン・ワン
脚本 ポール・オースター
出演 ハーヴェイ・カイテル、ウィリアム・ハート、ストッカード・チャニング、ハロルド・ペリノー、フォレスト・ウィテカー、アシュレイ・ジャッド 他
1995年 アメリカ・日本合作 113分
煙のように消えていく真実
どこか文学的な作品でした。登場人物たちの他愛ない会話が印象的な映画です。作家ポール・オースターの脚本のせいか、言葉の節々に知的なセンスを感じます。
煙草屋の店主オーギー、近所に住む作家のポール、ポールと偶然出会ったラシード、ラシードの父サイラス、オーギーの昔の恋人ルビーの5人を軸に、話は進んでいきます。
ポールはかつてテロで妻を亡くしている。
ラシードは父親を知らない。
サイラスは自分が起こした事故で妻を亡くした。
ルビーは娘フェリシティが悩みの種で、オーギーに助けを求めている。
特に印象的なのはラシードでした。
自分の父親をまともに知らない彼は、郊外のガソリンスタンドで父親らしき人がいると聞き、彼に会いに行きます。
おそらく一目でわかったことでしょう。この人が自分の父親だと。
その後彼に新しい奥さんと子供がいると知ります。その知らない女の人と小さな子供と仲良く話す父親らしき人を見て、ラシードはどんな気持ちになったでしょう。
ラシードを演じるハロルド・ペリノーの表情には、何か心に刺さるものがありました。
そしてオーギーには後悔している出来事があります。それが本映画の原作ともいえる「オーギー・レンのクリスマス・ストーリー」です。
それはこのようなお話。
~かつてオーギーが自分の店で万引きをした少年を追いかけていると、その少年は財布を落としてしまいます。オーギーはその財布を彼に返そうと家を訪ねたところ、彼は不在でしたが、彼のお祖母さんが出迎えてくれました。そんなクリスマスの日に過ごした1日の話です。
このクリスマス・ストーリーもそうですが、他にもいくつか小噺のような話が出てきます。スキーヤーの親子の話、そして煙草の煙の重さの話。
本当か嘘か分からないような話ばかりですが、何だか考えさせられるような「真実味」があります。
自分が経験すること、考えること、感じること。時が経てば何が真実か嘘かなんて、きっと忘れてしまう。そういう小さなことの積み重ねで人生は成り立っている。
オーギーはあのクリスマスの日に手にしたカメラで、14年間ブルックリンの街角を撮り続けています。
日々移ろいゆく小さな出来事が、白い煙草の煙のように、その写真の中に残っているようでした。
☆2017年1月28日
余談~一番好きな映画は何ですか?~
「一番好きな映画は何ですか?」という質問に対する答えは、今のところ「ウェイン・ワンの『Smoke』という映画です」ということにしています。この映画には、劣等感や失望、後悔といったような人間臭い感情が詰まっていて、これぞまさに「ヒューマンドラマ」という感じがするから。1990年ブルックリンの小洒落た雰囲気も良いし、それにハーヴェイ・カイテルが大好きだからです。
2017年にこの映画を見て、さらに映画が好きになったような気しました。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。