被補助人さん、引っ越し前夜
季節は梅雨。例年なら、梅雨時期の服装は真夏の服と分けていたが、もうそんなことも面倒なのですでに真夏モード。梅雨が明けた時の爽快感と夏が来た高揚感を心待ちにしながら過ごす日々。
今回は、引越しについて。被補助人(70歳代男性)のZさん。負債が大きく、私が就任した時にはすでに自宅が差し押さえられていた。なんとか競売を避け任意売却に。不動産屋に仲介を依頼。比較的街に近い場所なので買い手はすんなり見つかった。私の役割は、本人の意向を確認しながらの居所の選定。同時に居住用不動産処分の許可申立を行うこと。
専門職視点では、ベストなのはケアハウスかサービス付き高齢者住宅だと思っていた。なぜなら、視覚障害があるから。手術予定だが糖尿病の治療のため延期となり、さらに手術しても改善可能性は未知。この点は受診拒否や金銭的な課題もあったためソーシャルワーカーの技量と時間をかけることになったのだが、ここでは触れないでおく。
そんなこんなで、安全に生活するなら施設が良いだろうと考えていた。
Zさんの意向を確認。「ケアハウス等でよい。ご飯も出てくるなら。」とのことで、数件施設をあたる。ちょうど空いている施設もあったのだが、イマイチ自由度がなかったり、施設職員の意識の低さ(入居者を管理するという、パターナリズム的姿勢)や人員不足の様子などで私の気持ちすら動かない。本人も、「やっぱり一人で暮らしたい。新しく家を買う」と発言。『家を買う』発言には驚いたが、ちょうど空いていた施設の実態が残念だったのでやむを得ない。むしろ、自分の意向をしっかりと伝えてくれたことが嬉しくもあり。負債を支払った余りの金銭で家を買うとなると、山間地付近の1軒家くらいしかないと、ネットから出力したペーパーで示しながら説明。「そんなら仕方ないなぁ。街に近い場所にアパートがあるかな」と現実路線に。売却を仲介してもらった不動産屋とは別の不動産屋にアパートを探してもらうことにした。高齢者や障がい者の住まいを探すのならここ!という、専門職御用達の不動産屋だ。
期待通り、ベストな物件が見つかった。かかりつけ医が徒歩圏内、スーパーも近い。そこに狙いを絞ったが、前の入居者の引っ越しが終わらない問題がありつつ、結局6月末にようやく契約。
引越しといっても、ほぼ自宅から持って来れるものは無い。布団はないに等しい実態。家具類も故障やら老朽化やらで、炊飯器とレンジ以外は持ってくるのは諦めた。手付金を活用して家具等を購入することに。まず布団・ベッド。電動ベッドは必要ないが、将来を考えて中古を購入。これが家具調ベッド程度に安い。
家電類はエディオンで一括購入。家電の中で一番悩んだのは冷蔵庫。Zさんは「なんでもいい」と言われるが、一人暮らし用と一概に言っても大きさはまちまち。横幅はほぼ同じだが、奥行きと高さが違う。コンパクトサイズだと冷蔵庫スペースにちょうどハマるのだが、意外と庫内は狭い。内容量が「〜リットル」と表記されているが、その数字は他の商品との比較用で、生活実態に即した選択の指標にはなり得ない。よって、見た目の勘で選ぶしかない。
我が家の冷蔵庫もそうだが、十分な大きさの冷蔵庫を買ったつもりが、残り物とか色々と入れていくと「もう少し広ければ」と思わずにはいられない状況になっている。私が一人暮らしをしていた時も同様。一人だからと小さめを選んだが、男子一人暮らしでもほどほどに食材は買うもので、やはり狭いと感じるようになった。Zさんの場合、もし庫内が狭ければ冷蔵庫へ入れず常温保存という選択肢を取りかねない。(よくテーブルの上に置きっぱなして腐らせている)よって、ややアパートの冷蔵庫スペースから前方にはみ出すが、なるべく庫内が広めのものを選んだ。冷蔵庫や洗濯機、掃除機などと一緒に配送・設置を依頼。ふと思ったのだが、商品価格に配送料は込み。ならば配送希望しなければその分値引きしてくれるのかな。気になる。
そして、洗濯バサミやトイレットペーパー、衣装ケースなど、細々としたものは全て書き出し、購入設置をNPOの有償サービスに依頼。全て私一人でやり切るとなると、大変な時間を取られるので。これで大体は整うことになる。
ライフラインについては、電気・ガス・水道は契約完了。電話だけ、本人にお願いした。(NTTは後見人等だと登記事項証明をセンターに郵送したりと時間がかかる)
先日、確認のため私だけでアパートへ。一人暮らしをしていた頃を思い出した。開放感と若干の不安が入り混じった空気。ちょっとだけ室内でパソコンを打った。何にも邪魔されず、研修資料作成の思考も捗る。他人の部屋なのを忘れるところだった。
この快適な空間で、Zさんの新たな生活が始まる。どうか事故なく、快適さを感じながら生活してほしい。施設選択しなくてよかったと思えるのはもう少し先。あっという間に生活感のある部屋になるだろう。今の新鮮な空気感はもう味わえない。名残惜しさを感じつつアパートを後にした。