闇バイトの温床?ダークな世界に無自覚に引きずり込まれる小学生たち
いつだって、事の発端は日常生活のちょっとした変化にある
小3の息子は3年生になってから私の付き添い登校は卒業し、毎日同じマンションに住む5年生(男子)とエントランスで8時5分に待ち合わせし、2人で学校に通うようになっていた。同じサッカーチームの先輩でもあり、私もそのママとライン交換して、この夏休みにはお互いの子どもを自宅に招くほどの関係になっていた。
1ヶ月ほど前、その5年生のS君から突然「明日から早く学校に行かないといけなくなったから、Y(息子)とは一緒にいけない」と告げられた、と息子がしょんぼり帰宅。
息子の小学校は安全性の観点から「8時10分〜20分の10分間に登校すること」と決められていて、それより早く校舎に入ることは禁止されている。万一早くついても下駄箱までしか入れない。だから息子はS君に一方的に振られた後も、途中まで私が付き添う形で、今も自宅を8時5分に出ている。
次にちょっとおかしいな、と感じたのが夫からのLINEだった。
毎朝7時45分に家をでる夫が「今朝エレベーターでS君と一緒だったから、Yと行かないの?と聞いたけど、早く行かないとキックされるからって言ってた」とLINEしてきたのだ。ただし「ヘラヘラしていたし、そんな深刻な感じじゃなかったから、S君ママには報告しないように」と私に釘を刺してきたので、私も心に留めるに過ぎなかった。
数日後、もう一つ引っかかることが起こった。
習い事のサッカーのお迎え待ちで練習場の駐輪場でスマホをいじっていたら、親の送迎からは卒業しているS君のママが珍しくお迎えに来て「ちょっと聞いてよ!」と私に話しかけてきたのだ。
「どした?」
「実は学校から、さっき呼び出しあって行ってきてさ〜」
「え?なに?」
「Sがタブレット学習の時間に、全く関係ないチャットを友達としてて、先生の悪口とか、結構やばいこと書き込んでたらしくて」
「学校のタブレットって、あのしょぼいタブレットと通信環境で、授業中にチャットできちゃうの?それって学校の環境の方がまずいと思うけど」
「私も全くわかんないけど、そういうことみたい。それに、最近Y君と一緒に行かなくなっちゃってごめんね、なんか早く行きたいっていうし、とにかく口を開けばスマホとヘッドホン買って、しか言わなくて、私も一緒にいると喧嘩になるから、早く行ってもらった方がマシっていうか。とにかく5年生になってから、急にSのいろんなことがわかんなくなっちゃったよ〜」
息子たちが練習を終えて私たちのところにやってきたので、会話はここで終わり、私は「キック」のことは心に残っていたけれど言わずにいた。
夜の7時に待ち合わせする小3男子たち
別の日、またサッカーのお迎えで駐輪場で待っていると子どもたちがいつも通り笑顔で帰ってきた。息子が入っているサッカーチームは息子と同じN小学校の子が1割、A小学校が1割、その他1割、7割がD小学校という構成だ。息子も入会時は知り合いがほとんどいないので寂しそうだったが、あっという間に他校の友達を作り、今は毎回楽しそうに練習している。そのD小学校の子どもたちが「バイバ〜イ!」「また明日な〜!」と挨拶を交わしながら帰宅する中で、「じゃあ、今日7時な!」という声がちらほら聞こえてきた。「Yもよかったら7時に入って」と息子もH君に声をかけられていたが、私はなんのことかさっぱりわからないし、息子も黙ってH君に笑顔で手を振るだけだった。
帰り道、私は息子に「7時って夜の7時?なんの約束?」と聞くと、「俺もよくわかんないけど、D小の3年は夜の7時にオンラインで待ち合わせしてフォトナやってんだって」と答えた。
「フォトナ!?」
ついにきたか!!!と私は思わず声を出すも、続く言葉がなく絶句した。
フォトナとはここ数年で「小学生に一番人気」とされているゲームソフト「フォートナイト」のことだ。世界中で大ヒットしているバトルロイヤルゲームで、1人でもグループでも参加でき、ボイスチャット機能がついているのでオンラインでチャットや通話をしながら人を殺していくという内容らしい。
実はこのゲーム、表現が過激で、特に戦闘シーンはあまりに暴力的かつ残忍ということで日本では2021年に年齢制限(CREO青=15歳以上を対象)がかかっている。とはいえ時すでに遅し。すでに浸透してしまっているので、その辺にいる小学1年生でもやっている子はやっている。
息子はやっていない(持っていない)ので、このゲームがどれほど問題なのか、私もわからないが、同じサッカーチームのA小学校の保護者が「A小ではフォトナは禁止されていて、フォトナ以外でもオンライン上で待ち合わせをして一緒にゲームすることも禁止されている」と教えてくれたことがあった。息子が通うN小では特に禁止など聞いたことがないので、同じ区の同じ公立小学校でも対応が異なることに驚いた。そこで「フォトナ 学校 禁止」で検索してみると「一律に禁止は無理」「一企業の製品を学校が禁止にはできない」など、さまざまな意見にリーチしたことを今でもよく覚えているし、Voicyの教育系チャンネルでも「フォトナをはじめてから子どもが乱暴になり困っている」ということが今でも時々話題になる。
もう他人事ではなくなった。息子8歳。3年生も後半に入り、ついに「フォトナのためにオンラインでの待ち合わせに誘われる」ところまで来てしまった、のだ。
幸い(?)息子はミジンコメンタルで、暴力的なものが全部ダメ。
「俺はまったくやりたいと思わない」と、今はフォトナに1mmも興味を示さず、ゲームそのものも、持ってはいるけれど週に数回30分程度、ポケモンやマリオを私と楽しむレベルだ。
そしてつい先日。
息子が「ママ〜今日はすご〜く久しぶりにS君と一緒に帰ってきたんだよ〜」と教えてくれた。息子の話だと「S君は最近フォトナをはじめて、それで忙しくなってしまった、間違えて勝手に課金してしまいママにこっぴどく叱られた、ついていかないとキックされる」そんな話をしてくれたそうだ。息子からこの話を聞いて、私の中で全てがつながった。S君はフォトナをはじめてチャットを覚え、お友達からキックされるのを恐れているのだ、と。
「黙れ」「うぜー」「いっぺん死んで」「マジ死んで」「お前キックな」
フォトナの問題点は多数あるが、私たち親の懸念事項の一つが「子どもたちの言葉遣いがとんでもなく悪くなる」ということだろう。このゲームをやりだすと子ども達はどんなに良い子でも「黙れ」「うぜー」「いっぺん死ね」「マジ死んで」「殺す」「消えろ」「お前誰?(知っている仲間でも)」等の言葉を、ゲーム中ずっと口にし続けるというのだ(どんなゲーム?)。
これをボイスチャットでやり合っていたら、親は当然心配になるし、ヘッドホンを付けながらこんな野蛮な言葉を我が子がずっと口にしていたら親子で頭がおかしくなるだろう。
何よりフォトナでは「あいつ(お前)キックな」という言葉がよく使われるらしい。これは「蹴り飛ばす」の意味ではなく「仲間はずれにする」という意味。夫がS君から聞いていた「キックされる」はおそらく、こちらの意味だったのだ。ネット用語として調べると「リーダーによる強制退場」と出てくる。今、小学生たちは「キック」を最も恐れていて、キック(仲間はずれ)は死に値するという。
2022年、フォートナイトの運営会社である米国のエピックゲームズは米国連邦取引委員会(TFC)から日本円でやく710億円の制裁金の支払いを命じられているということが日本でも小さくニュースになっていた。実はこの時に私は「ダークパターン」という言葉に出合っている。しかし当時は自分ごとになっておらずスルーしてしまった。
FTCはエピックゲームズに対し「フォートナイトを通じて13歳未満の子どもの個人情報を保護者の同意を得ずに収集、これは児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)に違反」、「初期設定で音声やテキストチャットを使えるゲームの仕様が児童や10代の若者が見知らぬ人とオンラインでつながり、いじめや脅迫、嫌がらせを受ける要因になっている」、「意図しない課金を促すようなゲームデザインの違法性」つまり、ダークパターンについてNGを突きつけた。現状エピックゲームズ社は「ペアレンタルコントロール」などの強化などで改善を図り真摯な改善姿勢を見せているが、ユーザー(子どもたち)への悪影響が改善されたようには見えない。特に日本においてはダークパターンの法規制は整っておらず、野放しだ。
不快なエロ広告も「ダークパターン」
つい先日、春木義且先生のVoicyでも「インターネットにおけるダークパターン」と「闇バイト」の関係性が指摘された。ダークパターンを支えるファクターに「知的脆弱性」「理解力の脆弱性」「意思決定の脆弱性」「思い込み」「消耗やプレッシャー」「感情的脆弱性」「依存性」が活用されている、と。そしてこれに該当するのが「情弱」と呼ばれる人たちで、「若者の社会的出来事への関心の薄さも関係しているのでは」と推察されていた。「闇バイトに落ちる若者は、社会的出来事に興味を持たない情弱に多く、ダークパターンの餌食になっているのではないか」。確かにそうだと思う。
そして事態はもっと深刻だ。社会的事件に興味など当然持つはずもない、わずか12歳以下の子どもたちが、大好きな「ゲーム」の世界で「ダークパターン」に引きずり込まれている。
フォトナの場合、言葉遣いが悪くなるだけでなく、課金や仲間連れなど複数の問題点があるが、実はポケモンやスーパーマリオブラザーズなど、牧歌的なゲームにも落とし穴は潜む。
個人的に「(ゲームの)攻略法を知りたい」と思うところに落とし穴があると感じている。昔は「攻略本」という書籍が売っていて、親に頼んで購入し、友達と貸し借りしていた。
しかし今は「ググる」が基本。我が家の場合、息子はスマホを持っていないので、私のスマホを使って息子が音声で検索する。例えば「Hey Siri、ポケモン、スカーレット、第二ステージ、勝ち方について調べて」など、息子が私のスマホに語りかけると画面に一覧で出てくる、という大人と同じ使い方だ。
ところが、開いた先のページの上中下に頻繁にエロ漫画広告が登場する。このエロ漫画広告、8歳の息子には見えていないのか?というほど今は興味を示さないが、そのうちクリックするだろうし、何より間違えてクリックすることだって絶対にあるはずだ。これも典型的なダークパターンだろう。
奴等は子どもたちが無自覚に課金することや、脅されたらどうしようという不安やパニック、あるいはアダルトコンテンツ中毒になることを心から望んでいる。現状、こういった不快な広告ページが表示されないように、私はYouTubeも課金し、ポップアップをブロックし、コンテンツブロッカーなどのアプリを使うなど、さまざまなことを試しているが、正直イタチごっこで完全に排除することはできない。
そもそも子どもは未熟で未発達
ダークパターンから守るべき存在のはず
何歳までが子どもで何歳から大人なのか、という議論はここではしないが、そもそも子どもとは「知的に不完全で」「理解力がなく」「意思決定も1人ではできず」「思い込みが激しく」「消耗やプレッシャーにも弱く」「感情的になりやすく」「依存症になりやすい」生き物だ。つまり「ダークパターン」とは「子どもの特性」に付け込んでいる、と言い換えられる。
不完全で未熟な子どもたちを、大人たちが意図的に陥れ欺き、金儲けをしているようにしか見えない。真っ当な大人は何をすればいいのか? 何ができるのか?
人として未熟というだけでなく、脳がまだ十分に成長していない小学生の子どもたちが、今日も無自覚にダークパターンに足を引きずられているのだ。