デーモン小暮閣下、本日唯一の正しい行い

世の中には二種類の人間がいる。
飛行機に乗り遅れたことのある人間と、ない人間だ。

二リットルの冷や汗、遅れてしまったささいな原因が脳内で繰り返し再生され、カウンターの前で立ち尽くていると空港職員の冷たい目、あの目で
「次の方どうぞ」と雑に押しやられるあの感じ・・・。

同じ目に遭った人たちとなら、うまくやっていける気がする。
あの強烈な絶望感と心細さを共有できる仲間となら。
乗り遅れた原因を反芻して、おのれの怠惰を責め続けたよね、わかる。
もう旅行なんてやめて、家で3日間ふて寝しちゃおうかなーって思ったよね、わかる。

割高航空券を買い直し、痛い出費に血の気を引きながら次の便を待つ間、
最悪なこの気分を旅に持ち込まないように気持ちを切り替えようと顔を上げる。

楽しむための旅なのだ。
もう空港についてるんだから、次の飛行機に乗り遅れる確率は０パーセントなわけだし。
気持ち的には死んだと思ったけどまだ生きてるじゃん、私。

いつか笑い話になるだろうと思いながら、機内荷物の重量オーバーで外国人と職員がけんかしているのをぼんやり見る。

その時、超薄型テレビにデーモン小暮が出ているのが目に入る。

私は今このタイミングで膝からがっくり落ちることが、今日初めての正しい行いなのかも、と、とても思ってしまったのだった。