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まだ辿りつかぬ。アテネを目指して、移動につぐ移動

あまり事前リサーチせずに思いつきで決めた1ヶ月の欧州芸術祭めぐり。最初の誤算は、ギリシャ・アテネで開催中のドクメンタ14の会期だった。

いつもはドイツ・カッセルで開催されるドクメンタだが、今年はカッセルに加えてアテネも会場都市に指名されている。サテライトやフリンジなどではなく、コンセプトにおいてカッセルとアテネは全く等価に扱われるという。そして、アーティスティックディレクター、アダム・シムジックが掲げるドクメンタ14のテーマは「アテネから学ぶ[Learning from Athens]」。一足先にドクメンタ アテネを観てきた友人のライターも「アテネは絶対に行ったほうがいい」と熱を込めて教えてくれた。もうアテネにいかない理由を見つけるほうが難しい。

それなのに、ドクメンタ アテネの会期は7月16日まで。 秋までやっているものを勝手に思い込み、「旅の始めはドイツをゆっくり」と考えていたプランをさっそく覆された。アテネが最優先だ。

この「ドクメンタ」という芸術祭は、1955年に始まり、現在ではほぼ5年に1度開催されている現代美術の大規模国際展である。アーティスティック・ディレクター(芸術監督)制度を導入しているのが特徴で、展示テーマや参加作家を選出・決定するディレクターの権力は大きく、毎回その手腕に賛否両論が湧き上がり、人々の注目と活気が満ちる芸術祭なのだ(前回 2012年のドクメンタ13には180名の作家が参加。観客動員は86万人)。

また、社会課題や政治に鋭い問いを投げかける作品が多く選出されるのも、ドクメンタの特徴である。ドクメンタ14が、「アテネ」を主要テーマにするのであれば、近年のギリシャの苦境を、ディレクターのアダム・シムジックがどうとり扱っているのかが気にかかる。

アダム・シムジックは、現代ギリシャの困窮には、EUという経済構造下における連帯のみならず、欧州各地が通底して抱えている何かがあると読み解いているようだ。ドクメンタ14の作品群が、経済動向のニュースのみでは語られない、欧州の人々の営みのなかに隠されている思想が葛藤が、社会や国策、国同士の関係性において、どんなプロセスを生み出しているのかをあぶり出すことに期待したい。

21世紀になったいまでも「芸術は愛と美と性の女神・アフロディーテに捧げられるもの」という、一種の哲学が存在し続けている。人間の営みのもっとも古い時代に、芸術が豊かに花開いたアテネにおいて、2017年のいま、現代の芸術表現はどう響くのだろうか。

今日もまた、丸一日かけて移動し、夜にはアテネの宿にたどり着く予定だ。


ドクメンタ14
アテネ 2017年4月8日 - 7月16日
カッセル 2017年6月10日 - 9月17日
http://www.documenta14.de

アダム・シムジック/Adam Szymczyk
1970年生まれ。批評家・キュレーター。ドクメンタ14 アーティスティック・ディレクター。(英字はwikipediaより)
Szymczyk studied art history at Warsaw University. In the 1990s he participated at the curatorial education of Amsterdam's art centre De Appel. In 1997 he co-founded Fundacja Galerii Foksal (Foksal Gallery Foundation) in Warsaw. Since 2003 he has been the director of Kunsthalle Basel. In 2008 he was co-curator of the 5th Berlin Biennale. Szymczyk, who the New York Times called a "superstar among curators"  was presented on November 22, 2013, as the artistic director of Documenta 14.

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