キュリナリーズのポトフ11
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漆黒の霧は瞬く間に立ち込め、たちまち姫を覆い姿を隠す。
霧はやがて規則性を帯び、姫を中心に竜巻の如く渦を巻いた。
姫が立っていたそこは明らかに強大な力場となり、人が知覚することは適わぬ速度で破壊と創造が繰り返された。
いつの間にか、それは姿を消していた。
姫は果たしてどうなったのであろうか。
事の行く末を知るには、幾分かで十分だった。
漆黒の霧は徐々に白みがかって鈍色となり、白濁色となり、シルクのような光沢を帯びたときには速度を失って霧消した。
姫はそこに…いた。
あれだけの暴風の中心にいたにも関わらず、体が欠損することは愚か、白雪の肌には何一つ傷がついていなかった。
だが、その様相に明らかな変化があった。
姫を脅かし誘惑したそれの頭部が、まるで動物の剥製のように姫の左肩に乗っかっていた。
肩当てのような装飾に違いないが、まるで姫の耳元でいつでも甘言を囁くためとも思われる。
身に纏うのは霧消した煌めく白い霧と同じ色と輝きをしたドレス。
正面から見れば高貴な装いに見られるが、裾は木の枝のようにやぶれかぶれになっていた。
その枝分かれは、それの脚と同じ10あった。
冬を受肉したかのような美しさは変わらず、姫の面影は確かにあった。
だが、その瞳には、姫が恐れおののいたそれと同じ禍々しい闇を宿していた。
姫とそれがいた広間は、まるで儀式が終えたかのような静寂を迎える。
姫が瞳を閉じると体が宙を浮きはじめ、森の木々の倍ほどの高さになったところで瞳を開き、水平から並行に移動を変えた。
彼女は自分が生まれ育った国に向かう。
――つづく
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