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『薬草を食べる人びと』を読んで|岐阜県飛騨市のまちづくり

薬草によるまちづくりに挑戦する岐阜県飛騨市。岐阜県の最北端に位置し、総面積の94%を森林が占める自然豊かな市です。縁あって、私はここ数年間何度も取材に行かせてもらっています。

飛騨の森の約7割がブナ、ナラ、サクラといった落葉広葉樹で、いろいろな養分を含んだ落ち葉や木の実が長い時間をかけて土壌の栄養に変わるためか、飛騨には245種類もの薬草が自生しています。

薬草体験ができる拠点「ひだ森のめぐみ」

昔から人々は、ドクダミ、ヨモギ、オオバコなどの薬草から得られる薬効を体に取り入れてきました。そんな自然の恵みと先人の知恵を受け継ぐ飛騨市は、薬草を地域資源として活用し、市民の健康づくりと地域の新たな魅力づくりを目指す「飛騨市薬草ビレッジ構想」を推進しています。

飛騨地方には、合掌造りで有名な白川村、小京都として知られる高山市、温泉地として人気の下呂市がありますが、飛騨市はそれらとは異なる「薬草」という切り口で、唯一無二の地方創生に挑んでいるのです。

野草茶のブレンド体験

飛騨市の薬草によるまちづくりがおもしろいのは、官と民の垣根を超えて、人びとがいろいろな形で携わっているところ。行政だけではなく、住民、企業、支援者(関係人口)が、それぞれの立ち位置で、エネルギッシュに“薬箱”のようなまちづくりに取り組んでいます。

都竹淳也市長をはじめとする飛騨市役所の薬草チーム、薬草愛好団体「山水女(さんすいめ)」、薬草会席旅館「蕪水亭(ぶすいてい)、かわい野草茶研究グループ、絵手紙ボランティア フレンズ……。

かわい野草茶研究グループの野草茶

私は複数回の取材を通して飛騨市役所の薬草チームの方々とお話をしましたが、みなさん、職務だから薬草に携わっているのではなくて、驚くほどの愛と情熱を薬草に注いでいるのです。

「そこまでする?」と思うほど薬草にのめり込み、薬草について聞かれると目を輝かせて饒舌になります。取材ライターである私も自然とその熱に影響され、仕事の枠を超えて薬草に興味を持つようになりました。

『薬草を食べる人びと』(垂見 和磨 著/世界文化社)

そんな飛騨市の薬草によるまちづくりの取り組みを、関係者への綿密な取材をもとにまとめた本が『薬草を食べる人びと』(垂見 和磨 著/世界文化社)です。2024年10月の発売前から重版が決まるほど各方面からの関心が高く、発刊後は全国学校図書館協議会の選定図書にもなっています。

岐阜県飛騨市は、高山市と白川村にはさまれた2万人のまち。
245種類の薬草が自生するこのまちで、人びとはどんな薬草を食べ、使い、暮らしに取り入れているのか。薬草は市民たちの健康づくりに一役買うだけでなく、交流人口や観光、商品開発につながり、経済効果ももたらしている。
市民がよく使う薬草事典や実践レシピ、移住者の薬草ライフ、料理人の薬草会席などカラー写真も豊富で、野草やハーブ好きにも役立つ一冊。

世界文化社グループ『薬草を食べる人びと』内容紹介より
爽やかな香りを放つクロモジの枝とクロモジティー(FabCafe Hida)
  • 第1章 薬草が息づくまち

  • 第2章 薬草のまちづくりに挑む

  • 第3章 飛騨の〝葉っぱビジネス〟

  • 第4章 薬草と共に生きる

  • 第5章 薬草料理を伝える

  • 第6章 人をつなぐ薬草の絵手紙

  • 第7章 広葉樹を活かせ

  • 第8章 安全・安心を担保する

  • 第9章 市民の健康と福祉を守る

「薬草って何なの?」「薬となにが違うの?」「どうして体にいいの?」「どうやって生活に取り入れたらいいの?」といった一生活者としての視点で読むのも楽しいですが、「まちづくりの物語」としても興味深いです。

薬草というものは地味に見えるかもしれません。でも、薬草を通じて人びとの熱が伝播していく様子は、読む人を大いに惹きつけます

蕪水亭OHAKOの薬草ランチ

個人的には、過去に取材でお話した人びとや行ったことがある場所、食べたことがある薬草料理やお菓子がたくさん登場するので、おおっと思いながら読み進めました。

(以前、飛騨市役所職員の中村篤志さんが個人的薬草コレクションを持ってきてくれたことがあり、114ページのコラムでその“中村コレクション”が紹介されているのは個人的にツボでした……!)

乾燥させたクズの花

葛根湯で知られるクズの花は、乾燥させて粉末にして飲むと、酒を飲んでも二日酔いしないと言われています。タンポポの葉は胃を元気に、ユキノシタは炎症にいいそうです。そして、豊富なミネラルを含むヨモギは、食べたり、お風呂にいれたりと、女性にとって万能の薬草なのだとか。

私はつい先日、実家で年末恒例のお餅つきをしてきたのですが、妹が野山で摘んできたヨモギを混ぜ込んだ蓬餅が本当によい香りでおいしかったです。

薬草は薬ではないけれど、さまざまな不調に寄り添ってくれる頼もしい存在です。胃がもたれやすい、お酒が翌日に残ってしまう、手先足先が冷たい、しもやけができやすい、健康診断がこわい……。思い当たるフシがあれば、もしかしたら、薬草が助けになってくれるかもしれません。

薬草について知りたい方も、薬草によるまちづくりに興味のある方も、ぜひ『薬草を食べる人々』を手に取って読んでみてください。読めば薬草に関する知識が身につき、きっと飛騨に足を運んでみたくなるはず。

「飛騨市ってどんなまち?」と気になったら、2024年夏に私が取材・執筆した飛騨の紹介記事をどうぞ。

(本記事で紹介している『薬草を食べる人びと』は、飛騨市まちづくり観光課よりご恵贈いただきました。)

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