退職の練習⑫私の不思議体験
教師生活の終わりにかけての鑑賞会で、生徒にお題を投げてみた。
作品について語る前に、ちょっと、自分のことをスピーチして、相手の興味を引くと、相手がよく話を聞いてくれるんだよ?と、生徒に教えた。
それは、偶然、ある生徒が「こんにちわ!」と元気よく聴衆に挨拶してから話し始めた体験から来ている。その時、そのクラスでは、すべての発表者が「こんにちわ!」と挨拶をし、聴衆も、「こんにちわ!」と挨拶を返してから発表が始まったのだ。
場が整うと言うのだろうか。
発表する側も、聴く側も、どちらも互いに興味を持っている印象。
思えば、この鑑賞会で、自分の作品を発表するという体験、得意な人も不得意な人もいて、当たり前なのであるが、鑑賞会を設定して、みんなに無理やり発表させると、生徒は、発表がうまくなりたいと思うようなのだ。
そこまで深く考えて作品を作っていたのかという驚きもあるし、他人が思わず話を聞いてしまう話し方についての勉強にもなる。
私自身、生徒の発表を見て、聴いて、沢山の気づきがあった。
落語で言ったら、これは枕という部分なのだろうが、この枕が、美術の鑑賞会を面白くするコツでもあると気づいた。
そこで、1回目の枕のお題は、ただの挨拶。
「こんにちわ!」でも「おはようございます!」でも、なんでもいい。
2回目、ちょっとハードルをあげる。挨拶でよい。
ただし、全員かぶらないものにすること。
かぶった時を想定して、5個ぐらい考えておきなさい。
このあたりから外国語や、ギャグ、ちょっと怪しい挨拶が出てくる。
3回目、全員かぶらないものは当然。
ちょっと自分のことを話すと、絶対かぶらないんだよ。
「最近、授業で寝なくなったあやのんですとかさ」とアドバイス。
そのうち、その鑑賞会の時期に合わせて「私の夏休みの思い出」とか「テストの結果」とかお題を投げるようになった。
最後の年はお題を選べるようにしてみた。
「5回テスト」か、「私の不思議体験」のどちらかについて話して!
ほとんどの生徒が「5回テスト」について話すのだろうなと思っていたが、意外に「私の不思議体験」について話す人も多くて、そういう話って、ケッコウみんな持ってるんだ!と興味深く思った。
そして不思議な体験って、話として心に残る。
生徒から聞いたテストのエピソードはほとんど忘れてしまったが笑、
不思議体験はいくつか心に残っている。
「僕は、テストと不思議体験について話します。
最後のテスト頑張ろう!と思って勉強をしていたんですが、
はっと気が付くと、いつの間にか2時間経っているんです。
おかしいな、このままじゃ、勉強が終わらない・・・と勉強を始めると、
また、はっと気が付くと2時間が経っていました。
ほんとうに不思議な体験でした。」
みんな大笑い。
ただ、寝落ちしていただけの話を、不思議体験にまで昇格してしまった。なかなかの知恵者と見た!座布団、1枚!
海で買ったばかりのメガネを落としたら、遊びに行った祖父の家で、発見した話。孫からメガネを無くしたと聞いたじいちゃんが、たまたま海辺で仕事をしている知り合いの人に聞いたら、落とし物にメガネがあったので、借りて持ち帰ってみたらしい。この子は、前も、自分はばあちゃん子だ、と話していたので、じいちゃんばあちゃんの家で昔からよく遊んでいた少年なんだろうな、と背景がうかがい知れる。
一週間、とにかく、ドライヤーとかいろんなものが壊れて、どうしてこんなに立て続けに起こるのか?と家族みんなが不思議に思っていたら、一週間後に、母の大事な友人が亡くなったという話。
ある日、なぜか家の中で太鼓の音が聞こえる。その音が、テレビの方からとか、台所からとか、場所を変えていろんなところから、聞こえてくる。
不思議に思っていると、お母さんが、「あ!今日、神棚に水をあげるの忘れてた!」と言って、水をあげたら、太鼓の音が止んだという話。
神様、太鼓叩いてた?笑
ある日、冷蔵庫から、かまぼこが無くなった。お母さんが、言った。
「おじいちゃん、かまぼこ好きだったからね。おじいちゃんの仕業かもね」
次の日、包丁が無くなったと言う。
思わず、「おじいちゃん、かまぼこ切りたくなったんじゃね?」
と私がツッコミを入れてしまった。
ちょっとこれらの話を聞いていて嬉しかったのは、
生徒と私と年代は45年ぐらい隔たっているけど、不思議なことや、亡くなった人、神様への感覚は意外に近いものがあるんだなと言うこと。
目に見えないものと自然に彼らも一緒に暮らしているんだ
と言うことが心に残った。